※本ページ内の情報は2026年10月時点のものです。

株式会社QRAUDは、大阪や東京などの主要都市を中心に、客単価数万円の「かにじぇんぬ 銀座」などハイエンド業態を展開する飲食企業だ。コロナ禍においても独自の出店戦略で成長を続け、現在はドバイなど海外市場への進出を本格化している。代表取締役の寺田幸宏氏は、24歳で独立し、マーケティング視点と類まれな業態開発力で事業を拡大してきた。AI時代における職人の食体験の価値を再定義し、業界最高水準の待遇で料理人の新たなキャリアパスを創出する同氏に、これまでの歩みと今後の展望をうかがった。

幼少期の経験と経営者への強い思い

ーーまずは、飲食の道に進まれた経緯を教えてください。

寺田幸宏:
私の実家は農家で、片親だったので仕事で家にいないことが多くありました。そのため、小学2年生の頃から弟と2人で食事をつくっており、小学6年生の時には自らスパイスを調合してカレーをつくるなど、自然と料理に触れていました。その後、高校時代に居酒屋でアルバイトを始め、ホール業務から調理補助まで幅広く経験する中で、飲食の仕事の楽しさを知っていったのです。

また、当時はお金に対するコンプレックスがあり、それを払拭するには自分で稼ぐしかないと考えました。そこで「稼ぐ=社長になる」という指標のもと、アルバイトを通じて大好きになっていた飲食で独立を目指すべく、迷わずこの世界に飛び込みました。

ーーその後、飲食企業の「株式会社ちゃんと」に入社された理由は何でしょうか。

寺田幸宏:
自分で飲食店を出すにしても、職人としてやっていくのか、経営者として展開していくのかを考えたとき、私は経営者として事業を広げることにより大きな関心がありました。そのため、まずは浅く広く業界を学ぶ必要があると考え、当時非常に勢いがあった飲食企業の「株式会社ちゃんと」に入社しました。将来のチェーン展開や経営のノウハウを吸収したかったのです。入社当初は自分に特別なスキルがなかったため、質より量でカバーしようと誰よりも早く出社し、遅くまで残って一生懸命に働きました。そうした下積みを経て、24歳の時に独立を果たすことができました。

マーケットインの視点と逆張りの出店戦略

ーー独立後はどのように店舗を展開されていったのですか。

寺田幸宏:
当初は、当時主流だった一般的な和食居酒屋を開業しました。しかし、次第にマーケティングやブランディングの重要性に気づき、独学で本を読み漁るようになりました。そこで学んだのが、自分たちがつくりたいものを出す「プロダクトアウト」ではなく、顧客の需要に応える「マーケットイン」の視点です。競合との差別化や集客の観点から市場を分析した結果、小さなマーケットでも確実な需要がある「かに」などのハイエンドな専門店業態へ転換していきました。これが現在の事業のベースとなっています。

ーーコロナ禍で好立地に出店を実現されたそうですが、どんな戦略を立てたのですか。

寺田幸宏:
2019年から東京に進出し、銀座や西麻布などに店舗を構えました。直後にコロナ禍となりましたが、他社が撤退して好立地の物件が空いたタイミングは、私にとって大きなチャンスでした。いずれ必ず市場は復活すると考え、あえて人と違う道を行く「逆張り」の決断をしたのです。社内の協力を得ながらしっかりと計算をした上でアクセルを踏んだことが、その後の事業拡大における大きな転機となりました。現在では大阪の北新地や北海道、金沢などの主要都市にも店舗を展開しています。

ーー業態開発において、社長ご自身がこだわっているポイントは何でしょうか。

寺田幸宏:
私は自分自身を「クリエイター型」の経営者だと捉えており、新しい業態のコンセプトづくりから内装の細部に至るまで、すべて自分で手掛けています。誰かに任せると、どうしてもコンセプトとのズレや違和感が生じてしまうためです。私の中には独自の「勝ち筋」があり、それに沿って食材や見せ方を変えながら事業を展開しているのです。0から1を生み出す部分は私が担い、それを1から10に拡大していく過程は社員の力に任せるという役割分担をしています。

