
自家焙煎コーヒーや手づくりスイーツとともに、中庭のあるゆったりとした空間を提供する桜珈琲。20年前の誕生以来、郊外型カフェの先駆けとして支持を集め、現在では大阪府内で14店舗を展開する。効率化が叫ばれる現代において、同社はあえて各店舗での「現場仕上げ」にこだわる手間ひまを惜しまないスタイルを貫く。そこには、他社には真似できない確固たる強みがあった。19歳でのアルバイトから始まり、現場の最前線で会社を牽引し続けてきた代表取締役の髙田泰史氏。彼にブランドを維持し続ける秘訣と、飲食業で働く誇りについて聞いた。
アルバイトからの出発と現場での下積み時代
ーーまずは飲食業界に入った経緯から教えていただけますか。
髙田泰史:
私が大学生の頃、桜珈琲の創業者である叔母が、駅前でベーカリーカフェを経営していました。20席ほどの純喫茶から派生した店舗で、そこでアルバイトを始めたのがきっかけです。大学を卒業するタイミングで、そのまま正社員になりました。当時は一般企業へ就職するイメージを持っておらず、祖父や叔母の商売をいわゆる「家業として継ぐ」という明確な意識もありませんでした。ただ、叔母は非常にエネルギーに溢れた人物で、共に事業を手がけることに、強い刺激と魅力を感じたのです。
ーー入社後はどのような業務を担当されたのですか。
髙田泰史:
当時は社員が数名しかおらず、まさに「家族商店」と呼べる環境でした。朝から晩まで懸命に働き、パンやケーキの製法を学んでいました。並行して、大阪のビジネス街やスーパー内などへの新店舗立ち上げにも奔走。20代のころは、私自身が現場に入りながら、がむしゃらに店舗拡大に取り組んでいました。
常識を覆した郊外型カフェ「桜珈琲」の誕生

ーー現在の主力事業である「桜珈琲」はどのような経緯で立ち上げたのでしょうか。
髙田泰史:
桜珈琲を立ち上げる前は、大阪の本町といったビジネス街を中心に、セルフスタイルのベーカリーカフェを数店舗展開していました。当時は、駅前にある20席程度の純喫茶や、40〜50席規模の店舗が中心で、「お昼時の1時間にどれだけ回転させるか」という効率重視の商売をしていたのです。
その中で20年前、初めて郊外に出店し、約70席という当時としては異例の広さと30台もの駐車場を持つ、「中庭のあるフルサービスカフェ」という挑戦に踏み切りました。当時はまだ郊外型カフェが珍しく、時代を先取りしたことが功を奏したのか、オープン初日から店舗の対応が追いつかないほどの凄まじい反響をいただきました。短時間で回転させるそれまでの商売とは、お客様の反応も、そこから得られた手応えもまさに「次元が異なる」ものでした。その圧倒的な需要の強さを目の当たりにしたことが、現在の桜珈琲の原点となっています。
ーー桜珈琲がターゲットとしている客層や、提供したい価値について教えてください。
髙田泰史:
ターゲットとして見据えているのは、日々の暮らしを大切に営まれている、50代~60代を中心とした女性たちです。「セレブな人が行く店ですよね」と言われることもありますが、決してそうではありません。
私たちが提供したいのは、親戚の結婚式などでホテルを訪れた際、式の前にロビーの喫茶店でお茶を飲む時間のような情緒感です。あの時に感じる少しの高揚感や特別感、情緒的な心地よさを、日々の生活を懸命に営まれている女性たちにこそ、日常の中で味わっていただきたいと考えています。
効率化を追わない「現場仕上げ」という武器
ーー多店舗展開を進める中で、商品づくりにおける強みはどこにあるとお考えですか。
髙田泰史:
可能な限りの「内製化」と「現場仕上げ」です。コーヒーの自家焙煎はもちろん、ケーキやクッキーも自社で手づくりしています。パフェの飾りに使うチョコレートに至るまで手づくりです。効率だけを考えれば、セントラルキッチンで全てを完成させて配送する方が利益率は上がります。しかし、人気のシュークリームやパンは現場で焼いた方が香ばしくて美味しいため、生地だけを仕込んで配送し、現場のオーブンで調理しています。
ーーなぜ、あえて手間のかかる手法を選択しているのでしょうか。
