
映像・音響システムの企画・設計・施工・運用保守までをワンストップで提供し、空間の価値を高め続けている株式会社映像システム。同社の代表取締役会長を務める髙野隆児氏は、大手メーカーでの営業や多彩な企画業務を経て同社へ合流している。創業者である父親から同社を引き継いだ髙野氏は、長年培われてきた確かな技術基盤を守りながら、近年では独自のビジネスモデルに関する特許を出願し、次世代の空間演出ビジネスへと歩みを進めてきた。「社会に”感動”と”満足”を提供すること」をミッションに、常に新たな付加価値を模索し続ける同氏に、これまでのキャリアの軌跡と、未来に向けた挑戦の全貌を聞いた。
映像制作を夢見た新入社員 現場で学んだ商売の原点
ーー幼少期の頃は、どのようなお子さんでしたか。
髙野隆児:
非常に好奇心の強い子どもで、小学生の頃からずっと野球をやっていました。きっかけは、川崎球場で働いていた叔父に誘われて試合を観に行き、試合後に選手の方から直接サインボールをいただいたことです。実はその選手というのが、王貞治さんと長嶋茂雄さんだったのです。当時はそのすごさなど分かっていませんでしたが、これを機に野球を始め、高校卒業まで野球漬けの日々を送ることになりました。
ーー現在の仕事につながる原体験などはあったのでしょうか。
髙野隆児:
高校時代まで熱中した野球ですが、実は最後の大会に出場することができませんでした。そこで、プレー以外の形でチームのために貢献できないかと考え、当時としては珍しい家庭用のビデオカメラを活用したのです。次の試合の対戦相手を撮影し、プレーの特徴を分析した映像をチームメイトに共有したところ、みんなが大変喜んでくれました。自分が手掛けた映像で人を驚かせ、喜ばせることができる。これこそが、現在の仕事につながる原体験となっています。
ーーその後、どのようなキャリアを歩まれたのですか。
髙野隆児:
先のような原体験もあって、大学卒業後はアーティストの映像制作に携わろうと、大手電機メーカーのグループ会社へ就職しました。しかし入社後に配属されたのは、志望していた音楽産業部門ではなく家電販売会社だったのです。当初は想定していた業務との違いに戸惑うこともありましたが、新たな経験として前向きに取り組むことを決意しました。人事部長と「25歳までは頑張る」と約束していたこともあり、一つひとつの仕事に真摯に向き合いながら経験を積んでいきました。
その頃に担当した量販店では、競合他社も多く、店舗やお客様との信頼関係を築く工夫が求められました。そこで、まずは店舗のオーナーに信頼されようと考え、自社製品だけでなく他社メーカーの製品まで率先して販売するようにしたのです。すると次第に店舗オーナーやお客様からの信頼が得られるようになり、結果として自社製品の売り上げも大きく伸ばすことができました。このときに学んだ「相手にとってプラスになることをまず行う」という姿勢が、今も私のビジネスの根幹をなしています。
他者理解が生む付加価値と映像システムならではの強み

ーー貴社に入社するまでの経緯はどのようなものでしたか。
髙野隆児:
新卒で入社した会社では営業職としてキャリアをスタートしました。その後、企画分野にも挑戦したいとの思いから、新たなキャリアへの一歩として26歳で独立しました。大手代理店とともに東京のトレンドを巡るツアー企画に携わったほか、フリーライターとして雑誌でオーディオ機器に関する記事を執筆するなど、営業にとどまらない幅広い分野で経験を重ねました。
こうした活動を通じて生まれたご縁がきっかけとなり、出版社の社長と父が共同でホームシアターの施工会社を設立しました。私も営業分野を担い、事業の立ち上げと成長に携わることとなりました。その後、現在の会社へ参画。その過程では、父とともに仕事に向き合う中で、多くの学びや気づきを得る機会にも恵まれました。
その後、さらに経験の幅を広げ、自身の成長につなげたいとの思いから再び独立しました。自ら設立した会社では、40代後半まで企画分野を中心に事業活動を展開し、多様なプロジェクトを通じて企画力と実行力を磨いてきました。
ーーどのような考えで仕事に向き合っていますか。
髙野隆児:
「社会に”感動”と”満足”を提供すること」を第一に考えています。単に自分たちが利益を得るのではなく、お客様に心から喜んでいただける付加価値をどう生み出すか。そこに全てがあると思っています。他社と同じことをしていては付加価値など生まれず、結局は価格競争に陥ってしまうため、単なる物売りで終わらせてはいけません。だからこそ、常に相手の立場に立ち、お客様にとってプラスになる提案を通じて深い信頼関係を築くことを強く意識してきました。相手の利益を真剣に考える「他者理解」の精神は、私が若い頃の営業活動から学んだビジネスの基本であり、今なお仕事に向き合ううえでの確固たる軸となっています。
