
築30年以上のビルを再生し、個人事業者や小規模事業者向けオフィスを提供する株式会社K-FIRST。米国の不動産の価値を高める考え方に影響を受け、関西を中心に築古ビルの再生事業に取り組んでいる。家業である不動産の管理事業から不動産再生事業へと進出した経緯、そして地方創生の取り組みについて、代表取締役の田中健司氏にうかがった。
自分が生きる意味を模索した日々
ーーまず、ご経歴をお聞かせください。
田中健司:
小学生の頃からプロを目指し、大学に入ってからもサッカー漬けの日々を過ごしていました。ただ、のちにトップ選手となる人たちと自分の実力の差を感じ、結局はサッカー選手になる夢は諦めました。その後は何の目標も持てないまま、ただ時間だけが過ぎていきました。
そのうちに長年の夢が絶たれ、人生の大きな岐路に立っている今こそ、自分が生まれてきた意味を考えるべきときなのだと思ったんです。そこで自分と向き合うなか、父親が興した事業を継続することが自分の使命だと。
こうしてプロサッカー選手になることを目標に大学に進学し、夢に破れてから1年が経った後、新たな目標として会社を引き継ぐことを決めました。
ーーその後のキャリアについてお聞かせください。
田中健司:
まずは他の会社で修業し、30歳になる頃に会社を継ごうと考え、就職活動を始めました。その中で強く感じたのが、学生と企業のミスマッチが起きている点です。学生は知名度で大企業にエントリーし、企業側は能力や特性ではなく学歴で採用する傾向がありました。結果、希望とは違う仕事に就き、早期退職してしまう人が後を絶ちません。一方で、社会に貢献している中小企業は、その魅力が伝わらず人材確保に苦労している。そうした現実を知りました。
このような就職活動の課題を目の当たりにする中、ある起業家のセミナーに参加し、「自分たちで世の中を変える」という高い志に感銘を受けました。これを機に、家業を継ぐまでの時間をより実りあるものにしたいと考え、新卒向けの就職支援事業を立ち上げることにしたのです。
父には「10年間は自分がしたいことに挑戦させてほしい」と頼み、了承を得ました。しかし、起業当初は自分の実力の無さを思い知らされ、自力で1円を稼ぐことの難しさを痛感する日々でした。
築古ビルの再生事業に目を付けた理由

ーー家業を継ぐまでの経緯と、K-FIRSTを立ち上げた経緯をお聞かせください。
田中健司:
自分の事業が軌道に乗り始めた25歳のとき、父が体調を崩し、予定より早く家業を継ぐことになりました。当時、弊社は自社で所有しているビルの管理事業を営んでいましたが、そのほとんどが築30年以上の小さな建物で、空室が目立っている状態でした。
そこで、所有物件を効率的に活用する方法を探るため、米国の不動産会社に視察に行きました。そこで目の当たりにしたのが、日本と米国の不動産管理に対するアプローチの違いです。
日本の不動産会社は、入居者様からのお申し出への対応や、ビルの保全・修繕といった管理業務が主な仕事です。一方で米国の不動産会社は、管理業務を外部に委託し、物件の資産価値を高めることに注力していました。
この視察を機に、私も入居者様を意識した管理業務だけではなく、ビルを所有するオーナー様のために不動産の価値を高めることを意識するようになりました。そこから始めたのが、築年数の経過した不動産を小規模オフィスにリノベーションする事業です。
これならば、手頃な価格でオフィスを借りたい方のニーズを満たせます。そして、入居者が増えればオーナー様は安定的な収入を得られると考えました。こうして、従来の不動産管理業に加え、新たに不動産再生事業をスタートさせたのです。
ーー貴社の事業内容について教えていただけますか。
田中健司:
弊社の主力事業は、築古ビルをスモールオフィスにリノベーションする「Re:ZONE」です。これは築年数が経っているビルをスモールオフィスに改装し、建物の価値を高めるサービスです。小規模のオフィスのため、個人で働くフリーランスや会計士、弁護士、あるいはベンチャー企業などにご利用いただいています。手軽な価格で清潔感のあるコンパクトなオフィスを確保したい方々のニーズを捉えることで、物件の稼働率は年間を通じて約95%を維持しています。
建物と人の可能性を広げる地方創生の取り組み
ーー今後の注力テーマを教えてください。
田中健司:
入居を希望されている小規模事業者や個人事業主の方々の独立を支援したいと考えています。特に地方では、ご自宅で仕事をされている方も少なくありません。そのため、コンパクトなオフィスを設けることで、収益性を保ちつつ事業に集中できる環境を整えたいと考えています。その結果、地方創生に貢献することを目指します。
その一環として、和歌山に本社を置く紀陽銀行様とベンチャー企業が共同で企画・運営している複合施設「Key Site」の立ち上げに参画しました。この施設は、起業家や地場企業の交流の場をつくりたいという思いから生まれたものです。
1階にカフェ、2・3階にコワーキングスペース、5階には完全個室のレンタルオフィスを設けています。施設内には紀陽銀行様のスタートアップ向け相談窓口もあり、融資の相談も可能です。
さらに、在宅ワークに興味がある子育て中の主婦の方を対象に、半年間のスキルアップ研修も実施しています。将来的には、研修でスキルを習得した方と企業とのマッチング支援も計画しています。このように、不動産管理という枠を超えて、ご自身で事業を始めようとする方々を支え、空間と人をつなげていきたいです。
全国規模で築古ビルの利活用を進めたい
ーー貴社ではどのような人材を求めていますか。
田中健司:
入居者様の満足度や物件の価値を高めることが主な仕事ですので、業界未経験の方も活躍できます。実際に、弊社のメンバーの半分以上が異業種からの転職者です。
私たちは、オーナー様一人ひとりに寄り添い、事業主として新たなスタートを切る入居者様の思いを大切にしています。そのため、「不動産や人の可能性を発掘したい」という強い思いを持っている方に、ぜひ仲間になっていただきたいです。
ーー最後に今後のビジョンをお聞かせください。
田中健司:
地方創生を目標に掲げ、公共性を担う会社として地域の方々から応援される存在になりたいです。現在は関西を中心に58拠点を展開していますが、地方を中心に拡大し、直近100拠点を超えることを目指しています。
物件の空きスペース活用を検討するオーナー様から、「まずはK-FIRSTに相談してみよう」と真っ先に想起していただける存在になる。そのために、これからも努力を続けます。
編集後記
ビルのオーナーと入居者、双方が満足できる形を模索し、築古ビルの再生事業へと舵を切った田中氏。長期的な視点で物件価値の向上を考え、入居者の事業支援まで行う。そうして、これまでにない新たな不動産管理会社をつくり出した。同社はこれからも不動産の価値を最大化し、貸し手と借り手の双方にとって最良の活用方法を提案していくことだろう。

田中健司/1987年大阪府生まれ。桃山学院大学卒業。2009年、大学在学中に就職支援の事業で起業。2014年、株式会社K-FIRSTを創業し、代表取締役に就任。主に築古ビルを管理・再生事業に注力。その後、フリーランスや起業家などのスモールビジネス向けのレンタルオフィス事業「Re:ZONE」を立ち上げ、関西を中心に58拠点を展開している。