
株式会社富士精機製作所は、試作から量産まで一貫して手掛ける金属加工の専門企業である。特筆すべきは、多様な業界のニーズに応える高い技術力と、近年強化された「人の力」だ。同社を率いる永岡慶氏は、弁理士として活躍した後に家業へ転身し、社長として組織改革を推進してきた異色の経歴を持つ。本記事では、永岡氏に事業の強み、組織変革の道のり、そして未来への展望を聞いた。
弁理士から家業である製造業の社長へ
ーーこれまでのご経歴についてお聞かせください。
永岡慶:
早稲田大学法学部を卒業後、姉が弁理士だった影響で、私も同じ道に進みました。弁理士は特許やブランドなどを扱う法律家です。国際会議に参加するなどグローバルな活動にも魅力を感じ、資格を取得して特許事務所に入社しました。
弁理士として10年ほど、大手企業のブランド戦略などに携わりました。その中で、ブランドをつくることや事業を運営することに興味を持ち始めました。弁理士の仕事はやりがいもあり、報酬も高く魅力的でしたが、次第に「自分で何かを成し遂げたい」という思いが強くなりました。そして、父に相談し、弊社へ入社しました。
父は最初こそ反対しましたが、後で聞くと、当時は会社の売却等も考えていた時期だったようで、内心は嬉しかったようです。
ーー入社後から社長に就任される前までのことをおうかがいできますか。
永岡慶:
父は「私が入社したら、1年後に自分は辞める」と決めていたそうです。「言いたいこともあるだろうが、まずは私がやってきたことを真似してくれ」と言われました。そのため、入社して1年間は、父がそれまで築いてきたものを全て吸収するつもりで働きました。実際、父が現場を離れるまでに1年半ほど時間がかかりましたが、その後は私が経営を任されるようになりました。
3つの工場を「一つの会社」へ組織を変える取り組み

ーー社長就任後、最初に手掛けられた取り組みについて教えてください。
永岡慶:
社長に就任した頃、弊社には3つの工場がありました。しかし、工場が離れた場所にあることが影響して、それぞれが独立しているような状態。情報共有や連携が取れていませんでした。これを一つの会社として機能させることが急務だと感じました。
そこで、工場間の距離感を埋めるため、コロナ禍を機にデジタル化を推進。社内ポータルサイトを構築して全社の情報共有を進め、売上や経費、技術情報、社長メッセージなどをオープンにしました。加えてWeb会議を導入し、各工場で個別に行っていた会議を合同開催に変更しました。様々な取り組みを行いましたので、最初は戸惑いもあったようですが、結果的に一体感が生まれました。
この取り組みを進める上で大事にしたのは、社員に成功体験をしてもらうことでした。例えば、購買担当の会議を3工場合同で行うことで、大幅な経費削減を実現しました。その削減分を、給与アップは勿論ですが、社員の資格取得の支援や人間ドックの費用補助といった形で還元し、改革のメリットを具体的に示しました。これにより、社員の理解と協力が得やすくなったと感じています。
試作と量産を両立する「人の力」

ーー貴社の事業内容と、その強みについて教えてください。
永岡慶:
金属加工を主軸とし、対応する産業も自動車、船舶、航空宇宙、防衛など多岐にわたります。弊社の強みは、試作と量産の両方を高いレベルで手掛けられる点です。一つの製品開発において、試作から量産までを一貫してサポートできるため、お客様は効率的にプロジェクトを進められます。この両方を高い品質で提供できる企業は、国内でも珍しいと自負しています。
かつては5軸加工機を中心とした最先端の設備が強みでしたが、今は間違いなく「人の力」が強みです。組織改革を通じて3つの工場が持つ知識や技術が融合し、社員一人ひとりのレベルが格段に上がりました。試作で求められる高度な技術力と、量産で不可欠な管理能力。この両方を兼ね備えた人材が育ちました。これにより、多様な産業の複雑なニーズにも応えられるようになったのです。この「人の力」こそが、他社には真似できない弊社の絶対的な強みです。
社員と共に描く富士精機製作所の未来

ーー今後の事業展開や、社長が描く夢をお聞かせください。
永岡慶:
会社としては、現在の加工業を本筋としつつ、将来的には「ゼロからイチを生み出す」設計や自社ブランドの開発にも挑戦したいです。その実現のため、M&Aなど幅広い選択肢も視野に入れており、45歳くらいまでには何らかの形で実現したいと考えています。
個人の夢としては「いい社員、いい仲間と働きたい」ということに尽きます。
ーーどのような人材と共に、その夢を実現したいですか。
永岡慶:
前向きで向上心があり、常に自分を成長させようと努力する人と一緒に夢を実現したいです。昨日より今日、何か一つでも改善しようと考えたり、仲間を助けたりできる人。そして何よりも、挑戦する意欲のある人を求めています。失敗を恐れずに、本気で物事に取り組める仲間を歓迎します。
ーー最後に、読者へのメッセージをお願いします。
永岡慶:
私は、メジャーリーガーの今永昇太投手の「人生に2連敗はない」という言葉が好きです。「挑戦した時点でまず1勝。たとえ失敗しても、そこからまた挑戦すれば、それは新たな1勝になる」という意味です。もし今、何かに行き詰まりを感じているなら、新しい挑戦が状況を打開するきっかけになるかもしれません。本気で取り組む気持ちがあるなら、私たちは全力で応援します。
編集後記
弁理士という専門職から製造業の経営者へ。大きなキャリアチェンジを遂げた永岡社長。その言葉からは、論理的な思考力、人を巻き込む情熱、そして変化を恐れず挑戦を続けることの重要性を教えられた。3つの工場を「一つの会社」へと変革した実行力、そして「ゼロからイチを生み出したい」という未来への野心は、同社のさらなる飛躍の原動力となるだろう。

永岡慶/1985年、東京都出身。早稲田大学法学部卒業。弁理士資格を取得後、2011年に創英国際特許法律事務所に入社し、国内外の商標案件を担当する。2019年、株式会社富士精機製作所に入社。2022年に同社代表取締役社長に就任。また、2021年には弁理士法人LOBSTERを創業し、弁理士としての活動も継続している。
 
             
                        
 
                    
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
                     
     
     
                                