
オートバックス(車用品店)のフランチャイズ加盟企業として、石川県下で10店舗を展開し、県内の自動車免許保有者の50%前後の会員を有する和希株式会社。同社はテレビCMに社員を起用し、働きがいの向上と知名度アップを同時に実現するほか、「チャレンジ制度」を導入し、社員が自ら描くキャリアプランの実現を強力にバックアップしている。
社長就任から11年、改革の手綱を緩めることなく突き進んできた代表取締役社長の山口武氏に、同社独自のキャリアアップ制度や事業の強みについて話をうかがった。
営業のプロから経営者へ、予期せぬ転機でつかんだ新たな挑戦
ーー社長に就任するまでの道のりをお聞かせください。
山口武:
前職では損害保険会社に勤務していました。その理由は、信用でビジネスが成り立っている仕事に魅力を感じたからです。私はもともと人と話すことや数字を見ることが好きだったため、非常にやりがいを感じていました。
成果を意識して業務に取り組むことで成績を伸ばし、最年少で管理職になりました。当時の私は、「いつかこの会社の社長になれるかもしれない」ということを考えるほど、自信に満ちあふれていたと思います。そんなとき、弊社の創業者の娘と結婚し、妻の父からアプローチを受けて入社することになったのです。
右も左もわからない状態で入社した上、「1年経ったら社長をやってほしい」と言われて戸惑いましたね。しかし前職で代理店経営者を主導する立場におり、経営者マインドを学んでいたので、「なんとかなるだろう」という思いもあり、入社2年目に社長に就任しました。
ーー社長就任後はどのような取り組みをしましたか?
山口武:
経営者となった1年目は、弊社の弱みを徹底的に洗い出しました。全社員に対してアンケートを実施し、働きやすさや社内の雰囲気、将来のキャリアプランについてヒアリングを行ったのです。その結果、顧客満足度や従業員満足度が低い状態だということが判明しました。そこで、会社を変えるためにさまざまな改革に着手したのです。
たとえば、主にチラシを活用していた広告手法を刷新し、テレビCMなどメディアへの露出を増やしました。1年間のうち10ヵ月間、北陸全域でテレビCMを継続的に配信して、CMに社員を登場させ、車の整備や接客をしている姿を放送しました。このCMは、単にメディアへの露出が増えたというだけでなく、社員の働きがい向上にもつながっています。
他にも、未出店エリアに新規出店したり、周年祭などの自社イベントを開催したりして、会員数を増やす施策を行いました。これらの取り組みによって、私の社長就任時の会員数から現在の会員数が、数万人増えたのです。
石川県内に存在する自動車免許取得者の数は約70万人ですから、県内の免許取得者の6割近くが弊社の会員だということになります。弱点を強みに変えることができ、まさに快挙を成し遂げたといえるでしょうね。
社員の自発的な成長を促す「チャレンジ制度」

ーー社員の成長を支援する取り組みについて教えてください。
山口武:
社員からの提言によって、さまざまな人事制度を改革しました。たとえば、「一生涯働きたい」という声に応えて、定年退職制度を撤廃しています。また、希望者が少なかった店長職について、手当を3万円から12万円に引き上げて、キャリアアップに夢が持てるようにしました。
さらに、自分自身のキャリアプランを上長に申告する、「チャレンジ制度」というシステムも導入しています。これは、より上の役職を目指したい人が、「自分は何年以内にこの役職になりたい」と手を挙げると、上長がその目標達成のための課題を設定し、進捗管理を行うというシステムです。このシステムによって、年功序列による昇進は廃止され、「自分が目指すポジションは自分で勝ち取る」という仕組みができました。
このような人事制度の改革によって、社員が常に上のポジションを目指し、チャレンジするという社内風土が醸成されています。ありがたいことに、現在では全社員のおよそ3分の1が何らかにチャレンジし、その25〜30%が目標を達成できているという状況です。
地域密着型イベントを通じて深める、地域社会とのつながり
ーー貴社の特徴や強みはどのようなところにあるとお考えですか?
山口武:
オートバックスグループの全体の中でも、石川県は全国で3本の指に入るほど高いシェアを誇っています。その石川県で、多くの会員の方に支えられていることが、弊社の最大の強みだといえるでしょう。
また、弊社は販売促進やイベント企画に強く、得られた利益は毎年地域に還元しています。たとえば1000万円を地域に寄付して、石川県立音楽堂を貸し切ってコンサートに子どもたちを招待したり、大きなイベント会場に石川県内の有名なパン屋さんを集めて「オートバックスパン祭」というイベントを行ったりしました。
店舗にご来店いただいたときにはビジネスとしての使命を全うし、社外においては、地域の皆さんに喜んでいただける場を提供する。このように事業と地域貢献をメリハリをつけて取り組んでいることが弊社の特徴であり、地域の方から支持される理由であると考えています。
ーー最後に、貴社の中長期的な展望をお聞かせください。
山口武:
これまで続けてきた石川県への地域貢献を、さらにバージョンアップしていきたいですね。弊社に限らず、経営者にとって、いかに事業の基盤となる地域に貢献するかということは重要な課題であると考えます。
今後5年、10年と社内外での取り組みを継続し、これまで少人数で実施してきた活動を拡大するとともに、ビジネスマッチング可能な企業数を増やし、更なる事業成長を目指していきたいです。加えて、すでにスタートしている地域に密着した活動を拡げて、店舗数や売上を増やしたいと考えています。
編集後記
取材中、山口社長は「地域貢献」という言葉を何度も口にされた。音楽堂でのコンサートやパン祭りなど、利益の還元方法は実に多彩だ。ビジネスと地域貢献を明確に分けながら、両者を高い次元で両立させている点に感銘を受けた。社長の穏やかな語り口からは、地域への深い愛着と、さらなる貢献への意欲が伝わってくる。その真摯な経営姿勢こそが、同社の成長を支えているのだと実感した。

山口武/1969年、大阪府生まれ。下関市立大学経済学部卒業後、1991年にあいおいニッセイ同和損害保険株式会社に入社。2013年、和希株式会社に入社し専務取締役に就任。2014年、代表取締役社長に就任。お客様満足度(CS)と従業員満足度(ES)の向上を同時に遂行することを使命としている。