海外市場への挑戦とスモールジャイアント戦略

ーー今後の事業展開として、海外市場へ進出される理由を教えてください。

寺田幸宏:
国内において、客単価数万円のハイエンド帯で全国展開している企業はほとんどありません。私たちはこのニッチな市場でトップを目指す「スモールジャイアント」戦略をとっています。しかし、「かに」のような食材は季節変動が大きく、夏場に利益を上げるのが難しいという課題がありました。そこで目を向けたのが海外です。海外のお客様は季節に関係なく日本の食文化を楽しんでくださるため、年間を通して安定した数字をつくることができます。こうした理由から、海外進出を本格化させることにしました。

ーードバイでの展開において、どのような勝機を見出していらっしゃるのでしょうか。

寺田幸宏:
世界中の市場を分析した結果、ドバイが最もリソースを最大限に活かせる場所だと判断しました。ドバイは非常に物価が高く、日本の数倍の売上高が見込める一方で、日本人経営の飲食店はまだ少なく、フロンティアと呼べる状態です。競合が不在の未開拓市場だからこそ、私たちが先行して本格的な和食やハイエンドな食体験を提供することで、圧倒的な先行者利益を獲得できると考えています。まずはドバイで大型店舗を成功させ、将来的には世界的なブランドを構築していきたいです。

料理人の未来をつくる「100人の社長輩出」

ーー国内においては、今後どのような価値を提供していきたいとお考えですか。

寺田幸宏:
AIやデジタル化が進む世の中だからこそ、人間が提供するサービスの価値が高まると考えています。効率化された仕組みは便利ですが、お客様の目の前で職人が技術を披露し、会話を楽しみながら食事をするという体験は、絶対にAIやロボットには代替できません。私たちは、こうした「職人による食体験」にこだわり抜き、他社には真似できない深い価値を提供し続けることで、確固たるブランドを築いていきたいと考えています。

ーー共に働く社員の皆様に対しては、どのような環境を整備していますか。

寺田幸宏:
社員の適性を見極め、最も力を発揮できるポジションを任せる適材適所の配置を大切にしています。また、独立支援にも力を入れており、会社に貢献してくれた人材には子会社の社長として店舗を任せるなどの仕組みも整えました。「ここで頑張れば将来は独立できる」という明確なキャリアパスを持てる環境をつくることで、モチベーション高く働いてもらいたいと考えています。

ーー最後に、組織としての今後のビジョンを教えてください。

寺田幸宏:
大きく2つの目標があります。1つ目は「100人の社長を輩出する」ことです。独立を目指す料理人が活躍できる魅力的なキャリアパスとステージを継続的に創出していきます。そして2つ目は、共に働く社員に業界最高水準の給与や待遇を提供することです。飲食業界でこれほど稼げるのかと驚かれるような水準を実現し、料理人という職業の価値を高めたいと考えています。社員の物心両面の幸福を追求し、共に成長できる組織にしていきたいですね。

編集後記

24歳での独立から、独学のマーケティングでハイエンド業態を確立し、世界を見据える寺田社長。「逆張り」を恐れない決断力と、細部まで妥協しないクリエイターとしての信念が、同社の圧倒的な成長を支えていると感じた。AI時代にあえて職人の手仕事と人間らしい温もりに価値を見出し、料理人のための新たなステージを切り拓くその姿勢は、今後の飲食業界における1つの希望となるだろう。国境を越えて挑戦を続ける同社の未来に、大きな期待を寄せたい。

寺田幸宏/1981年、大阪府生まれ。1999年、株式会社ちゃんとに入社。修行期間を経て2005年しゃにむに心斎橋本店を創業。2007年、株式会社QRAUDを設立し代表取締役に就任。現在国内外にてハイエンドレストラン業態を多店舗展開中。