※本ページ内の情報は2025年9月時点のものです。

「サンマルクカフェ」や「鎌倉パスタ」など、多彩なブランドを国内外に展開し、顧客に「最高のひととき」を提供し続ける株式会社サンマルクホールディングス。同社は店内調理にこだわることで、独自の価値を創出してきた。2022年、コロナ禍の最中に代表取締役社長へ就任したのが、証券会社出身の経歴を持つ藤川祐樹氏である。創業者が築いた無借金経営の伝統を、いかに変革したのか。未曾有の危機の中で、未来への舵を切ったのか。金融の知見を活かした200億円の資金調達の裏側や創業者の哲学の継承。そして「日本を代表する外食企業」を目指す同社の今後の展望について、詳しく話を聞いた。

無借金経営の伝統を破った社長就任直後の大改革

ーー貴社に入社された経緯についてお聞かせください。

藤川祐樹:
大学卒業後は新卒で証券会社に入り、4年目に岡山へ転勤して弊社の担当になりました。そして創業者である片山と出会います。その聡明な人柄と経営者としての凄みに惹かれ、入社を決意したのですが、2018年に片山は他界。その後残った経営陣からも誘われたため、入社することとしました。しかし、その1年後にはコロナ禍が訪れたのです。全店の営業を自粛したことで、月の現金支出が20億円以上に達しました。このままでは資金が枯渇するという、強烈な危機感を覚えたのです。

無借金経営を貫いていたため、銀行取引はほとんどない状態でした。そのため資金調達は困難を極めます。ですが前職の証券会社時代に得た知見を活かし、コストを抑えた個別交渉を選択しました。最終的に200億円の調達に至りました。

ーーそれまで貫いてきた無借金経営の方針を変える決断をされたのはなぜですか。

藤川祐樹:
まさに創業者の思いを、ある意味で裏切る決断でした。しかし、その片山は、常々こう口にしていました。「会社は環境変化適応業である」と。過去の成功に固執して未来を失ってはなりません。創業者が残したこの哲学が、会社の存続をかけた私の決断を後押ししてくれました。この経験が、今の弊社をつくる大きなきっかけになった。そう確信しています。

全従業員に根付く「年輪経営」の企業文化

ーー貴社の強みである社風や経営理念についてお聞かせください。

藤川祐樹:
入社して感じたのは、社員が非常に真面目であることです。一つひとつの業務に愚直に取り組む文化があると感じました。これは創業者が大切にした、急成長よりも着実な前進を重んじる「年輪経営」の考え方が根付いているからでしょう。

そして、すべての事業の原点にあるのが「私たちはお客様にとって最高のひとときを創造します」という経営理念です。これは「食を通じて」に限定されません。私たちの存在意義そのものを示しているのです。

ーーその理念を、事業や商品でどのように体現されているのでしょうか。

藤川祐樹:
従業員には「お客様の事前期待を超える」という言葉で伝えています。例えば、弊社はセントラルキッチンを持たず、店内調理にこだわっています。サンマルクカフェのパック詰めサンドイッチも、実は毎朝店舗で手づくりしているのです。

また、自動化が進む中でも、人がサーブするパンの食べ放題など、お客様との温かい接点を大切にしています。こうした一つひとつのこだわりが、お客様の期待を超える驚きと喜びを生みます。それが最高のひとときにつながると信じています。

売上1000億円の先に見据える真の外食企業の姿

ーー今後の人材育成、採用についてはどのようにお考えですか。

藤川祐樹:
企業の成長は、人の成長なくしてあり得ません。今後は、業態をまたいだ異動や本部と現場の交流を活性化させます。そうして多角的な視点を持つ人材を育成します。外食産業にありがちなオペレーション偏重の教育は行いません。経済も学べる社会人基礎力の向上に、力を入れていきます。求めるのは、変化を好む人材です。変化に対応するだけでなく、自ら変化を楽しみ、起こせる人材。そのような方々と、未来を創りたいと考えています。

ーー最後に、目指す今後のビジョンをお聞かせください。

藤川祐樹:
私たちの目標は、日本を代表する外食企業になることです。お客様はもちろん従業員からも評価される会社になることです。働きがいと働きやすさを両立できる環境を整備します。そして、社員が誇りを持って働ける企業を目指します。そのために、海外展開の加速や国内ブランドの価値向上にも積極的に取り組みます。

さらに、経営理念の実現を追求し続けます。そうすることでお客様、そして従業員にとってなくてはならない存在となります。その先に、真の日本を代表する外食企業としての未来が拓けると信じています。

編集後記

証券界から転身し、コロナ禍という未曾有の危機を乗り越えた藤川氏。冷静な分析力と、創業者の哲学を胸に下す大胆な決断。その実行力には並々ならぬ胆力がうかがえる。従業員からも愛される会社を目指すという温かな姿勢。そして、1000億円企業を目指す高い視座。この二つを併せ持つリーダーのもとで、同社の挑戦は続く。

藤川祐樹/宮城県出身。2011年、首都大学東京(現・東京都立大学)都市教養学部を卒業後、三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社に入社。2019年にサンマルクホールディングスに入社し、経営企画室副室長に就任。2020年に取締役 経営企画室長、2022年1月より代表取締役社長に就任。