髙田泰史:
現場でカスタードクリームを炊いたりオーブンで焼いたりする工程は手間がかかり、効率化を優先するならば、避けるべき手法かもしれません。しかし私たちは「お客様がどちらを喜ぶか」を根底に置いています。また「自分たちが納得できないことはやらない」というスタンスを貫いてきました。この手間を惜しまず当たり前にやり続ける「現場仕上げ」へのこだわりこそが、他社には真似できない私たちの強みです。
数字よりも「どう喜ばせるか」 フラットな組織づくり
ーー組織づくりや人材育成において、大切にしていることをお聞かせください。
髙田泰史:
一番、避けたいのは、桜珈琲というブランドが劣化してしまうことです。その事態を防ぐため、現在はブランド推進室という部署を設けています。そこには私が現場で共に汗を流してきたメンバーが在籍し、彼らが全14店舗の状況を共有し合って、ブランドの維持に努めています。単に数字の管理ができる人材よりも、「どうやったらお客様が喜ぶか」「どうすれば従業員が楽しく働けるか」を考えられる思考力豊かな人材が、現在の桜珈琲の組織を支える重要な存在となっています。現場での苦楽を共有したメンバーだからこそ、そうした思考の根底が揃っており、立場に関係なくフラットに議論できる組織が構築できています。
ーー従業員の働きやすさについては、どのように取り組んでいるのでしょうか。
髙田泰史:
現在、パートやアルバイトも含めて約700名の従業員が在籍しています。働き方の多様性に対応するため、労働環境の整備を進めており、その一例として、従来の休日体系に加え、月10日休み・年間休日120日を選択できる働き方制度を導入しました。子育てが一段落した方が正社員として復帰できる環境づくりにも取り組んでいます。一人ひとりがライフステージに合わせて柔軟なキャリアを描き、現場で生き生きと活躍できるようこれからもサポートしていきたい。そう強く考えています。
飲食業を誇れる仕事に 「つながり」で紡ぐ未来
ーー今後の展望をお聞かせください。
髙田泰史:
まずは大阪で一番のカフェになり、「大阪のカフェと言えば桜珈琲」と名前が挙がるようにしたいですね。また、10年後には累計30店舗程度を目安に、大阪全域で知名度を高めていきたいと考えています。ただし、急激なチェーン展開をするつもりはありません。1年に1、2店舗ほどのペースで、血の通った店舗を一歩一歩丁寧に育てていきます。現場の空気を感じ、従業員やお客様とのつながりを保つためにも、私自身、週に数回は必ず自ら各店舗へ足を運んでいます。コーヒー豆やクッキーの配達に出向くこともあり、従業員と足並みを揃え、全員が自慢できるような会社とお店をつくっていきたいです。
ーー最後に読者や求職者へのメッセージをお願いします。
髙田泰史:
飲食業界には、将来のキャリアを描きにくい、あるいは労働条件が不安定といったイメージがあったかもしれません。しかし私たちは、安心して長く働ける環境と、一般企業に引けを取らない給与体系や福利厚生の仕組みを整えています。従業員が自らの仕事に誇りを持てるよう、組織としての基盤を築いてきました。「桜珈琲で働いています」「桜珈琲の店長です」と胸を張って言える場所を目指しています。多くの人から選ばれる会社へ、さらに進化を続けていくつもりです。
編集後記
徹底した内製化と、現場でのひと手間を惜しまない運営。タイパや合理性が重視される今の時代だからこそ、同社が提供する「日常の贅沢」が多くの人の心をつかんでいるのだろう。何よりも印象的だったのは、今なお自ら現場の空気を肌で感じようとする髙田氏の姿だ。顧客との強固な信頼関係を武器に、着実に歩みを進める同社の未来が楽しみだ。

髙田泰史/1978年2月28日生まれ、大阪府堺市出身。学生時代に店舗アルバイトとして従事。その後、大学卒業とともに正社員として入社し、パンの製造や新店舗の立ち上げなど、多岐にわたる現場業務を経験。実務を通じて店舗運営のノウハウを蓄積する。その後、専務取締役に就任し、郊外型カフェブランドの確立に尽力。ブランドのコンセプト策定や店舗展開を推進し、現在の事業展開に至る。