※本ページ内の情報は2026年11月時点のものです。

愛媛県に拠点を置き、業界屈指の技術力で多種多様な船舶を建造する株式会社新来島どっく。同社は長年培ってきた「プロダクトミックス」の思想を武器に、顧客の細やかな要望に応え続けている。近年は脱炭素化に向けた環境対応船の開発や、次世代を見据えた大規模な設備投資にも注力し、造船業界の新たな可能性を切り拓いている。入社以来40年以上にわたり、激動の造船不況から組織の再建、そして経営の最前線へと歩みを進めてきた代表取締役社長の森克司氏に、同社の強みと未来への展望をうかがった。

造船不況を乗り越え培った「経営視点」と組織の全体最適

ーーまずは、これまでのご経歴と入社のきっかけについて教えてください。

森克司:
私は愛媛県で生まれ育ち、大学時代を除いてずっと地元で過ごしてきました。入社のきっかけも、地元が好きで地元企業に就職したいという思いがあったからです。当時は造船業に特別な夢を持っていたわけではありませんでしたが、親族が造船の協力会社を経営していたこともあり、造船所には親近感がありました。1982年に入社し、最初は教育課に配属されました。そこでさまざまな事業所に出向き、新入社員の研修などを担当しながら、同世代の仲間たちと人間関係を築けたことは、その後の大きな財産になっています。

ーーその後、造船不況という厳しい時代をどのように乗り越えていかれたのでしょうか。

森克司:
私が入社して数年後、造船業界はかつてない大不況に見舞われました。会社も経営危機に直面し、銀行団の主導のもとで、陸機事業部を入れ4つの事業所だけで再編を図ることになったのです。その再建の過程で、私は原価管理というコストを管理する部署に異動しました。そこで約15年間、会社の資金の流れやコスト削減の仕組みを徹底的に学びました。当時は採用も止まっており、少ない人数で業務を回さなければなりませんでしたが、その分、若手の頃から責任ある仕事を任せてもらい、経営的な観点を学ぶことができたのは大きな経験でした。その後は生産管理課にも移り、ものづくりの現場に対する理解を深めました。

ーー人事や総務など、管理部門でのご経験は現在の経営にどう活きているのでしょうか。

森克司:
生産管理の後は人事や総務の畑を長く歩みました。人事においては、ただ成果だけを見るのではなく、仕事に取り組む過程や姿勢も適切に評価する制度の定着に努めました。また、総務部長時代には、用地の取得や地元の方々との交渉など、事業活動の基盤を整える業務にも奔走しました。総務や人事という部門に求められているのは、常に会社全体を俯瞰し、一段高い役割を担うことです。こうした経験を通じて、部門の利害にとらわれず、組織全体のベストは何かを客観的に考える視点が養われたと感じています。

ーー経営者として、組織を率いる上で大切にされている理念を教えてください。

森克司:
弊社の経営理念には「顧客、地域、社会への貢献」という思いが込められていますが、それを実現するためには従業員の存在が不可欠だと考えています。従業員が喜び、安心して働ける環境がなければ、良い船をつくることはできませんし、定着も望めません。ですから、従業員の生活の安定を守り、協力会社の方々も含めて皆が適正な利益を得られる仕組みをつくることが、私の重要な使命です。お客様第一であることはもちろんですが、まずは社員一人ひとりが誇りを持って働ける組織づくりを心がけています。

多種多様な船を創り出す「プロダクトミックス」の強み

ーー造船業界における、貴社の特徴とポジショニングについて教えてください。

森克司:
弊社は業界の中で中規模の造船所に位置付けられますが、大手メーカーに頼ることなく、独自の経営判断で事業を展開する「自主性」を重んじています。その最大の強みが、創業以来貫いている「プロダクトミックス」という思想です。これは、自動車運搬船やケミカル船、バルクキャリアなど、多種多様な船種をバランス良く建造する経営戦略です。特定の船種に特化すれば効率は良いかもしれませんが、不況時には経営が行き詰まるリスクがあります。弊社はさまざまな船種を手がけることで、変化に強い足腰を持った経営を実現しているのです。

ーー顧客の細やかな要望に応えるために、技術面でこだわっていることを教えてください。

森克司:
弊社では、1隻1隻を顧客の要望に合わせて個別に設計しています。同規模の造船所と比べても設計スタッフの人数が多く、手間とコストはかかりますが、この技術力こそが他社に負けない強みです。どのような船でもつくれるという技術の引き出しがあるからこそ、さまざまなお客様と長くお付き合いを続けることができています。利益率だけを追求して単一の船しかつくらなくなれば、お客様とのご縁も切れてしまうでしょう。技術を磨き、お客様の可能性を広げる提案をし続けることが、私たちのこだわりです。

