
1972年の創業以来、日本のスポーツ用品小売業界を牽引し続ける株式会社アルペン。スキーブームを背景に急成長を遂げた同社。現在は全国に広がる店舗網と多彩な自社ブランドを武器に、人々の生活にスポーツの楽しさを提供している。創業者の背中を見て育ち、37歳で経営トップを引き継いだのが代表取締役社長の水野敦之氏だ。伝統の強みである団結力を生かしつつ、主体性を重んじる組織改革を断行した。スポーツのワクワク感を体現する現場主義の哲学と、未来へ向けた戦略の全貌を紐解く。
スポーツのワクワク感を原体験に 挑戦を後押しする風土へ共鳴
ーーまずは、これまでのご経歴とご入社の経緯について教えていただけますか。
水野敦之:
アルペンは父と母が創業した会社ですので、物心ついたときから父の背中を見て育ちました。幼少期から、いつかは自分がこの会社を継ぐのだという意識を常に持っていたように思います。ただ、そこに義務感や「やらなきゃいけない」といった後ろ向きな考えは全くなく、私自身も前向きな意思で臨んでいきたいと思っていました。そのために必要なことは何かを、学生時代からずっと考えながら過ごす毎日でした。
ーーご自身は、これまでスポーツとどのように関わってこられたのでしょうか。
水野敦之:
会社の原点がスキーであったこともあり、幼い頃から冬になると両親に連れられてスキー場へ通うのが恒例でした。小学校から競技スキーを始め、中学、高校、大学までスキー部に所属して打ち込んできました。その経験を通じて、スキーの楽しさや純粋なワクワク感、そして挑戦する楽しさを肌で感じることができました。この楽しいスポーツを仕事にできるのであればぜひ担っていきたいと、当時の私は強く思っていました。
ーーそのスポーツへの熱意が、入社の決め手となったのでしょうか。
水野敦之:
入社の最大の決め手は、私の挑戦を好む性格と会社の社風が深く共鳴したことです。弊社は私が幼い頃から、挑戦と失敗を糧に成長し続けてきた組織です。新たな試みを歓迎する会社の姿勢と、未知の領域に挑みたいという私自身の思いが強く合致していると確信しました。そのため、他社と比較して迷うことは一切なく、ごく自然な流れで入社に至りました。
現場主義の徹底で学んだ圧倒的な団結力とスピード感というDNA
ーーアルペンに入社後は、どのような業務からキャリアをスタートされたのですか。
水野敦之:
新卒で入社した社員は、入社後まずは店舗配属になりますので、私も近隣の店舗での販売業務から始めました。同時に、月に1、2回は全国の店舗を巡回する時間をつくっていました。ゴルフ場などのリゾート施設も含め、全国のどのような場所に店舗があるのか。どのような事業所があるのかを実際に見て回りました。最初の数年間は、そうやって現場主義の基礎を築く期間を過ごしました。
ーー現場で経験を積まれる中で、当時感じた組織の強みとはどのようなものでしたか。
水野敦之:
創業以来のDNAともいえる、決定後の圧倒的な団結力とスピード感です。当時は強力なトップダウン体制で、一度方向性が決まると全員が一丸となって一気に動き出す力がありました。取引先の方々とお話ししていても、「アルペンさんの団結力とスピード感は本当に素晴らしいですね」と褒めていただくことが多いですね。これが弊社の最大の強みであると実感しています。
ゼロからの事業立ち上げと業態転換による新たな成功モデルの構築
ーーその後、経営陣に参画されるまでに、どのような挑戦がありましたか。
水野敦之:
2006年の株式上場に向けた準備として、経営企画室でIRや成長戦略の策定に関わった時期があります。これは上場企業として求められる水準の事業戦略をつくる貴重な経験となりました。また、現在の主力となっているプライベートブランド「TIGORA(ティゴラ)」の立ち上げにも参加しています。多種多様な機能や新事業のゼロイチの立ち上げにマネジャーとして携わってきました。

ーー多様なプロジェクトの中でも、特に印象に残っている事業を教えてください。
水野敦之:
