
ドイツに本社を置き、高圧洗浄機で世界的な知名度を誇るケルヒャー。その日本法人であるケルヒャー ジャパン株式会社は、家庭用から業務用まで幅広い製品を展開し、清掃の常識を覆し続けている。外資系IT企業などで数々の事業変革を牽引し、2024年2月に同社の代表取締役社長に就任したのが挽野元氏だ。挽野氏がこれまでのキャリアで培ったマネジメント哲学をはじめ、同社が目指す「トータルクリーニング・ソリューション」の展望や、清掃が社会にもたらす新たな価値の真意に迫る。
外資系企業での変革経験と「人」を活かすマネジメントの原点
ーーまずは、これまでのご経歴を教えてください。
挽野元:
大学院修了後、日本ヒューレット・パッカードに入社し、最初の13年間はPCの製品企画や事業運営に携わりました。フランスへの駐在やアジアでの事業推進、他社との組織統合プロジェクトなどを通じて、異なる文化を持つ組織を動かす経験を重ねました。その後の7年間はプリンティング事業の責任者を務めました。数千円のコンシューマー向け製品から、数億円規模となる印刷会社向けの大型機器まで、多種多様な製品群をひとつの事業として統合し、会社としての一貫したメッセージを打ち出すことに注力しました。
ーー日本ヒューレット・パッカードでの長年のご経験の中で、学んだことは何でしょうか。
挽野元:
20年以上在籍しており、社会人としての基礎を育ててくれた原点だったと考えています。そこで学んだのは、人は良い環境を与えられると、必ず良い仕事をするということです。一人ひとりが持っている強みを最大限に活かし、それを事業の付加価値に変えていく。この「人のパワー」を大切にする姿勢は、今の経営の根幹になっています。また、時代の変化を恐れず、今までの強みを活かしながら新しい分野に挑戦し続けることの重要性も深く学びました。
ーーその後、貴社に入社された経緯をお聞かせください。
挽野元:
ご縁があってボーズの日本法人代表を務め、音楽の聴き方が大きく変わる業界の転換期に事業構造の改革を行いました。その後、アイロボットジャパンの立ち上げを経験し、家庭用ロボットのビジネスモデル構築などに携わりました。そして今回、ケルヒャーからお話をいただいたのです。入社前から非常に強いブランドだと認識していました。家庭用だけでなく、ビルメンテナンスや建築土木など、想像以上に幅広いビジネス向けのソリューションがあります。そうした幅広い製品ラインアップに加え、数多くの販売店や協力企業といったパートナーとの接点を広く有していることにも魅力を感じて、ぜひチャレンジしたいと思いました。
清掃の常識を変える「トータルクリーニング・ソリューション」

ーー現在の事業の強みや、展開されているポートフォリオについて教えてください。
挽野元:
弊社は一般家庭向けのBtoC事業と、業務用向けのBtoB事業がほぼ半々の割合となっています。BtoCでは、家の外で使う高圧洗浄機だけでなく、家の中で使えるスチームクリーナーなども展開中です。一方のBtoBは非常に幅広い分野に対応し、農畜産からビルメンテナンス、高速道路や水道管などのインフラ維持まで、多岐にわたる清掃ソリューションを提供しています。製品を単体で販売するだけでなく、お客様の課題を総合的に解決する「トータルクリーニング・ソリューション」が大きな強みといえるでしょう。
ーーBtoCの分野で、最近特に注目を集めている製品はありますか。
挽野元:
昨年発売して大ヒットしたハンディシリーズ(※モバイル高圧洗浄機OC 5 HandyとOC Handy Compact)があります。応援購入サービス「Makuake」では販売開始後すぐに完売するなど、当初計画の8倍となる販売実績を記録し、高圧洗浄機の世界を大きく変えました。これまで高圧洗浄機といえば、準備に手間がかかるイメージがあったかと思います。しかし、この製品は片手で持てるほど小さくて軽いことが特徴で、ベランダの掃除を手軽に行えるなど、新しいユーザー層を開拓することができました。このような小さくて軽いという日本市場に合った製品開発は、今後も強化していきたい領域です。
清掃を「コスト」から「投資」へ 地球環境と社会に貢献する未来

ーー今後の事業展開として、toCとtoBそれぞれでどのような取り組みを進めていきますか。
挽野元:
toCでは、家の外だけでなく、家の中で使えるラインアップをさらに増やす方針です。toBでは、清掃ロボットを活用した省力化を提案しています。機器の稼働状況をデータで把握して最適なメンテナンスを提供するなど、サービスを強化しています。また、社内の各部門が横のつながりを持つ「クロスファンクション(部門横断的な連携)」にも注力。営業やマーケティング、サービス部門が一体となって、お客様に総合的な価値を提供する体制を構築していきます。
ーー最後に、会社全体として目指すビジョンとメッセージをお願いします。
挽野元:
清掃は「コスト」と捉えられがちですが、これからは「投資」として考えていただきたいですね。たとえば、少ない水で洗浄できる機器や、化学薬品を使わない清掃方法は、地球環境を守るための投資にもつながります。清掃を通して世の中をより良くし、社会に価値を生み出していく。そんな「トータルクリーニング・ソリューション」を提供していく考えです。今後も、お客様の生産性向上と持続可能な社会の実現に邁進していきます。
編集後記
名だたるグローバル企業で変革を主導してきた挽野社長。その言葉の端々からは、確固たるマネジメントの美学と、ケルヒャーというブランドへの深いリスペクトが感じられた。「清掃をコストから投資へ」という力強いメッセージは、清掃機器専用メーカーという枠を超え、社会課題の解決に挑む同社の未来を明確に示すものだ。テクノロジーと人の力を掛け合わせ、トータルクリーニング・ソリューションカンパニーとして進化し続けるケルヒャー ジャパン株式会社のさらなる飛躍に期待したい。

挽野元/1967年、横浜市生まれ。1992年、日本ヒューレット・パッカード株式会社(現 株式会社日本HP)に入社。フランス法人への出向を経て、2006年に執行役員、2011年に同社取締役へ就任。2013年、ボーズ株式会社(現 ボーズ合同会社)代表取締役社長。2017年、アイロボットジャパン合同会社代表執行役員社長。「ルンバ」の日本市場における世帯普及率を倍増させた。2024年2月、ケルヒャー ジャパン株式会社代表取締役社長。経済同友会幹事、東京都市大学客員教授。