ーー貴社の強みを教えてください。
髙野隆児:
最大の強みは、映像や音に対するニーズが絶対になくならないため、お客様の目的や課題に応じて、常に求められるシステムを提供できる点です。また、「映像システム」という社名そのものも大きな強みだと考えています。同業他社では名前だけで事業内容を伝えるのが難しいことも多い中、弊社は一目で何をしている会社かが分かる。この社名をつけた創業者は本当に天才的だったと、今でも思うほどです。
さらに映像や音響の分野には、世の中の新しい技術を柔軟に取り入れられるという特徴もあります。たとえばAIや5Gといった新しいトレンドが登場した際に、それらを活用して空間に新たな付加価値をつけ、今までになかったものをつくり出すことができるのです。根底にある「お客様に喜んでいただきたい」という社員の思いと、こうした技術とを掛け合わせることで、弊社はこれからも確実に進化し続けると信じています。
新規事業が描く空間演出の未来と次世代の組織づくり
ーー現在、新たに取り組んでいる事業について教えてください。
髙野隆児:
社長就任からの10年間は既存の事業基盤を固めることに専念してきましたが、自発的に動ける組織へと成長した現在は、新しい空間演出のビジネスに力を入れています。具体的には、過去の街並みや文化資産を360度映像で記録し、将来にわたり空間体験として活用できるデジタルアーカイブの仕組みづくりです。
たとえば現在の渋谷のスクランブル交差点をアーカイブしておけば、数十年後には、まるで当時の空間に入り込んだかのように「あの時代はこんな空気感だったね」と追体験できるようになります。こうした空間のライブラリーをつくれたら面白いのではないか。そう考えたことがきっかけでした。
immersive事業「immervision®」では、構想段階から知的財産の保護を重視しています。「immervision」は商標登録されており、技術面においても、国内外で特許出願を進めています。2024年11月には、その中核技術に関する特許を取得しました。さらに、音響技術やビジネスモデルに関する出願にも取り組み、事業展開を知的財産の面から支える体制を整えています。私たちは受注すること自体をゴールとするのではなく、自ら企画・提案を行い、新たな空間価値を創出し、提供していくことを目指しています。今後はこの事業を当社の成長を支える重要な柱の一つへと育てていきたいと考えています。
ーー最後に、これからの組織づくりや採用に対する思いをお聞かせください。
髙野隆児:
現在は新卒に加え、キャリア採用にも力を入れています。会社をさらに面白く、強くしていくためには、外部の知見や異なるバックグラウンドを持つ人材の力が不可欠だからです。私自身が外の世界を見てきたように、社員にも広い視野を持ってほしいと思っていますし、成長のために一度外に出て、また戻ってくるような働き方も大歓迎です。
たとえ口下手であっても自分の信念をしっかり持っている人や、将来は社長になりたいという野心を持つ人が存分に活躍できる舞台を用意したいと考えています。そして何より、外から見て「あの人と一緒に仕事がしたい」と思われるような、魅力的な人材が集まる会社にしていきたいですね。
編集後記
「社会に”感動”と”満足”を与えたい」。髙野氏の言葉の端々からは、エンターテインメントへの純粋な探求心と、自身が現場で積み上げてきた揺るぎない信念の強さが伝わってきた。決して平坦ではない道のりのなかでも「相手にとっての価値」を問い続けてきた姿勢が、現在の強力なリーダーシップへとつながっているのだろう。「映像と音のニーズは絶対になくならない」という確固たる自信と、社会を驚かせようとする圧倒的な挑戦心。ワクワクするような未来の空間プロデュースを仕掛ける同社の今後に、いち取材者としても大きな期待を抱かずにはいられない。

髙野隆児/1987年、法政大学経営学部卒業。大手電機メーカーに入社後、2社のプロデュース事務所を経て独立し事業を開始。「世の中に新しいアイデアを活かす」という理念のもと、多様な分野で事業や企画に取り組んできた。その過程で映像・音響システム市場の将来性に着目し、2011年より、20代後半に携わっていた株式会社映像システムの事業へ再び参画。同社では、文教市場や企業の会議室向け市場に加え、それまで培ってきた企画力やコンテンツプロデュースの経験を活かし、プロジェクションマッピング、デジタルサイネージ、映像コンテンツプラットフォーム関連分野へと事業領域を拡大。映像・音響システムのプロフェッショナル企業としての価値向上を目指し、幅広い分野で実績を重ねてきた。2014年に代表取締役社長に就任。2025年より代表取締役会長となり、現在に至る。