
1956年の創業以来、福岡を拠点に自動車、食品、EC物流の3本柱で成長を続ける株式会社ロジテム九州。3代目として家業を継いだ末永浩司氏は、外資系コンサルティング会社や冠婚葬祭ベンチャーの立ち上げという異色の経歴を持つ。2016年の入社直後は現場との壁に苦しんだものの、「社員の幸福」を経営の原点に据えることで組織を劇的に変革させた。新卒採用の成功や独自の研修プログラムなど、次々と新たな挑戦を仕掛ける同氏に、これまでの軌跡と運送業界の未来を切り拓く独自の経営戦略をうかがった。
外資系コンサルから起業へ 異業種で培ったビジネスの土台
ーーまずは、これまでのご経歴を教えてください。
末永浩司:
幼少期はブラジルへ移住し、祖父のもとで育ちました。厳しい教育環境でしたが、幼い頃から海外を身近に感じて育ったのは大きな財産です。祖父の勧めでアメリカの大学に進学し、卒業後は世界的なコンサルティング会社であるPwCに入社しました。小学生の頃から将来は経営者になり家業を継ぐというイメージを持っていましたが、まずは外の世界でさまざまな経験を積みたいと考えたのです。PwCで3年ほど学んだ後、同期の友人と一緒に冠婚葬祭の会社をゼロから立ち上げる決断をしました。
ーーご自身で立ち上げられた会社では、どのような事業を展開されたのでしょうか。
末永浩司:
既存の形式にとらわれない、故人や新郎新婦の個性に合わせたプロデュース型の葬儀や結婚式を手がけました。業界の常識にない新しい試みだったため、当初は周囲から異端視され、業績的にも苦しい時期が続きました。しかし、自分たちの足で市場を開拓し、新しい価値を創造していく過程は非常に刺激的でした。また、営業から経理、総務に至るまで、会社のあらゆる業務を自らこなさなければならず、ここで培った地道な経験が、経営者としてのビジネス感覚を鍛える大きな土台になったと感じています。
社員への感謝から生まれた理念が組織を動かす「エンジン」に
ーーそこから2016年に家業に入った経緯と、当時の会社の状況について教えてください。
末永浩司:
会社が創業60周年を迎えるという大きな節目に、3代目として戻る決心をしました。ただ、私自身には運送に関する知識も現場経験も全くありませんでした。当時は会社を良くしたいという思いから、トップダウンでさまざまな新しいアイデアを提案したのですが、現場の理解を得られず、誰もついてきてくれないという状況に陥りました。ドライバーの離職というもともとの課題に具体的なアプローチができず、空回りしてさらに離職を招いてしまうなど、非常に苦しいスタートとなりました。
ーーそのような厳しい状況を、その後どう乗り越えていったのでしょうか。
末永浩司:
自分がこの会社で何をするべきか、何のために経営を行うのかを根源から見つめ直しました。そこで気づいたのは、私に自由なキャリアを積ませてくれた祖父や父への感謝と同時に、現場で日々汗を流し、会社を支えてくれている社員の皆さんへの深い感謝の念でした。お客様に質の高いサービスを提供するためには、まず現場で働く社員自身が幸せでなければなりません。そこで、「社員を幸福に導くこと」こそが経営者の最大の目的であると悟り、それを全ての原動力に据え直しました。
ーーその思いは、具体的にどのような形で社内に浸透していったのでしょうか。
末永浩司:
関係を構築するには時間がかかります。最初の5年間は土台作りの期間と位置づけ、社員との信頼関係を築くことに専念しました。そして2021年頃、経営の目的を言語化した理念を策定し、本格的に新卒採用を再開したのです。採用活動では「エンジン」というキーワードを掲げ、自らが歯車の中心となって周囲を動かせる人材を求めました。その結果、私たちの思いに共感した優秀な学生が次々と入社してくれるようになり、組織全体の熱量と成長のスピードが劇的に上がっていきました。
三つの柱と現場の力が生み出す独自の安定感と成長力

ーー貴社の事業の強みや、他社との違いはどのような点にあるとお考えですか。
末永浩司:
私たちの強みは、自動車、食品、そしてECという3つの異なる物流事業を1つの会社で展開している点です。特定の分野に特化する企業が多い中で、これほど総合的な体制を持つ会社は全国的にも珍しいのではないでしょうか。自動車輸送は景気の影響を受けやすい側面がありますが、日々の生活に不可欠な食品輸送が安定した基盤として会社を支えてくれています。異なる特性を持つ事業を組み合わせることで盤石な経営基盤を構築していることに加え、長年にわたる品質マネジメントシステムの運用など、安全・品質へのブレない取り組みが、お客様からの厚い信頼に直結していると考えています。
ーー業界全体で人手不足が課題となる中、貴社に人が集まる理由は何でしょうか。
末永浩司:
「社員を幸福にする」という理念を明確に言語化し、企業として本気で向き合っている姿勢が伝わっているからではないでしょうか。また、各現場の管理者が中心となって働きやすい環境づくりに尽力してくれていることも強みです。社員同士のつながりが非常に深く、最近では社員の紹介によるリファラル採用も予想以上の成果を上げています。目に見える制度面だけでなく、現場に根付く温かい社風や居心地の良さこそが、新たな仲間を惹きつける最大の魅力になっているのでしょう。
「Vision100」の実現へ 今あるものを守りながら進化する
ーー今後のビジョンとして掲げている目標について教えてください。
末永浩司:
私たちは現在、2033年までに売上高100億円を目指す「Vision100」という長期ビジョンを掲げています。「成長・進化・挑戦」の3つをテーマに据え、既存事業の拡大に加え、AIを活用した業務システムの自社構築や、M&Aによる異業種への進出なども積極的に進めていく計画です。また、これらを牽引する次世代のリーダーを育成するため、経営戦略室の立ち上げや独自の人材育成プログラムもスタートさせており、創業100周年に向けて組織を根本から強くする取り組みを加速させています。
ーー最後に、これからの展望に向けた意気込みを教えてください。
末永浩司:
売上高100億円という目標の達成も重要ですが、私たちがこれまで培ってきた社員やお客様との信頼関係を決して見失ってはいけません。会社の規模がどれほど大きくなっても、社員を幸せにし、その先にいらっしゃるお客様に価値を届け続けるという本質的な使命は変わりません。目標の数字にとらわれすぎることなく、先人たちが大切に守り抜いてきたものをしっかりと継承しながら、揺るぎない覚悟を持って運送業界の新しい未来を切り拓いていきたいと強く思っています。
編集後記
異業種でのゼロイチ経験を経て、家業の改革に挑む末永社長。入社直後の苦い経験から逃げることなく、社員への感謝を経営の原点に据え直したエピソードが非常に印象深かった。「エンジン」となる人材の育成や、AIを用いた業務改善など、運送業界の枠にとらわれない柔軟な発想力は、これまでの多彩なキャリアの賜物だろう。社員の幸福を土台に、100億円企業へと飛躍を目指す同社のさらなる成長から目が離せない。

末永浩司/1974年福岡県生まれ。Boston University経営学部卒業後、PwCコンサルティング株式会社へ入社。企業経営や組織運営を学び、自ら会社経営も経験した後の2016年、創業60周年の節目に株式会社ロジテム九州の3代目代表取締役社長に就任。「幸運を送る」という経営理念のもと、食品・商品車・EC物流を柱とした事業構造を構築し、社員満足度の追求とサービス品質の向上に注力している。