※本ページ内の情報は2026年6月時点のものです。

元診療放射線技師としてがん専門病院に勤務していた川端一広氏。彼が医療現場で直面したのは、医師が丁寧に説明しても患者に伝わりきらない「情報格差」の現実だった。このコミュニケーションロスを解消し、誰もが納得して治療に臨める世界をつくりたい。その思いから、2020年にContrea株式会社を設立した。同社が提供する医療機関向けプラットフォーム「MediOS(メディオス)」は、大学病院で約20%のシェアを獲得。患者と医療者が真に向き合う時間を取り戻す挑戦と、同社が描く医療の未来について、川端氏に話を聞いた。

伝わらないもどかしさ 診療放射線技師から起業への軌跡

ーーまずは、起業のきっかけを教えていただけますか。

川端一広:
診療放射線技師として、がん専門病院で約4年半働いていた頃の経験が原点です。医師は患者さんに病状や治療方針を説明する「インフォームド・コンセント」に多くの時間を割きますが、専門用語も多く、患者さんに正確に伝わりきらない。その知識格差によるもどかしさを感じていました。

十分な説明をしたはずなのに「そんな風になると思わなかった」とトラブルや訴訟に発展してしまうこともあります。医師も患者さんも前向きに治療に取り組もうとしているのに、コミュニケーションロスが起きている状況を非常にもったいないと感じていたのです。この課題を解消し、患者さんが安心・納得して治療に臨める世界をつくりたいと思い、起業を決意しました。

ーー起業後すぐに現在のサービスに行き着いたのですか。

川端一広:
実は、今のサービスに辿り着くまでに2回の事業転換を経験しています。最初は病院の口コミサイトをつくろうとしましたが収益化の壁にぶつかりました。次はCTやMRIの画像を3D化してVRで見せるサービスをつくりましたが、どちらも現場のニーズと合致しませんでした。特に2つ目のサービスを通して気づいたのは、患者さんが本当に知りたいのは「腫瘍の形や大きさ」といった専門的な詳細ではなく、「自分がどういう病気で、どんな手術をし、術後はどのような生活を送ることになるのか」という全体像だということです。

そこから、分かりやすいアニメーション動画で治療内容を説明する「MediOS(メディオス)」の構想に行き着いたのです。ただ、2020年1月の創業直後にコロナ禍に見舞われ、最初の数年は病院への営業もヒアリングもできず、非常に苦しい時期を過ごしました。当時は動画で説明する文化もなく「10年早いサービスだ」と言われることもありましたが、応援し、共にデータを取ってくださる先生方の存在を支えに乗り越えることができました。

患者の「知る権利」を守り医療者の負担を減らす挑戦

ーー現在の事業の強みや特徴について教えてください。

川端一広:
弊社が提供する「MediOS」は、動画による患者説明機能を中心とした、患者さんへの統合プラットフォームです。現在、ありがたいことに大学病院では約20%のシェアを獲得できており、先に導入いただいた病院様での効果が、また次の病院様への信頼へとつながる良い循環が生まれています。

最大の強みは、診療科や疾患、治療法に関する動画コンテンツの網羅性の高さにあります。また、動画だけでなく、問診票や同意書のペーパーレス化、ご自宅に帰られた患者さんへのLINEを通じたフォローアップなど、多様な機能の網羅性も高く評価していただいており、特許技術も2つ取得いたしました。ここまでのラインナップを揃えているのは、日本で唯一だと自負しています。

ーー「MediOS」は患者さんにとってどのようなメリットがあるのでしょうか。

川端一広:
医療の動画ではどうしても専門用語が避けられませんが、「MediOS」の動画は、専門用語が出てきた際にタップするとテキストで解説が読めるインタラクティブな仕様になっています。また、医師から直接説明を受ける時は、不安で頭が真っ白になってしまう患者さんも少なくありません。しかし動画であれば、ご自宅で何度でも見返すことができ、離れて暮らすご家族にも動画を通じて正確な情報を共有できます。

私たちが提供したい本質的な価値は、単なる医療者のための時短ツールではありません。「患者さんと医療者が向き合う時間を最大化すること」です。基礎的な知識は動画で分かりやすくインプットしていただき、限られた診察室での時間は、医師と患者さんが個別の不安や意思決定についてしっかり話し合うために使う。それが、患者さんの安心と納得につながると信じています。

病院の枠を超えて「患者の日常」を支える未来

ーー社内カルチャーや組織の特徴について教えていただけますか。

川端一広:
私は弊社のカルチャーを「外柔内燃」という造語で表現しています。コミュニケーションは柔らかくフラットですが、内側には「より良い医療を提供したい」という燃えるような闘志を持ったメンバーが集まっています。

現在、社員の約3分の1が看護師や薬剤師、医療事務といった医療従事者出身です。そのため、現場の言葉やその背景にある意図を深く理解でき、プロダクト開発や顧客対応のスピード感に直結しています。全員が「一番に患者さんのことを考える」という共通の価値観を持っていることが、組織としての大きな強みです。

ーー最後に、今後の目標や将来のビジョンをお話しいただけますか。

川端一広:
まずは今後の目標の通過点として、医療機関でのシステム導入シェア40%を目指しています。病院内のシステムはすでに存在していますが、患者さん側のプラットフォームはまだ確立されていません。私たちがその確固たる基盤となりたいと考えています。そして将来的なビジョンとしては、病院の中だけに留まらず、退院後の日常生活にまでサポートの幅を広げていきたいです。

患者さんは退院後も、「この症状が出たら病院に行くべきか」「自宅での生活に向けたリフォームはどうすればいいか」など、数多くの不安や意思決定に直面します。そうした日常の不安にも寄り添い、データを活用して適切な医療へつなぐ仕組みをつくりたい。また、医療における情報格差は世界共通の課題です。ゆくゆくは海外展開も視野に入れ、「医療にかかわる全ての人に安心を。」という私たちのミッションを実現していきます。

編集後記

川端氏の言葉の端々から「一番は患者さんのために」という確固たる信念が伝わってきた。医療現場のリアルな課題を肌で知る元放射線技師だからこそ生み出せた「MediOS」は、単なる業務効率化ツールではなく、医療の温もりを取り戻すための架け橋となっている。「外柔内燃」のカルチャーのもと、医療従事者と異業種出身者が一丸となって挑むContrea株式会社。同社が日本、そして世界の医療コミュニケーションのスタンダードとなる日は、そう遠くないだろう。

川端一広/東京都立大学放射線学科卒業後、がん研有明病院にて診療放射線技師として4年半従事。医療現場における患者と医療者のコミュニケーション課題に直面し、AI医療機器スタートアップを経て、2020年にContrea株式会社を設立。「医療にかかわる全ての人に安心を。」のミッションを掲げ、医療者と患者をつなぐ病院向けDXシステム「MediOS」を開発、提供している。