通信販売業界は、消費者の嗜好や購買行動の変化に迅速に対応することが求められる競争の激しい分野だ。そんな中で、40年以上にわたり独自のポジションを確立し、革新的な商品開発で顧客の心をつかみ続けてきたのがインペリアル・エンタープライズ株式会社(I・E・I)である。
現在は、エンターテインメント部門も強化しPREMICO(プレミコ=プレミアムコレクション)ブランドの展開により新たな成長を遂げている同社。代表取締役社長の原良郎氏から、ユニークな商品企画開発の哲学、そして今後の展望についてうかがった。
新たな挑戦を求めて航空業界から通販業界へ転身
ーー代表取締役になるまでの経緯を教えてください。
原良郎:
インペリアル・エンタープライズ株式会社は、1982年に創業しました。オリジナル商品の通信販売会社として設立され、今年で42年目を迎えます。私が代表取締役社長に就任したのは2016年6月です。
私が入社したのは、今から約20年前のことです。それまでは日本航空(JAL)に勤めていました。航空会社から通信販売会社への転職は、多くの人には意外な選択と思われたかもしれませんが、この決断が私のキャリアに新たな方向性をもたらし、ビジネスに対する視野を大きく広げてくれました。
ーー航空業界と通販業界との違いに戸惑いはありませんでしたか?
原良郎:
最初に驚いたのは、消費者ビジネスの特性です。日本航空で私が携わっていた業務はBtoB(企業間取引)でした。BtoBビジネスの特徴は、業績が極端に変動しないことです。それは、取引先との間にギブアンドテイクの関係があり、互いに中期的な視野でビジネスを捉えているからです。
一方、BtoC(企業対消費者)はまったく異なります。消費者との間にはギブアンドテイクの関係も、中期的な観点での付き合いもありません。お客様は常に目の前の商品やサービスの魅力だけで判断します。お客様の動向によって業績は大きく変動します。この違いに、BtoCビジネスの難しさを痛感しました。
「創造が、想像を超えていく」という企業理念に基づく商品開発
ーー貴社の事業の特徴を教えてください。
原良郎:
弊社は、ユニークで高付加価値な美術工芸品や宝飾品、コインなどの趣味収集品をオリジナル企画・開発し、通信販売業界で独自のポジションを確立しています。
従来の大手カタログ通販とは一線を画していた私たちの強みは、「ソロDM」と呼ばれる単品DMの手法です。これは、一つの商品ごとに単体でパンフレットを作成し、プロファイリングによりセグメントしたお客様に直接送付するという方法です。
具体的には、RFM分析(Recency:最終購買日、Frequency:購買頻度、Monetary:購買金額)を用い商品特性等を絡めて顧客をセグメント化し、各セグメントに対して段階的にアプローチします。最初は全体の1割程度にDMを送付し、反応の良かったセグメントに対してさらに展開を広げていきます。テストアンドロールでリスクを最小限に抑えながら、ポテンシャルを最大化する戦略です。
このようにして少しずつ市場を確立し、現在は年間150本から200本程度の商品企画開発を行っています。
ーー商品企画開発にはどのようなこだわりをお持ちですか?
原良郎:
私たちの商品企画開発の核心は、しっかりとした商品コンセプトをつくることにあります。その軸となるのは、お客様が商品を通じて得られる「体験的な価値」です。私たちはこれを「コンシューマーベネフィット」と呼んでいます。
「夢や憧れが満たされる」「癒しを感じる」「元気づけられる」といった体験的価値は、プライスレスです。金銭的な価値では計れない、心の豊かさや満足感をもたらすものだからこそ、非常に高いバリューを持つと考えています。この考え方に基づいて開発された商品は、必然的にユニークでオリジナリティがあり、高い付加価値を持つことになります。
また、私たちの商品企画開発の根幹には、「創造が、想像を超えていく」という理念があります。この言葉には、お客様の期待を超える価値を生み出そうという私たちの決意が込められています。さらに、商品開発においてはお客様に「驚き」と「気づき」を届けることを重視しています。
私たちが目指すのは、お客様がまだ気づいていない潜在的なニーズ、いわば「隠れたワクワク」を見出し、形にすることです。「あ、こんなものがあったんだ」という新鮮なときめきや感動をお客様に提供することが、私たちの目標なのです。
エンターテインメントコンテンツと融合し更なる成長を目指す
ーーアニメキャラクターやスポーツといったジャンルにも挑戦されていますね。
原良郎:
入社当時、カタログ通販というビジネスモデルの将来性に対して、漠然とした不安を感じていました。「紙媒体を主体としたツールがどこまで通用するのか」「お客様の年齢層が上がっていく中で、この先どこまで支持されるのか」という懸念があったのです。
そんな中、2006年頃に「名探偵コナン」の10周年記念時計の企画に挑戦してみたところ、予想をはるかに上回る売上を記録することができたのです。この成功を機に、私たちは新たな方向性を見出しました。アニメーション、ゲーム、音楽、スポーツ、映画といったエンターテインメントの分野に可能性を感じたのです。
プレミアムな価値を持つコレクターズアイテムの企画・開発をコンセプトとする「PREMICO(プレミコ)」ブランドを立ち上げ、エンターテインメント部門の強化に努めてきた結果、アニメキャラクターなどの人気コンテンツと、時計やコイン、伝統工芸品とのコラボレーションにより、従来にない高付加価値なオリジナル商品を生み出すことができました。
この部門は景気や異常気象等による影響を受けにくく、デジタルを中心に効率の良いプロモーションを行うことが可能です。
ーー今後、この会社をどのようにしていきたいとお考えでしょうか。
原良郎:
まず、豊富な人財を結集し、現在注力しているエンターテインメント部門をさらに極めていきたいと考えています。アニメやゲームの分野ではかなりの実績を積み重ねてきましたが、音楽やスポーツ等他の分野にもまだまだ大きな可能性があると感じています。その上で従来のビジネスもさらに発展させていきたいと考えています。
ただし、私たちの本質的なビジョンは「常に変化し続けること」です。状況を見極めながら、新たな有望分野が現れれば、そちらへ舵を切ることも躊躇しません。これは弊社のポリシーであり、ビジョンでもあります。
編集後記
「創造が、想像を超えていく」という原社長の言葉が印象的だった。このミッションのもと、インペリアル・エンタープライズ株式会社は40年以上にわたり、顧客に驚きと気づきを与え続けている。アニメやゲームとのコラボレーション、そして音楽やスポーツ分野への展開など、同社の挑戦に終わりはない。「常に変化し続けること」を企業のビジョンとする原社長の姿勢に、激変する市場で生き残り、成長を続ける企業の在り方を学んだ。
原良郎/1963年東京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後に日本航空に入社。2005年にインペリアル・エンタープライズに入社。2016年に代表取締役に就任。