
1970年代、深夜ラジオやアニメーションが巻き起こした熱狂に衝撃を受け、メディアの世界へ進んだ長江努氏。テレビ番組制作の最前線で「人を動かす力」を学んだ同氏は、2004年に有限会社ディレクションズを設立し、教育コンテンツの制作において国内トップクラスの実績を築き上げた。2014年、株式会社ディレクションズへの商号変更後、現在はホールディングス化を遂げ、「ディレクションズ・グループ」のトップとして次世代リーダーの育成に注力する傍ら、クリエイティブ・コンサルティングや地方の若者に向けた自己発見プログラムなど、領域を超えて「行動変容」を促す挑戦を続けている。国内外で数々の賞を受賞し続ける長江氏に、事業の軌跡と次なる展望を聞いた。
メディアの熱狂を原体験に 共振から行動変容を生み出す
ーーまずは、メディアの世界に興味を持ったきっかけを教えてください。
長江努:
小学生の頃、海外の放送を受信できるラジオに夢中になりました。中学生になると、深夜ラジオの力で人気アイドルグループの解散コンサートや、アニメーションの劇場公開で徹夜の行列ができる様子を目の当たりにしました。まさに、メディアが人を動かす力に圧倒された原体験です。そこから番組制作を志し、大学卒業後は人気テレビ番組を手がける制作会社へ入社。猛烈な忙しさの中、映像を通じて人の心を動かす面白さを現場で徹底的に叩き込まれる日々を過ごしました。
ーーその後、独立してから2004年の会社設立に至った当時の思いを教えてください。
長江努:
テレビの世界で経験を積む中で、自分が本当にやりたいのは人の「行動変容」を起こすことだと気づきました。映像を見た人が何かを感じ、新しいことに挑戦したくなるようなきっかけをつくりたかったのです。起業時は若い世代向け番組を制作していたチームで独立したのですが、会社設立の大きなきっかけとなったのは、『デジタル・スタジアム(通称:デジスタ)』という若いクリエイターを発掘する番組です。当時、その番組で新海誠監督をはじめとした数多くの才能ある若手クリエイターと出会いました。しかし、彼らが出演する番組を毎週作りながら、「これだけ優秀な才能が通り過ぎて行くのをただ見ているだけでいいのか。こういう人たちを自分たちでプロデュースし、世に送り出せないだろうか」と強く感じたのです。この思いが原動力となり、2004年の法人設立に至りました。視聴者を番組制作に巻き込むことで共振を起こし、行動を変えていくというテーマは、ディレクションズを設立してから現在に至るまで、一貫して変わっていません。
日本一の制作本数を誇る教育コンテンツと広がる企業PR

ーー現在、注力されている事業の概要について教えてください。
長江努:
大きく分けて2つの柱があります。1つは子ども向け番組の制作で、これは20年以上に渡りつくり続けているものです。これまで手がけた制作本数はおそらく日本一ではないでしょうか。そして、もう1つは学習教材の動画制作です。教育関連の企業様が提供するデジタル教材など、子どもたちが「思わず心惹かれる」、楽しみながら直感的に学べるような映像コンテンツを数多く手掛けてきました。見る者を引き込み、自発的な学びを促す仕掛けづくりは、私たちの最も得意とするところです。
ーー最近では、教育分野以外の映像制作も増えているのでしょうか。
長江努:
企業のPR動画やインナーブランディング、採用向けの映像制作のご依頼が増えています。弊社は、一見すると難解な事業内容や、企業自身が気づいていない本質的な魅力を俯瞰し、因数分解してわかりやすく伝えることを得意としています。たとえば、仕事が過酷だと思われがちな建設業界の企業でも、実は人を育てる素晴らしい環境が整っていたりします。そうした本来の魅力を引き出し、ストーリーとして構築するのです。その結果お客様からの非常に高い評価につながっています。
ーー企業PRの映像制作において、心がけていることを教えてください。
長江努:
私たちが大切にしているのは、企業のありのままの姿を真摯に伝えることです。たとえば、採用活動に悩む企業からご依頼を受けたとします。単にかっこいいだけの映像をつくっても、本質的な課題解決にはなりません。現場で働く人々の思いや、失敗を乗り越えて成長できる環境など、その企業ならではの魅力的なエッセンスを丁寧に抽出して、再構築します。そうすることで、企業と大衆の間に確かな共振が生まれるのです。これが、本当に自社に合った人材とのマッチングにつながると考えています。
ロジックに基づく映像制作と次世代の可能性を広げる挑戦
ーー国内外で数々の賞を受賞されていますが、その理由をどのように分析されていますか。
長江努:
弊社の番組そしてアニメなどの作品は、感性だけでつくられているように見えて、実は緻密なロジックに基づいて設計されています。表現の目新しさだけに溺れるのではなく、いかに視聴者の共感を生むかを徹底的に考え抜いているのです。その論理的なアプローチがあるからこそ、一過性で終わることなく、継続的に国内外の賞をいただいています。それがお客様からの信頼につながっているのだと思います。
ーー最後に、今後の展望や社会に対して提供していきたい価値について教えてください。
長江努:
現在は地方創生の一環として、私の地元である富山県の高校生に向けた自己発見プログラムに力を入れています。硬直しがちな社会の仕組みの中でも、子どもたちが自分自身の才能や適性に気づき、多様な選択肢を持てるような手助けができればと。実際に、適性診断を通じて自身の意外な可能性に気づき、自分の将来に前向きな期待を持てるようになった生徒も出始めています。映像制作であれ教育プログラムであれ、人の本質を見極め、前向きな行動変容を促すという弊社の根幹は変わりません。これからも、真摯に課題と向き合い、社会に新たな価値を提供し続けていきたいと思います。
編集後記
メディアが持つ熱量に魅了された少年時代から一貫して「人の心を動かす」ことに情熱を注いできた同社の代表取締役、長江努氏。感覚に頼りがちなクリエイティブの世界において、緻密なロジックと本質を見抜く眼差しを持ち合わせている。この点に、数々の賞を受賞し続ける強さの秘密があると感じた。映像制作の枠を超え、次世代を担う若者たちの可能性を広げる新たな取り組みは、これからも多くの人々の心に深い共振を呼び起こし、社会をより豊かに変えていくことだろう。

長江努/1964年、富山県生まれ。2004年に有限会社ディレクションズ(現:ディレクションズ・グループ株式会社)を設立。NHK Eテレ「ビットワールド」「シャキーン!」など、一貫して若い世代のクリエイティブマインドを育むコンテンツを企画プロデュースした。その表現領域は映像のみならずメディアアートから2.5次元舞台まで幅広く、国内外で受賞歴も多数あり。起業家団体のEO Hokuriku第4期会長、一般社団法人富山イノベーションベースの代表理事を務める。