
IKOI GROUPは、関西圏を中心に介護・医療・福祉サービスを展開し、高齢者や障がいのある方に「安心安全」と「居場所」を提供している。同社を率いるCEOの中島健之氏は、学生時代に強豪校の野球部で勝負の世界に身を置き、社会人になってからは大手食品会社の営業職としてもトップクラスの成績を収めるなど、独自のキャリアを歩んできた。利益と数字を追求する日々から、なぜ福祉業界での起業に至ったのか。そこにはある価値観の大きな転換があった。中島氏に、在宅医療・介護のさらなる進化に向けた展望や、採用や組織づくりにかける思いをうかがった。
勝敗の世界から「ありがとう」が価値になる世界への価値観の転換
ーーまずは、福祉事業の立ち上げに至った原点をお聞かせいただけますか。
中島健之:
私はもともと強豪校の野球部に入っており、「勝つか負けるか」という厳しい世界に身を置いていました。常にレギュラーを争い、昨日の自分を超えることを求められる環境で精神力が鍛え上げられましたね。社会人になってからもその意識は変わらず、大学卒業後には大手食品会社に営業職として入社し、がむしゃらに働く日々を送っていました。前年比120%の成績を出し続けるなど、利益を出して勝つことがすべてだと思い込んでいた時期でもあります。
そんな中で転機となったのは、父が突然「介護の事業を始める」と言い出したことでした。それを聞いて私は、父の年でやるのはちょっと激務と思い、「自分がやったほうがいいのではないか」と考えたのです。そこで父に促されるまま、現場を知るためにデイサービスセンターへ見学に行ったところ、そこでの光景は、私にとって非常に衝撃的なものでした。
それまでプライベートの時間を削り、ひたすら仕事の成果を出すためだけに生きてきた私にとって、高齢者の方々とゆったり時間を過ごし、相手を思いやって行動する仕事があることに驚かされたのです。利益ではなく、相手を思いやった結果として「ありがとう」と声をかけていただける。目に見えない感謝の言葉が結果になる事実は、私の価値観を大きく転換させるきっかけになりました。
ーー価値観の転換を経て、どのような思いで福祉業界へ進まれたのでしょうか。
中島健之:
「相手の喜び」を追求したいと決意し、医療や福祉の世界で挑戦したいと考えたのです。営業である以上、相手に利益をもたらすことが大前提であり、当時は成果の過程よりも利益の追求が優先されがちな風潮がありました。しかし、福祉の世界において命の価値に違いはありません。
たとえば、生活保護を受給している方と富裕層の方でも命の重みは同じであり、利益を追い求めすぎるあまり、提供するサービスの基準が変わってしまってはならないのです。それは「道徳なき経済」だと気づいたからこそ、新たな世界へ踏み出す決意を固めました。
目の前の「必要」に応え続けて生まれた重度医療にも対応する「究極の居場所」
ーー現在展開している事業の内容についてお聞かせ願えますか。
中島健之:
現在は介護から医療、特別養護老人ホームへと事業を展開中です。また、重度な方へ医療を提供するナーシングホームなども運営しており、高齢者や障がいのある方々へ本当に安心・安全な居場所を提供しています。これは最初から意図して事業を広げたわけではありません。「最後は特養(特別養護老人ホーム)に住みたい」「より良い医療を届けたい」といった、目の前の方々の要望に一つひとつ応えていった結果なのです。
ーー実際にご家族や利用者様からはどのような声が届いていますか。
中島健之:
ご家族からは「ここじゃないと生活ができなかった」と涙を流して喜んでいただけるなど、本当に嬉しいお声をいただいています。医療重症度が高くなると多くの老人ホームでは受け入れが難しくなり、ベッドが空いていても断られてしまう現状があります。そうした中で、私たちが受け皿となる体制づくりを進めてきました。病院はあくまで治療の場ですが、私たちが提供するのは生活の場にほかなりません。治療を終えた後の生活空間を私たちが守っていきます。
