※本ページ内の情報は2026年9月時点のものです。

”ものづくり”を軸に、「日本の中小製造業を世界の中核へ」という壮大なミッションを掲げる株式会社サンケイエンジニアリング。同社は新卒採用においていわゆる”面接”は行わず、志望動機やガクチカも一切問わない。代わりに実施するのは他社と一線を画す完全オリジナルの選考プロセスだ。候補者のありのままの姿を捉え、会社と候補者双方の「納得感の醸成」に重きを置いた選考手法はどのように生まれたのかその裏側にある同社の歴史、仕事における”人”への考え方について、代表取締役の笠原久芳氏に聞いた。

「用意された言葉」では見抜けない! 4つの独自試験で見る「成長の素地」

ーーなぜ一般的な面接を行わず、独自の選考プロセスをとるのでしょうか。

笠原久芳:
出発点は、私たちが目指している育成の姿にあります。知識や経験だけに頼らずゼロからモノを生み出す、つまり新しい価値を創造することができる人財を育てる。これが私たちの根幹です。そのため採用では成長の幅、拡張性といった未来の可能性を最重要視しています。過去の実績、あるいは現時点で何ができるかは全く重視していません。

しかし一般的な面接で出てくるのは、候補者が過去の自分・今の自分を基に生み出した取り繕った回答だけです。人としてのありのままの姿を見ることはできませんし、ましてや本当に成長する素地を持っているかは絶対にわかりません。だからこそ、私たちは4つの試験を実施します。候補者が社会人として通用するか、そして成長する素地を持っているかを見抜くため、自社で試行錯誤し創り上げたオリジナルの試験です。

ーー新卒採用で実施している「4つの試験」の具体的な内容を教えていただけますか。

笠原久芳:
1つ目は、製造に用いる装置を用いた作業プロセスの再現(トレース)試験です。具体的には、まず社員が説明も交え一連の手順をお手本として見せます。候補者には、そのプロセスを観察しながら、途中で自由に不明点や疑問点を質問してもらい、最終的に全く同じ作業を再現してもらいます。ここで見ているのは、単なる手先の器用さではなく、物事の構造や本質を掴む観察力、教えられたことを素直に吸収して自分のものにする力、いわば「教えやすさ」です。この基礎的な素地がないと入社後に成長していくことが難しいため、一定の基準に到達しない場合は採用しません。

2つ目のブロック試験は、相手の手元が見えない中で言葉だけで説明・質問しブロックを組み立てるという内容で、伝える力と聞き出す力、つまり仕事における「コミュニケーション力」を評価します。3つ目の野球試験は、論理的思考力を測るものです。「Aさんは〇〇」「Bさんは〇〇」といった断片的な条件を組み合わせ、整理しながら9人全員のポジションを導き出してもらいます。複雑な情報をロジカルに整理し、自力で正解へたどり着く力を見ています。4つ目のプレゼン試験では、発想の柔軟性や拡張性、それを具体的に計画や行動へ落とし込むプロセスの緻密さなどを見ています。

入社前に築く「信頼の土台」 残るのは解決すべき課題という事実だけ

ーー試験の結果を踏まえ、どのように採用を最終決定するのですか。

笠原久芳:
選考である以上もちろん合否は判定しますが、単純に出来た・出来なかっただけでなく、どんな課題があったのか、その課題は修正できるのかを重視しています。そのため合格、内定を出す方にも、試験を通して見えたことを包み隠さずお伝えします。「あなたの苦手なところ」「仕事開始時に壁にぶつかるところ」「真っ先に修正することになるところ」も正直に伝え、納得してから入社を承諾してもらっています。

長所だけの人など絶対にいません。必ず課題も同時に存在しており、仕事をしていれば必ずやその課題に直面します。あらかじめその事実を伝えておけば、入社後に「そんなこと聞いてない」「こんなはずじゃなかった」とはなりません。予想できていたこととして課題克服に取り組むことが出来るため、結果的に成長速度も早くなります。企業側からすれば手間と時間がかかりますが、入社前の時点で納得感を醸成し、腹をくくって働き始めてもらえるからこそ、入社後のミスマッチを防ぐことができるのです。

ーー厳しい事実の事前共有は、入社後の働き方にどのような影響を与えますか。

笠原久芳:
入社前の時点で関係性の土台が醸成されているからこそ、仕事を開始したときには「解決すべき課題」という事実しか残りません。私は、社員に対して「信じる」という言葉を使いません。相手を信じる、信じないという感情そのものが不要になるからです。伝えるのは「あなたにはそれを乗り越える資質がある」という事実であり、ゴールに到達するまでに何をしなくてはいけないかにフォーカスする。採用の段階で、その状態をつくっておくということです。

