※本ページ内の情報は2026年10月時点のものです。

10代の早い時期から引越し現場で働き始め、21歳で起業を果たした文字放想氏。同氏が率いる株式会社アップルは、独自のITシステムによる業務効率化と、NPS®(顧客推奨度)を最重要指標とする経営で確かな成長を遂げてきた。「引越しで笑顔に!人生をナナメウエへ↗」というパーパスを掲げ、日本一の引越し会社を目指す同社独自の組織論や、求める人物像に迫る。

10代での現場経験と恩師の言葉が導いた「理想と現実」のバランス

ーーまずは、貴社を起業するに至った経緯を教えてください。

文字放想:
もともと私は10代の早い時期から家族経営の小さな引越し会社で働き始めており、そこからフリーターとしてキャリアをスタートさせました。その後も、先輩の会社の立ち上げを手伝ったり、独立採算の事業を任されるなど、若い頃からさまざまな現場を経験しています。

当時は特に起業家になりたいという野心はありませんでした。しかし、私自身19歳で結婚して子どももいた中で、これから家族を養っていくためには自分で事業をやるしかないと腹を括り、21歳のときにアップルを立ち上げたのです。

ーー早期からの現場経験は、現在の経営にどう活きていますか。

文字放想:
現場で培った判断力やトラブル対応の経験は、間違いなく現在のビジネスの確固たる基盤となっていますね。引越しの現場でチームリーダーを務めると、お客様への接客はもちろん、突発的なトラブルへの対応から瞬時の判断まで、すべてを自分一人で背負う必要があり、そこでビジネスの本質的な厳しさと醍醐味を学びました。

また、当時の社長からかけられた「学歴がないまま現場で働き続けるのと、高学歴で企業に入る人とでは、将来的に大きな差が出る。自分で会社をやるか、成長する環境に身を置くかだ」という言葉も、現在に通じる大きな指針です。当時は少し大げさに感じていたものの、経営者となった今となっては、まさにその通りだと痛感しています。こうした経験を経たからこそ、私は「理想のない現実主義も、理想だけの理想主義もだめだ」と考えるようになりました。矛盾を抱えていたとしても夢や希望といった理想を決して失わず、同時に現実としっかり向き合いながら行動し続ける姿勢を、今でも大切にしています。

「機会報酬」とNPS®の追求が生み出す独自の企業カルチャー

ーー社員の「働きがい」についての考えをお聞かせください。

文字放想:
私は、仕事とは人生を豊かに生きるための道具であるべきだと考えています。人生の三分の一、あるいは半分以上の時間を仕事に費やす中で、それをお金を稼ぐためだけのものにしてしまうのはあまりにも悲しいことです。もちろん、お金をもらうために働くことは間違っていません。しかし、仕事には「金銭報酬」のほかに、成長や次のステップへとつながる「機会報酬」が存在します。最初は承認欲求や社会的な欲求から働き始めたとしても、お客様に喜んでいただく経験を通じて、「もっと喜ばせるにはどうすればいいか」と自発的に考えるようになる。そのループをたどるうちに、外的報酬から内的報酬へと仕事の意義が変わっていくのです。

そんな「機会報酬」こそが働く上で最も大きな価値を持っていると私は思います。だからこそ、自分の人生を主役として捉え、その素晴らしい人生を創り上げるために、仕事で得られる多様な経験をどう活かしていくかという視点を持ってほしいと社員には強く伝えています。

ーー社員へ機会報酬を提供し続けるための、事業運営における独自の強みは何でしょうか。

文字放想:
大きく2つあります。

1つ目は、究極の顧客満足度調査である「NPS(ネット・プロモーター・スコア)®」を最も重視する経営スタイルです。弊社では、目先の売上や利益以上に、このNPS®の数値を追いかけることが最大の成長につながると確信しています。お客様からの評価を社員の評価基準へと直結させ、アンケート結果もすべて公開することで、透明性の高い本質的なサービスの向上に努めているのです。お客様に喜んでいただく経験が社員のやりがいとなり、さらに良いサービスを提供しようという好循環を生み出しています。

2つ目は、デジタル技術を活用した徹底的な業務効率化です。実は20年以上前からDXを推進しており、業務システムのほとんどを自社でゼロから構築してきました。たとえば、約10年前には引越しのECサイトのようなシステムを開発し、現在では売上の4分の1程度が自動で受注できる仕組みになっています。

また、一般的な大手引越会社では、現場スタッフと営業や管理部門のスタッフの比率が1対1であるのに対し、私たちは徹底したデジタル化によって間接部門を集約し、最終的にはバックオフィス1に対して現場スタッフが3という比率を目指しています。マーケティングコストも業界水準より大幅に低く抑えられており、リピーターや口コミでのご紹介が多いことも強みです。こうして効率化によって生み出した利益を、現場スタッフの給与アップやより良い職場環境の整備、そして新たな挑戦の場である「機会報酬」へと還元し続けることができているのです。

求めるのは「カメ」のような継続力と笑顔あふれる日本一への挑戦

ーー今後、どのような人物とともに働いていきたいと考えていますか。

文字放想:
真面目に情熱を持ち、努力を継続できる「カメ」のような人材ですね。一部の能力が突出していても続かない人より、一定して努力を続けられる人のほうが最終的には大きく成長します。弊社には、個人の卓越した能力に依存せず、真面目に継続すれば成果が出る仕組みがあり、実際に現場のアルバイトから正社員となって、支店長として活躍しているメンバーも数多く存在します。明るく元気で素直に、コツコツと取り組める方を求めています。

ーー努力を継続する社員たちと、今後はどのような目標を実現していきたいですか。

文字放想:
「引越しで笑顔に!人生をナナメウエへ↗」というパーパスのもと、日本一の引越し会社をつくることですね。引越しは新しい生活のスタートとなる重要な節目であり、その起点に関わる私たちがお客様を笑顔にし、「これから頑張ろう」と思ってもらえる存在でありたいと願っています。ただ事業規模を追うのではなく、日本で一番お客様に喜ばれることが目標です。その指標として「年間36万件の笑顔」という、NPS®で高い評価をいただく件数の達成に向けて挑戦を続けていきます。

編集後記

「仕事はお金を稼ぐだけのものではなく、人生を豊かにするための道具である」。文字氏の言葉からは、現場で汗を流す社員への深い愛情と確固たる信念が感じられた。徹底したデジタル化による業務効率化と、ひたむきな努力を評価する「機会報酬」という考え方。この一見相反する要素が見事に融合し、関わるすべての人を笑顔に変えているのだろう。引越しという人生の転機を「ナナメウエ」へと押し上げる同社であれば、36万件の笑顔を生み出し、日本一になる日もそう遠くないはずだ。

文字放想/1984年10月生まれ。神奈川県出身。10代の早い時期から引越しの現場で働き始め、18歳で事業部の立ち上げを経験後、2006年(21歳)に株式会社アップルを設立。自社開発のITシステムによる業務効率化とNPS®(顧客推奨度)を軸にした経営で同社を成長させ、「引越しで笑顔に!人生をナナメウエへ」をパーパスに日本一の引越し会社を目指している。