また、利用者様の声に寄り添い、たとえば人工呼吸器をつけている方を野球観戦などにお連れすることも少なくありません。外出支援を行い、ご家族と最高の思い出をつくるお手伝いをしています。そうした関わり方ができるのは、私たちならではの価値だと自負しております。
新卒社員も実感する「感謝の重み」と思いやりを広げる組織づくり

ーー現在は、どのような人材を求めて採用活動を行っていますか。
中島健之:
私たちが一番大切にしているのは「人間力」です。思いやりがあり、仲間や利用者様を大切にする心を持った方に来てほしいと願っています。何より、感謝できる心を持った方をお迎えしたいですね。私たちの業界は社会保障費の枠内で運営されているため、賃金などの制限があることは事実です。その中でも、一般より高めの給与設定を心がけてきました。
また、経営幹部を育成するため、理念を共有する研修に最も力を注いでいます。組織が大きくなっても、この熱い思いは末端まで届けていくつもりです。並行して本部機能や業務のDXを推進すべく、20代の総合職採用の強化も進めており、さまざまな部署を経験して会社の中核を担ってくれるような若手の参加を心待ちにしています。
ーー新卒で入社された方からはどのような意見が出ていますか。
中島健之:
コロナショック下で「倒れない会社」として入社してくれた新卒社員からは、現場でのやりがいを実感する声が上がっています。最初は福祉業界に対する世間からのネガティブなイメージもあって不安だったようですが、半年間現場で介護を経験した際に、感謝の言葉の重みに感動したと話してくれました。利用者様からの「ありがとう」という言葉に心を打たれ、「私はこんなにも心の支えとして求められているんだ」と実感したという意見も出ていて、それが大きなやりがいにつながっているようです。こうした声を聞くと、異業種から来た方や20代の若手も活躍してくれており、私たちの理念に共感してくれているのだと嬉しく思います。
ーー最後に、今後の展望をお聞かせください。
中島健之:
今後は、在宅医療と介護のさらなる進化を目指していく方針です。亡くなる前から亡くなった後まで、ご本人とそのご家族が満足できる環境を整備し、「この人生でよかった」と思っていただけるような環境づくりを進めます。具体的には関西圏を中心に事業の拡大を図っていきます。
また、並行して海外の学校で日本の文化以外に会社の理念、教育を受けた外国人人材が、日本で働く仕組みづくりも進めているところです。将来は母国で活躍できるようなサポートも欠かしません。さらには、富裕層向けの質の高いサービスの提供も視野に入れて動いています。そうなれば、ホテル業界などで質の高いサービスを提供してきた方も必要となってくるでしょう。そうした方々の採用も進めていく計画で、私たちがこれまで積み上げてきた医療と福祉のスキルに、新たな価値を掛け合わせていくのです。どんな状況の方にも最高の「最後の時間」を提供できるグループへと成長し続けていきます。
編集後記
最も胸を打ったのは、重度の医療が必要な方を万博や野球観戦へ連れて行くというエピソードだった。ただ命を長らえるだけでなく、人生の終盤に生きる喜びを灯し、家族との最高の思い出をつくり出す。そこには「目の前の人に何ができるか」を考え抜く中島氏の熱量があふれていた。効率や数字だけでは決して計れない温かな信念は、確実に次世代の若手にも受け継がれている。同社がつくる「究極の居場所」が今後どのように広がっていくのか、さらなる飛躍が楽しみだ。

中島健之/1977年、大阪府生まれ。大学卒業後の営業職を経て、2002年に株式会社デイケア憩に入社。2006年に株式会社 蕊 shibe、2012年にルポゼソリューション株式会社を設立。同年、株式会社デイケア憩の代表取締役に就任。2014年には社会福祉法人健輪会を設立し、医療法人等の理事も歴任。これら医療・介護・福祉の多角的な法人からなる「IKOI GROUP」のCEOとして、長年グループの発展と経営を牽引している。