「他社が断る仕事を受ける」歴史が、採用への妥協を許さなかった

ーー独自の採用手法に行き着いた背景には、どのような歴史があるのでしょうか。

笠原久芳:
弊社が手がけるコンタクトプローブ(電気測定用の精密部品)は、他社と異なる強みを持つ独自構造のため、電気測定の世界で「他社に断られた難題」が全国や世界中から次々と持ち込まれます。いわば、業界の「最後の砦」のような存在で、弊社が断ればお客様の行き場がなくなってしまうため、創業当初から他社が断る厳しい仕事も「できない」と投げ出さずに最後までやり抜くことを徹底してきました。この「できない」と言わないスタイルを磨き続けたからこそ、目の前の課題に逃げずに挑む姿勢が弊社の文化となり、その文化を支える人財を見極めるための妥協のない採用手法へと行き着いたのです。

ーー妥協を許さない環境において、具体的にどのような人財を求めているのでしょうか。

笠原久芳:
今はできなくても、できるようになるための方法を探し続けるのが私たちの文化です。「こうすればできるかもしれない」と考え、逃げることなく挑む人を採用しなければなりません。興味や好奇心の強い人、自責で物事を考えられる人、論理的思考の出来る人、などが代表的な要素でしょうか。しかしこれらを兼ね備える人は、世の中の一般的な採用の仕組みでは見つけることも選ぶことも出来ません。採用の手法においてすらも、どうすればできるのかを妥協せず模索し続けた結果、今に至る私たち独自の手法が出来上がりました。

ミッションは「日本の中小製造業を世界の中核へ」

ーー5年後、10年後、会社の目指す先を教えてください。

笠原久芳:
「日本の中小製造業を世界の中核へ」というミッションの実現に向けて動いています。そのためには、私たちの会社そのものが、あらゆる企業のサポートができるお手本のような集団にならなければいけません。自社で仕事ができない人が、他社のサポートなどできるはずがありません。ゆくゆくは、私たちが培ってきた独自のノウハウを外部の企業へ提供することも視野に入れています。互いに納得感を醸成して働き始めてもらうこの採用手法は、他の企業にも必ず必要になるはずです。

ーー人財、採用への考え方とミッションはどのように繋がってくるのでしょうか。

笠原久芳:
ミッションの出発点は「なんとか日本の製造業を後世に残したい」という思いです。細部にこだわり、使う相手への気配りも忘れないものづくり、これはまさに後世に残すべき日本の文化であると考えています。しかし一方で「ビジネス」として見たとき、安価な諸外国の製品に押され、残念ながら日本のものづくりは主役になれていません。高いポテンシャルを持ちながら、それを活かせない状況を私は非常に残念に感じています。ではどうするか、その答えがまさに「人」であると考えています。より良い未来はどうすれば作れるか、自ら考え実行できる人の集団、そういった会社が増えれば必ずや日本のものづくりは再び主役となれるはずです。これが、私たちが採用・育成に絶対手を抜かない理由なのです。

編集後記

サンケイエンジニアリングの採用は、候補者の表面的なスキルを取り繕うことを許さない。面接ではなく独自の試験を課し、徹底的なフィードバックを通して入社前に「納得感」を醸成する姿勢には、人を育てることへの並々ならぬ覚悟を感じた。決して「できない」と言えない過酷な現場を生き抜いてきたからこそ、きれいごとではなく、目の前の課題と真摯に向き合う強さが求められるのだろう。最も胸を打たれたのは、売上高や規模の追求よりも、個人やチームの能力を最大限に引き出すことに真価を置くブレない姿勢だ。同社が磨き上げた「成長の素地」を見極める力は、自社のみならず、今後の日本の中小製造業全体を力強く牽引していくに違いない。

笠原久芳/大学でバイオ研究に取り組んだ後、1989年に株式会社サンケイエンジニアリングへ入社。コンタクトプローブの設計・製造に携わり、未経験ながら金属加工に挑戦。1996年に自社工場(初代技術センター)を設立し、現在は横浜市都筑区に技術センターを構える。日本の製造業の重要性を実感し、「日本の中小製造業を世界の中核へ」というミッションを掲げ、2022年に山梨県北杜市に「M&T BASE HOKUTO」を設立。現在はカンボジアでの工場建設を計画している。