
「ハウスドゥ」のブランドで、全国に733店舗(2026年6月期末時点)のフランチャイズネットワークを持ち、不動産売買から金融事業まで多角的な展開を見せる株式会社And Doホールディングス。「不動産業界を変える」という創業者の理念を引き継ぎ、独自のビジネスモデルで成長を続けている。就職氷河期に当時、零細企業だった同社へと飛び込み、数々のターニングポイントを乗り越えて2024年に代表取締役社長へと就任した冨永正英氏。同氏にこれまでの軌跡や、業界の常識を覆す「不動産コンビニ構想」、そしてこれから乗り越えるべき次なる目標について話をうかがった。
「大きな会社をつくる」挑戦の始まりと 先輩退職の危機を救った「役割分担」
ーーまずは、貴社に入社された経緯をお聞かせいただけますか。
冨永正英:
私が就職活動をしていた当時、100社以上の会社説明会に足を運んだ中で、「どうしてもこの会社に入りたい」と最も強く惹かれたのが弊社でした。その理由は、創業オーナーである安藤会長の「業界を変える」という熱い言葉に強く感銘を受けたからです。
当時の不動産業界は今よりもダーティーなイメージを持たれており、私自身も母親から入社をずっと反対されるような状況でした。しかし、淡路島という地方出身の私には業界に対する先入観がなく、「お客様が安心して売り買いできる世の中に変える」という思いに素直に惹かれたのです。その上で「大きな会社に入るか、そういう会社をつくっていくか」と問いかけられ、大きな会社をつくっていくという挑戦にぜひ参画したいと強く思い入社を決意しました。
ーーご自身にとって最初のターニングポイントとなった出来事は何ですか。
冨永正英:
入社して丸1年が経ったときに、既存の先輩社員の多くが退職してしまったことです。会社が成長と拡大路線に舵を切る中で体制が大きく変わるタイミングであり、残された若手ばかりの環境でこれからどうなるのだろうという不安もありました。しかし、私は若かったこともあって、「自分たちの手で試行錯誤しながら会社を動かしていける」というワクワク感の方が強く、まずは人数が減ってしまった現場をどうにか立て直そうと前向きに取り組むことができたのです。
ーー人数が減ってしまった現場をどのように立て直したのですか。
冨永正英:
徹底した「役割分担」を行うことで乗り切りました。入社2年目に店長へ就任したのですが、その際の店舗のメンバーは新卒や時短勤務の女性社員を含む5人でした。そこで、1人のお客様を最初から最後まで担当するワンストップの営業スタイルを捨てて、新卒社員が集客と物件調査を行い、私と同期がアポイント獲得と書類作成を担う。そして、ベテラン社員がクロージングを行うという方法を取ったのです。このように個々の強みを活かした役割分担を完成させたことで、少人数でも成果を上げ、組織全体を見渡せるようになりました。その後、このノウハウを活かしたフランチャイズ展開に成功し、会社は上場へと進んでいきます。
上場時の役員退任 挫折から学んだ「組織で勝つ」マネジメント

ーー会社が成長していく中で直面した、困難な出来事についてお聞かせください。
冨永正英:
東証マザーズ上場(現在は東証プライムに市場変更)を果たしたタイミングで、私自身の力不足により、一度役員を退任することになりました。当時の私にとってマネジメントは「営業の延長」であり、たまたま新卒1期生として売上高を上げていたことが評価されていたに過ぎませんでした。ですから、本質的な経営や再現性のある組織づくりができていなかったのです。この大きな反省が、「相応しい人間になろう」と誓うリスタートのきっかけになりました。
ーー役員退任からのリスタートは、どのような道のりだったのでしょうか。
冨永正英:
退任後まずは、新たに「ハウス・リースバック事業部」というわずか5人だった部署の立ち上げを任されたことから始まりました。当時はまだ幼い子どもがいたこともあり、落ち込んでいる余裕などありませんでした。とにかく家族を守り、食べていくために必死で取り組む中で、ここでも若手の頃に学んだ役割分担を徹底したのです。各事業部から集まったメンバーの強みを見極め、適材適所にパズルを当てはめるようにして組織を回していきました。結果的に安藤が考えた事業モデルが市場のニーズに合致したこともあり、最大で200人規模の所帯にまで拡大させることができました。
身の引き締まる社長就任 次なる使命と「3つの柱」が持つ強み
ーー挫折を乗り越え、2024年に社長に就任された際のお気持ちはいかがでしたか。
冨永正英:
ただただプレッシャーを感じ、身の引き締まる思いでした。実は1、2年ほど前から、会長からは叱咤激励の意味も込めて「いつか社長にならなければならない」と言葉をかけられていました。ただ、私自身はまだ3、4年先、あるいはせめて1年後の話だろうと考えていたため、突然「社長をやらないか」と打診されたときは本当に驚きましたし、嬉しいという感情よりもプレッシャーの方が大きかったのが正直なところです。とはいえ、「職責が人を育てる」というのが安藤の考え方です。私にはまだ相応しい力は備わっていないかもしれませんが、一旦チャンスを与えられ、それに相応しい人間になれるかどうかを試されているのだと前向きに捉えています。
ーー社長として、現在どのようなミッションを掲げていらっしゃいますか。
冨永正英:
私のミッションは、安藤がこれまでつくり上げてきた「お客様のための業界へと変革していくこと」をさらに推し進め、現実のものにしていくことです。どのような会社にしたいかと問われれば、やはり安藤の意志を継ぎ、お客様主体の理想的な会社にすることに尽きます。
また、上場企業として企業価値を上昇させ、ステークホルダーの皆様へ還元していくことも、決して切っても切れない絶対的な使命だと考えています。社長に就任してからの約2年間、その理想に向けて試行錯誤する中で、現在はさらなる成長に向けた「新たなテーマ」に挑んでいるところです。過去に子会社の責任者を務めていたときも同じように目標を乗り越えてきましたが、今目の前にある課題も単なる行き止まりではなく、「成長のために超えるべきゴール」であると前向きに捉えており、どう攻略して登ろうかとやりがいを感じているフェーズです。
不動産と金融の掛け合わせで空き家問題の解決に挑む独自の強み

