※本ページ内の情報は2026年10月時点のものです。

1969年に大阪府で生まれ、大手鉄鋼商社での経験を経て家業へ戻り、代表取締役に就任した株式会社三幸金属工業所の楠本正光氏。同社は鉄の一次加工を手がけ、日本屈指の加工設備と熟練の技術で業界内で独自の地位を確立している。長年にわたり高品質な製品を提供し続ける背景には、設備投資への先見の明だけでなく、「誠実さ」を何よりも重んじる組織風土があった。変化の激しい時代に自社ならではの強みをどう活かし、組織を育てていくのか。社長にこれまでの歩みと未来への展望をうかがった。

大手商社から家業へ 経営に近い環境での挑戦

ーーまずは、大学卒業から貴社へ入社されるまでの経緯を教えてください。

楠本正光:
大学卒業後は大手鉄鋼商社に入社し、5年間営業を担当しました。非常に大きな組織でやりがいはありましたが、決められた業務をこなすだけでなく、自分たちの成果が会社の利益や経営に直接つながるような、手応えのある環境の方が向いていると感じるようになります。ちょうどその頃、自社の和歌山工場が設立され、会社として規模を拡大していくタイミングを迎えました。外で経験を積んだこともあり、会社の成長に貢献したいという思いから、家業に戻る決断に至ったのです。

ーー実際に家業へ入られて感じた前職との違いや、貴社独自の強みについてお聞かせください。

楠本正光:
商社時代はメーカーに対して立場が弱い部分もありましたが、家業に戻ると、自社がメーカーの品物を多く扱い、しっかりと評価されていることに驚かされました。当時の社長は影響力が強く、現場の社員たちも熱気に溢れていたのを覚えています。言葉遣いは少し荒削りでも、お客様と深く人間味のある関係性を築いており、この会社が業界内で独自の存在感を放っていることを実感できたのは大きな収穫でした。

他社には真似できない設備力と品質を支える職人の技

ーー貴社がお客様から長く信頼され、高く評価されている理由を教えてください。

楠本正光:
最も大きな理由は、長年培ってきた品質への信頼と言えるでしょう。私たちは鉄のコイルを伸ばして切断し、平らな鉄板にする一次加工を行っていますが、中でも非常に分厚くて広いサイズのコイルを切断できる独自の設備を持つことが最大の強みとなっています。日本屈指のレベルを誇るこの機械により、他社ではなかなか対応できない領域までカバーできるからこそ、産業構造の変化に伴い加工需要が多様化する中においても柔軟にニーズに応え、高い評価をいただけているのだと思います。

ーーその高度な設備を活かすために、現場ではどのような工夫をされているのでしょうか。

楠本正光:
優れた設備はもちろん、それを最大限に活かすオペレーションの質も欠かせません。鉄のコイルは一つひとつ特性が異なり、硬さや柔らかさ、強度の求められる度合いも違うため、機械で単にまっすぐ伸ばそうと同じ力を掛けても、反りやひずみが残ってしまうからです。長年蓄積してきた経験をもとに、素材の特性に合わせて微妙な調整を行ってはじめて、高品質な製品へと仕上がるわけです。

誠実な人間性を第一に チャンスをつかむ組織へ

ーー現場の力を高めるために、人材育成や組織づくりにおいて大切にされていることは何ですか。

楠本正光:
社員には常に、主体性を持って行動することと、誠実な人間性を大事にしてほしいと伝えています。仕事をしていく上で、新しいことに挑戦して失敗するのは構いません。しかし、周囲に対する不誠実な姿勢や行動は決して許されません。一生懸命で誠実であること、そして謙虚さをベースに持ち、お客様や会社の仲間のために役立つ行動をとることが大切です。そうした人間としての基本を徹底していれば、自ずと会社の収益や個人の成長にもつながると信じています。

ーー最後に、今後会社としてどのような目標や展望を描いていらっしゃるか教えてください。

楠本正光:
鉄鋼業界は、自動車や建築、造船など多種多様な産業と結びついており、世の中の状況によって需要が大きく変動します。そのため、無理に特定の分野を急拡大するのではなく、まずは今ある独自の加工技術と品質をさらに高めていくことが基本です。その上で、世の中の動向やお客様のニーズの変化を冷静に予測し、訪れたチャンスを確実につかみ取れる組織でありたいと考えています。これからも人を大切に育て、時代の変化に対応していくつもりです。

編集後記

インタビューを通じて最も印象に残ったのは、楠本社長の飾らない誠実な人柄と、現場を支える社員への深い信頼だ。高度な設備というハード面のアドバンテージに甘んじることなく、それを操る製造現場をはじめ、営業部門、管理部門、全社員の「人間力」こそが自社の最大の強みであると語る姿には、長年現場と向き合ってきた経営者ならではの説得力があった。業界の動向を冷静に見極め、チャンスを逃さない確かな目と、人の質を磨いていきたいという信念。この両輪が、同社のさらなる飛躍を後押ししていくに違いない。

楠本正光/1969年1月、大阪府生まれ。1991年3月、大阪経済大学卒。1991年4月、日鉄物産株式会社入社。1996年3月、株式会社三幸金属工業所入社(主に営業、仕入担当)。2025年7月、代表取締役社長就任。