ーー新たな技術の導入についても推進されていますが、具体的にお聞かせいただけますか。

森克司:
多種多様な船を一品一様でつくるからこそ、効率化は常に大きな課題です。そのため、グループの各拠点で役割を分担し、設計から製造までのデータを一元管理するDXを進めています。加えて、AIの活用やシステムメーカーとの共同によるロボット開発も進めています。一品一様の良さを保ちながら、いかにコストを抑えて造船そのものをデザインしていくか。データを蓄積し、最新技術を取り入れることで、さらなる生産性の向上を目指しています。

環境対応船への挑戦と、次世代を見据えた大規模投資

ーー業界の大きなテーマである環境対応船への取り組みについて教えてください。

森克司:
数年前から注力しているのは、脱炭素化に向けた環境対応船の開発です。2020年には日本で初めてLNG(液化天然ガス)を主燃料とする自動車運搬船を建造し、現在もLNGと従来の重油の両方が使えるデュアルフューエルエンジンの自動車運搬船の技術をより高めています。次のステップとして、CO2を排出しないアンモニア燃料船、いわゆる「ゼロエミッション船」の実用化も目前に迫っています。お客様と二人三脚で開発を進め、環境技術の蓄積においては業界内でも高い評価をいただいていると自負しています。

ーー大規模な設備投資を行うとうかがいましたが、その狙いを教えてください。

森克司:
先日、国の造船業競争力強化に向けた支援制度の認定を受け、新来島どっくグループで約320億円の支援を受けながら、総額1000億円規模の設備投資を行うことを決定しました。弊社の主要な設備は長年使い続けてきたもので、事業を継続するためにはどこかで抜本的な更新が必要でした。この投資により、建造能力を現在の1.5倍に引き上げる計画です。会社としても非常に大きな決断でしたが、この先10年、20年と造船業を続けていくという強い意志を、従業員や地域社会、そしてこれから入社していただきたい学生の皆さんに対して明確に示すことができたと考えています。

業界の枠を超えた連携と、人を育てる組織づくり

ーー設備投資が進む一方で、人材の採用や教育についてはどのようにお考えですか。

森克司:
最新の設備やロボットを導入しても、造船業が労働集約型の産業であることに変わりはありません。最終的には人の力が重要です。そのため、学生の皆さんに造船業の魅力を積極的に発信し、興味を持ってもらう取り組みを強化しています。同時に推進しているのは、社員が定着しやすい環境づくりですね。DXを活用して工程や部材の見える化を進めて現場の負担を減らす一方で、個人の能力をしっかりと評価できるよう、人事評価制度の見直しにも着手しています。従業員一人ひとりがやりがいを感じられる組織にすることが急務です。

ーー他社との連携など、業界全体の底上げへの取り組みについても教えてください。

森克司:
現在、日本の造船業界は海外メーカーに対してシェアを落としており、もはや一企業だけで競争を勝ち抜くのは困難な時代です。そこで、技術情報の交流会を開催するなど、同業他社との水平連携を進めています。特に環境対応船の開発などは、業界全体で取り組むべき課題です。さらに、荷主様や船主様、そして現場を支える協力会社の皆様との垂直連携も欠かせません。サプライチェーン全体で情報を共有し、部品の共通化などを図ることで、業界全体のコスト競争力を高めていきたいと考えています。

ーー最後に、今後の展望と未来に向けた意気込みをお聞かせいただけますか。

森克司:
まずは、1000億円の設備投資を確実に実行し、2035年までに建造能力を1.5倍以上に引き上げるという目標を必ず達成する決意です。そして、将来的には建造能力2倍の実現も視野に入れています。先の見えない時代ではありますが、現実を直視しつつ、大きな夢と目標を追いかけることが経営の醍醐味です。弊社単独の成長にとどまらず、業界全体で力を合わせ、日本の造船業を再び世界に誇れる産業へと押し上げていくために、全力を注いでまいります。

編集後記

造船不況という逆境の中で経営視点を磨き、常に全体最適を考え抜いてきた森社長。その実直な言葉の端々からは、会社と従業員、そして地域社会への深い愛情が感じられた。「プロダクトミックス」という独自の強みを武器に、環境対応船という新たな荒波にも果敢に挑む同社。1000億円規模の設備投資という大きな決断は、造船業の未来を力強く牽引していくという覚悟の表れだろう。日本の造船業の復権に向けた、同社のさらなる飛躍に期待が高まる。

森克司/1959年、愛媛県生まれ。松山商科大学卒。1982年4月に株式会社来島どっくへ入社。2023年10月に代表取締役社長に就任。