ーー事業における他社にはない強みについて教えてください。
冨永正英:
最大の強みは「フランチャイズ事業」「不動産売買事業」「金融事業」の3つを掛け合わせている点です。不動産売買仲介に特化した全国トップクラスの店舗網を持ちながら、自らも事業として不動産売買を行っています。さらに、金融領域であるリバースモーゲージの保証事業を展開し、単年度の件数で全国トップクラスの実績を持っています。この不動産と金融という武器を、全国の店舗ネットワークで展開できることが私たちの優位性です。
ーーその独自の仕組みが社会課題の解決にもつながっているのでしょうか。
冨永正英:
日本の深刻な空き家問題の解決に一石を投じているのが、ご高齢の方がご自宅を担保に融資を受けるリバースモーゲージという仕組みです。ご本人が亡くなられた後に、不動産を売却して一括返済する形をとるため、実際にお客様からは「親が亡くなった後、家を売却するという選択肢が明確だったおかげで悩まずに済んだ」という声をいただいています。
「不動産コンビニ構想」と地方採用が描く未来
ーー中期経営計画や、長期的なビジョンについてお聞かせください。
冨永正英:
中期的には、不動産売買の中でも「中古住宅」に特化していく方針です。物価高の影響で新築住宅の価格が高騰し、中古住宅へとターゲットを移す層が増えていることは大きな追い風です。その上で長期的には、店舗拡大をひとつのテーマとし、フランチャイズネットワークを1,000店舗まで拡大して、「不動産コンビニ構想」を実現させることを掲げています。
ーーその「不動産コンビニ構想」とは、具体的にどのようなものでしょうか。
冨永正英:
誰もが気軽に、安心して出入りできる身近な店舗を全国に設置する構想です。敷居の高い店舗ではなく、日常的に利用するコンビニのように気軽に行ける場所を目指しています。全国に店舗インフラがあれば、本部が開発したハウス・リースバックなどのサービスをいつでもどこでもお客様へ届けられるようになるのです。
ーー店舗拡大を進める中での採用や営業に関する取り組みをお聞かせください。
冨永正英:
採用面では、「地方採用にこだわるハウスドゥ」という方針のもと、地元での採用に注力しています。全国転勤を前提とせず、「地元で働きたい」という方のニーズに応えることで、地域に密着した営業組織をつくり上げる戦略です。
また、教育面では、弊社は本部でありながらまるで研修会社のように毎月膨大な研修を実施しています。最近では本部の新卒社員に向けた、配属前研修の一部を加盟店様にも開放したところ、予想を超える非常に高いニーズがありました。本部のプロパー社員と加盟店様との間で交流のシナジーも生まれており、全店舗で足並みを揃えていくことが私たちの真の役割だと考えています。
加盟店との強力な連携と次なる「目標」への挑戦

ーー「事業シナジー」という点では、具体的にどのような仕組みを構築していますか。
冨永正英:
加盟店様との合理的な連携システムが挙げられます。資金力が必ずしも潤沢ではない加盟店様に代わって本部が物件を買い取り、リフォーム等の加工を施した上で、再び加盟店様に販売をお任せするサイクルを構築しています。自ら不動産仲介会社を回って飛び込みで仕入れるのではなく、同じ「ハウスドゥ」の看板を掲げる同志から案件が集まる仕組みは、他社にはない合理的なビジネスモデルです。
ーー最後に、次なる成長に向けたテーマと、今後の展望をお聞かせください。
冨永正英:
現在、私が「超えるべきゴール」としてやりがいを持って挑んでいるのが、「フランチャイズ」「不動産売買」「金融」という3事業のシナジーをどう生み出すかという点です。今はそれぞれが独立して採算を取る状態ですが、これらを掛け合わせることでさらなる成長ができると考えています。今後は、全国733店舗というフランチャイズのインフラを最大限に活用し、不動産売買と金融事業を店舗を通じて広げていくことに注力していきます。この三位一体のシナジー創出という大きな目標を攻略し、確実に達成することで、業界を変革していく歩みをさらに加速させていく決意です。
編集後記
「業界を変える」という熱意に惹かれて当時まだ小さかった同社へと飛び込み、幾多の困難を「役割分担」という組織力で突破してきた冨永社長。最も胸を打たれたのは、自身の力不足という過去の挫折を隠さずに真摯に見つめ直し、それを事業拡大の強力なバネに変える逞しさだ。業界の不透明なイメージを払拭し、誰もが日常的に足を運べる「不動産コンビニ構想」に向けて、その実現を語る姿からは、次なる大きな目標すらも楽しんで乗り越えようとする圧倒的な熱量が感じられた。不動産売買、金融、そして全国に広がる店舗網の真の掛け算が完成したとき、日本の風景にどのような新しい日常が生まれるのか。その挑戦の行方から目が離せない。

冨永正英/1980年、兵庫県生まれ。2003年に株式会社オリエントハウジング(現株式会社And Doホールディングス)に新卒入社。不動産仲介・FC事業を経て、2010年にグループ会社である株式会社ハウスドゥ住宅販売の代表取締役社長に就任。その後、株式会社And Doホールディングスの執行役員ハウス・リースバック事業部長を経て、2024年9月に代表取締役社長に就任。