1つ目は、2018年に立ち上げた「アルペンアウトドアーズ」の成功です。当時ウィンタースポーツの売上高が落ち込み、赤字が続いていた700坪程度の店舗がありました。そこで思い切って、キャンプ用品だけを扱う専門店へと改装したのです。実際にテントを試し張りできる実体験型のレイアウトや圧倒的な品ぞろえがお客様に支持されました。一気に店舗数を拡大する成功モデルとなりました。
2つ目は、2022年の旗艦店「Alpen TOKYO」のオープンです。今や年間レジ客数が約100万人となり、当初の想定をはるかに上回るお客様に来店いただいています。世界各国からもお客様が訪れており、日本のみならず世界的に見てもトップクラスのスポーツ店をつくることができていると自負しています。こうした旗艦店の成功は、実店舗の必要性を示すことになりました。
専門人材の登用と評価制度の刷新による自律的なボトムアップ組織へ
ーー経営を担われる立場となり、組織体制の面ではどのような改革を進めましたか。
水野敦之:
業績を改善し次の成長に向かうため、まずは戦略とマーケティングの専門人材を外部から積極的にスカウトする決断を下しました。当時はチラシやテレビCMが中心だったものの、急速に広がるデジタル化に対応するには外部の知見が不可欠だったからです。そこで経験豊富な人材を招き入れ、デジタル主導のマーケティングへと急速にシフトさせています。このような取り組みを通じ、時代に合わせた体制の構築を進めていきました。
ーー組織を変革していく上で、他に注力された部分はありますか。
水野敦之:
社内の人事や教育体制も大きく見直しました。以前は長く働いている人が上のポジションにつく年功序列が色濃く残っていましたが、それでは20代、30代の優秀な社員が報われず離職してしまいます。そこで、成果を出した人が正当に評価される制度へと刷新しました。また、チームワークや挑戦のスピリットといったコンピテンシー(知識やスキルを使いこなす能力)を高めるため、他社から有識者を招へいして教育体制も強化しています。並行して、デジタルと物流部門の変革にも注力しました。
ーーそうした改革を通じて、社内の文化はどのように変わっていきましたか。
水野敦之:
従来のトップダウンによるいわば指示待ちの状態から、一人ひとりが主体性を持つボトムアップ型の組織へと進化してきました。お客様の価値観が多様化する現代において、上層部だけですべての正解を見つけることは不可能です。団結力とスピード感という良い部分は残しています。一方で、現場の社員自らが課題を発見し、チームワークで解決していく自律的な文化が根付いてきたと感じています。
「自分自身がワクワクするか」を判断軸に 現場に任せる店舗づくり

ーー変革を進める中で、経営判断の軸として大切にされている価値観を教えてください。
水野敦之:
「自分自身がワクワクできるか、消費者として本当に行きたいと思えるか」を常に基準にしています。そのために日頃から「現地・現物・現実」を徹底し、常に現場へ足を運ぶことは欠かせません。国内だけでなく海外にも定期的に赴き、他市場のトレンドや人々の生活文化を直接体験しながら、そこからビジネスのヒントを得るように努めています。
ーー現場での体験を、実際の店舗づくりにどのように生かしているのでしょうか。
水野敦之:
店舗づくりに関しては社員を信頼して任せており、「自分たちがワクワクするお店をつくってほしい」とだけ伝えています。担当部署の社員たちは自発的に世界中のトレンドを見て回り、独自のアイデアを形にしてくれています。2026年8月にオープンした旗艦店Alpen OSAKAも、彼らが実体験をもとにつくり上げてくれました。非常にクオリティの高い店舗に仕上がっています。
体験価値を追求した店舗空間と自らスポーツを楽しむ社員の力
ーーお客様から最も評価されている貴社の強みはどこにあるとお考えですか。
水野敦之:
