
エンタメ業界にデータ活用とマーケティングの概念を持ち込み、ファンとクリエイターをつなぐ独自の「ファンダムインフラ」を展開する株式会社OPENREC。同社は、サイバーエージェントグループからの独立を経て、ファンクラブやイベント、グッズ販売などを一元化する画期的なサービスを提供している。目先の利益にとらわれない独自の組織運営と、緻密なデータ分析を武器に新たなエンタメ市場を切り拓く兵頭陽氏に、これまでの歩みと今後の展望について詳しくうかがった。
数字至上主義からの脱却と「プロセス重視」の経営哲学
ーーまずは、これまでのご経歴について教えてください。
兵頭陽:
私はサイバーエージェントのグループ会社で代表を務めていた時代から、さまざまな事業に携わってきました。その中で最も印象に残っているのは、やはり独立を果たした時のことです。当時運営していたサービスの伸びしろを考えた際、外部企業と手を組むことが、ビジネスを加速させる上で非常に良い手段になると感じていました。そこで、事業の可能性を客観的に見つめ直し、ビジネスモデルとしてのマッチングを追求した結果、独立して現在の組織を立ち上げるに至りました。
ーー過去にご自身が最も壁にぶつかったご経験と、それをどう乗り越えたのかをお聞かせください。
兵頭陽:
20代のころに海外拠点の立ち上げなどを任されていた当時は、「私が頑張って売上高を伸ばさなければ」という思いが強くありました。しかし、目先の売上高だけを追い求めて自ら抱え込むスタイルは、周囲との軋轢を生み、うまくいかないことも多かったのです。そうした失敗を経て、売上高だけでなくコスト構造や収益構造に目を向けるようになりました。どこにどれだけの費用がかかっているのかを明確にし、利益を生み出す仕組みを規定することで、再現性のある経営思考へと移行できました。
ーーそのご経験を経て、現在リーダーとして大切にされている価値観は何でしょうか。
兵頭陽:
先行指標を設定し、それを着実に1年やり切ることです。結果が出始めるまでの期間を逆算し、まずは継続率や満足度といった指標の改善に粘り強く取り組むのです。ビジネスは一発勝負ではなく、100回中60回勝つための地力が重要となる長距離走だと考えています。だからこそ、最終的な結果だけでなくプロセスを重視し、相手の立場に立って先回りした準備ができているかを評価しています。結果が出なくてもプロセスが正しければ評価し、逆にプロセスが不十分なことは組織としてNGとする文化を築いてきました。
データ活用でエンタメを科学するファンダムインフラの独自性

ーー貴社が展開されている事業の強みや独自性について教えてください。
兵頭陽:
私たちは、ファンクラブや動画配信、オンラインイベント、グッズ販売などを一元化した「mellow-fan(メローファン)」というファンダムインフラを提供しています。エンタメ業界は感覚や流行が重視されがちですが、弊社はそこにデータの観点を取り入れました。同じサービス内でさまざまな機能を提供することで、チケットを購入した方がどのようなグッズを買ったのかといったユーザー行動の統合的な分析が可能になります。このデータを活かしたCRMマーケティングにより、エンゲージメントを高める効果的な施策を打てる点が強みです。
ーー大手の動画プラットフォームとは、どのような違いがあるのでしょうか。
兵頭陽:
YouTubeやTikTokなどの大手プラットフォームは、無料で動画を見せて新規のファンを獲得するためのオープンな場だと捉えています。一方、私たちのサービスは、すでにファンになっている方々に長く楽しんでいただくためのクローズドな場です。そのため、プラットフォーム同士で競合するのではなく、外部のサービスで新規ファンを増やし、私たちのサービスで関係性を深めるといった相互補完のパートナー関係を築いています。共通のインフラがあるからこそ、チャンネル同士のコラボレーション企画も実現しやすい環境にあるのです。
ーーファンの方々がクローズドな環境を利用するメリットはどこにありますか。
兵頭陽:
対価を支払って参加するクローズドな空間であるため、アンチと呼ばれる存在が入り込まず、居心地が良いという点が大きなメリットです。オープンな場では、ネガティブな意見や過激なコメントが注目を集めやすく、応援している人が傷つくのではと心配したファンが離れてしまうことも少なくありません。私たちのサービスではそういった心配がなく、安心して応援に集中できるとユーザーから評価していただいています。これは運営を続ける中で、現場の声から気づかされた重要な価値の一つです。
優れた制度とクリエイティブな風土が融合する組織カルチャー
ーー社内の雰囲気や、貴社ならではの組織カルチャーについてお聞かせください。
兵頭陽:
サイバーエージェントの優れた人事制度や組織づくりの仕組みをベースとして活用しつつ、私たち独自の文化を融合させています。社員はプロデューサーやデザイナー、企画担当といったクリエイティブな職種が多いため、穏やかで風通しの良い和やかな社風です。良い制度はしっかりと取り入れながらも、事業の特性に合わせた柔軟な組織運営を行っており、社員一人ひとりがのびのびと能力を発揮できる環境が整っていると感じています。
ーー和やかな組織をまとめる上で、コミュニケーションで工夫されていることは何ですか。
兵頭陽:
オンラインでの業務が進む中でも、オフラインでのリアルな交流が大切です。毎週の全社朝会に加え、月に1回は全社で集まり、対面での業績発表会や打ち上げを開催して、食事をしながら労をねぎらう場を設けています。こうした定期的なコミュニケーションの機会をつくることで、部署間の垣根を越えた連携が生まれやすくなり、組織としての一体感を醸成することにつながっているのです。
全国展開の基盤構築と次なる成長を牽引する幹部人材への期待
ーー今後の事業展開において、どのようなビジョンを描かれていますか。
兵頭陽:
今後3年から5年をかけて、全国展開の基盤をしっかりと構築したいと考えています。現在も年間100本ほど、ほぼ毎週末どこかの会場でイベントやポップアップを開催していますが、全国のファンから北海道や大阪、九州など、どこでも開催してほしいという声をいただいています。ゆくゆくは自社スペースを持ち、全国どこでもファンに体験を届けられるようにしたいです。また、東京ドーム公演のチケットを完売させた実績などを強みに自社IPをさらに強化し、ファンビジネスを検討する際に当たり前のようにトップ3に入る存在を目指して歩みを進めていきます。
ーーそのビジョンを実現するために、今後どのような人材を求めていますか。
兵頭陽:
事業拡大に向けて、営業本部長となる取締役級や、マーケティングやブランディングの責任者となるCMOやCBOといった幹部層を求めています。重視しているのは、特殊な業界スキルよりも、状況の変化に対応できる柔軟性や、論理的思考に基づいたPDCAを回せる力です。私たちが目指すのは、マーケティングの観点を持ったエンタメ企業。「組織を強くし、自ら引っ張っていきたい」という意気込みを持つ方と共に、新たなエンタメの常識を創り上げていきたいと考えています。
編集後記
エンタメという感覚的な世界に対し、確かなデータとロジックで挑む兵頭社長。20代のころの挫折から導き出された「プロセスを評価する」というブレない信念が、クリエイティブで温かな組織を力強く支えている点が非常に印象的だった。アンチのいない居心地の良い空間を生み出し、ファンとタレントの双方に幸福な循環をもたらす「ファンダムインフラ」。新たな価値を提供する同社が、エンタメ業界のインフラとして絶対的な存在になる日はそう遠くないはずだ。

兵頭陽/2013年、株式会社サイバーエージェントに入社し、CyberZに配属。スマートフォンアプリ向け広告マーケティングに従事し、同年のサイバーエージェント社員総会で「新人賞」を受賞。その後、APAC地域での広告事業展開を牽引し、2015年にCyberZ台湾・韓国支社の取締役、2016年にはCyberZ USA代表に就任。2019年よりCyberZの取締役にも就任し、OPENREC事業部の責任者として動画配信事業を統括するなどエンターテインメント分野での事業拡大を推進した。2022年12月、株式会社OPENRECを設立し、代表取締役社長 CEOに就任。