お店に一歩足を踏み入れた瞬間から、スポーツの魅力の一つである「高揚感」を全身で味わえる空間づくりにこだわっています。たとえば旗艦店のランニング売り場では、実際の陸上競技場と全く同じ素材を床に敷き詰めていますし、足裏から伝わる本格的な感触と、空間を彩る巨大なサイネージの迫力が、走る前の期待感を一気に高めてくれます。またアウトドアエリアでは、実際に自分たちでテントを張ったり畳んだりして、リアルな使い心地を確かめられる実体験型のレイアウトを採用しています。ただ商品を選ぶだけでなく、こうしたテーマパークのような体験価値やワクワク感を店舗全体でご提供できている点が、お客様から高く評価されている理由だと考えています。
ーー店舗の空間づくりに加え、商品や品ぞろえでこだわっている点を教えてください。
水野敦之:
ナショナルブランドのメーカー様と企画段階から協業しています。弊社でしか展開できないエクスクルーシブ(限定)商品の展開に力を入れています。同時に、プライベートブランドの開発力も強みです。「TIGORA」のリカバリーウェアや本格的なランニングシューズなど、お客様の期待を超えるヒット商品を次々と生みだし、品ぞろえの魅力を大きく底上げしています。
ーー魅力的な店舗や商品を届けるために、現場で工夫されていることはありますか。
水野敦之:
弊社では「スポーツチャレンジ」という取り組みを実施し、社員自らがスポーツを楽しむ「リアルプレイヤー」になることを推進してきました。ランニングやゴルフ、アウトドアなど、自ら競技を実践して得た実体験が、お客様への説得力ある提案や自信へとつながっていくのです。この「人」の力こそが、弊社の圧倒的な強みを支える土台といえます。
地域一番のスポーツインフラを目指して 挑戦を楽しむ人材への期待
ーーそうした貴社のビジョンを、社内に浸透させるために工夫されていることは何ですか。
水野敦之:
ぶれないメッセージを直接反復して伝えることです。年2回、期初や年頭のタイミングで方針を全社へ発表しますが、その後全国各地に出向き、店長から直接質問を受けながら、対話を重ねています。そこではリアルでしか伝えきれない背景や熱量を、私の言葉で直接伝えます。また、社内SNSを通じた発信も継続し、大切な価値観を何度でも繰り返し全社員に届けるよう徹底していく方針です。
ーー今後見据えている中長期的な目標や、10年後の理想像についてお聞かせください。
水野敦之:
10年後には、各エリアの店舗が「地域で一番ワクワクするスポーツの玄関口」になることが理想です。いわばスポーツインフラのような存在です。中長期的な数値目標としては、2029年に売上高3350億円、営業利益160億円を目指しています。ロードサイドやショッピングセンターへの新規出店と既存店の強化を両輪で進め、企業ブランドの価値向上を図っていきます。
ーー最後に、これからともに働く未来の仲間に向けてメッセージをお願いします。
水野敦之:
挑戦を心から楽しむことができ、スポーツのワクワク感を自ら体現できる「スポーツマインド」を持った方に来ていただきたいですね。日頃からスポーツ用品に囲まれ、新しいスポーツの形や価値を世の中に提案できる素晴らしい環境だと自負しています。スポーツが好きな人にとっては最高の会社だと確信していますので、ぜひ私たちと一緒に新しい歴史をつくっていきましょう。
編集後記
幼少期からスキーに打ち込み、スポーツの楽しさを誰よりも知る水野社長。創業以来の強力なトップダウン組織を、社員一人ひとりが躍動するボトムアップ型へと変革させた軌跡。そこには現場への深い信頼と「自分がワクワクするか」という明確な信念が貫かれていた。店舗を単なる売り場ではなく、スポーツの熱量を共有する「インフラ」へと進化させる株式会社アルペン。自らがスポーツを楽しむリアルプレイヤー集団が描く未来の景色に、これからも期待していきたい。

水野敦之/1977年生まれ。愛知県出身。2000年に法政大学経済学部卒業後、株式会社アルペンへ入社。2010年、早稲田大学大学院経営管理研究科修了。2014年に取締役、翌年3月に常務取締役デジタル推進本部長兼デジタルマーケティング部長、9月に専務取締役マーケティング本部長を経て、2016年に代表取締役社長に就任。