※本ページ内の情報は2026年11月時点のものです。

東急不動産へ入社して以来、不動産仲介や財務部門を経て、リゾート事業の最前線を20年以上走り続けてきた山脇賢一氏。経営者であった実父の姿やかつて担当したM&Aなどでは相手の立場に立つ重要性を改めて再認識したという。コロナ禍の危機では、コーポレート部門の責任者として業績回復と組織改革を成し遂げた。2026年に、同社の代表取締役社長に就任した山脇氏が掲げるのは「敬天愛人」の精神と「FUN MAKE SPECIALIST」というビジョンだ。事業の多様性と従業員の力を原動力に、同社が目指す未来の景色を聞いた。

若手の頃に経験したM&Aや父の姿から学んだ「相手の立場に立つ」ことの重要性

ーーまずは、これまでのキャリアについてお聞かせください。

山脇賢一:
1999年に東急不動産に入社し、キャリアをスタートさせました。入社後はまず、東急リバブルへ出向することになり、そこで2年ほど仲介営業を経験し、不動産ビジネスの基礎や現場の基本を学びました。お客様と直接接することができたのは大きな財産ですね。

その後、東急不動産に戻って財務部門に配属され、3年間で会社の数字や計数管理について徹底的にたたき込まれました。厳しい環境でしたが、ビジネスパーソンとしてのタフさを身につけられたと感じています。

そして入社5年目の2004年から、弊社の前身である東急リゾートサービスに出向。これ以降は20年以上にわたって、企画や営業、ゴルフ場やスキー場などの経営や運営といった、リゾート系の事業に携わってきました。東急不動産では、通常さまざまな事業をローテーションで経験します。そのため、一つの事業に一貫して携わっているのは少し珍しいケースかもしれません。

ーーその中で特に大きな成長や学びにつながった経験は何でしょうか。

山脇賢一:
若手の頃、M&Aに携わったことです。当時の私にとっては初めての経験で、様々な方々の力も借りながら進めて行きました。多くの関係者との調整が求められる難しい局面もあり苦労もしましたが、この経験で、「相手の立場に立って真剣に考える」ことの重要性と、「より長期的な目線で物事を見る必要性」ということを改めて学びました。また、幼いころから経営者であった父の姿も見てきたこともあり、こうした経験が現在のビジネスにおける大きな土台となっているのです。

コロナ禍の危機を救った組織改革 離職率半減と業績回復の軌跡

ーーその学びが活かされたご経験もお聞かせいただけますか。

山脇賢一:
2021年に弊社に戻り、コーポレート部門の取締役として着任したときのことです。2021年といえば、ちょうどコロナ禍の厳しい環境下の頃です。サービス業全体が打撃を受ける中で弊社も大きな影響を受け、モチベーションの低下や離職率の高さも大きな課題となっていました。私自身、20代の頃からこの会社にいてさまざまなメンバーと仕事をしてきて思い入れも強かったため、相手の立場に立つことを心がけて、なんとかしてこの状況を改善したいと模索し続けました。

ーー具体的にどのような取り組みで立て直しを図ったのでしょうか。

山脇賢一:
サービス業の中心は「人」ですから、従業員に目を向けた取り組みを段階的に積み上げていきました。具体的には、給与面などの待遇改善はもちろん、安全性や働きやすさの向上を図りつつ、事務所や寮の改修を行いました。また、従業員同士が感謝を伝え合うことでポイントを付与するシステムを導入し、所属意識を高められたと思います。

同時に、人事制度の変更にも着手しました。従来の区分に加え、マネジメントコースや専門職コースを新設したのです。これにより、スキー場のリフト技術者やDXなど様々な専門人材が正当に評価されます。管理職にならずとも専門性をいかして評価される仕組みを整えることができたと思います。さらに、従業員が自身のキャリアイメージを持ちやすくなるように、教育や育成にも力を入れました。

ーーその結果、組織や業績にどのような変化が現れましたか。

山脇賢一:
退職率は大幅に減少しました。また、業績面においても営業利益を倍増させ、大きく改善させることができました。これらの施策を積み重ねたこと、そして何より従業員の皆さんが困難な時期を耐え抜き、会社を信じて残ってくれたおかげで、大きな成果を残すことができたと感謝しています。

もちろん、海外からの訪日需要の回復という外的要因もありました。長年大切にしてきた会員制のリゾートホテル「東急ハーヴェストクラブ」の安定した顧客基盤も大きいと思われます。しかし、従業員一人ひとりのモチベーションが少しずつ高まったことが最も大きく、それこそが業績回復の確かな原動力になったと考えています。

予期せぬ代表就任 経営の指針となる「敬天愛人」の精神

ーー2026年に貴社の社長に就任されたときの、率直な気持ちをお聞かせください。

山脇賢一:
驚きもありましたが、同時に大好きなこの会社や従業員のために貢献したいと思いました。お客様のために少しでも貢献したいという気持ちからお引き受けした次第です。私は、リゾート事業での経験が長かったため、同年代の仲間たちが他部署へ異動していくのを見て、自分もそろそろ異動だろうと考えていた矢先での就任でした。それまでの代表は東急不動産で役員を経験されたベテランの方が就任するケースが多かったため、打診を受けたときは本当に驚きを隠せませんでしたね。

しかし、20代の頃からこの会社に出向してきて、従業員の真面目さやお客様に尽くすおもてなしの精神を肌で感じてきました。私の人間形成の大部分はこの会社と従業員の皆さんにつくってもらったという思いがあります。私自身は自らが先頭に立って引っ張っていくタイプのリーダーではないと思っていますが、従業員一人ひとりが指示待ちではなく自分ごととして自立できるように、後ろから支えていく考えです。より生き生きと幸せに働ける会社にしていきたいですね。

ーー経営において大切にしている価値観や哲学はありますか。

山脇賢一:
「敬天愛人」という言葉を経営の軸にしています。数年前にこの言葉に出会い、私が本当に成し遂げたいことはこれだと腑に落ちました。当然、経営者として利益や数字、計画を強く意識することは必要です。しかし、短期的な数字の追求だけでなく、何が正しいのかを常に自問自答し続けること。誰のためになっているのか、誠実であるかを考えます。長い目で見て信頼度を上げ、お客様から選んでいただける存在になりたい。その思いが「敬天愛人」に集約されています。

多様性と地域の力を引き出す「FUN MAKE SPECIALIST」

ーー貴社の強みや他社にはない特徴はどこにあるとお考えでしょうか。

山脇賢一:
最大の強みは、圧倒的な事業の多様性と、それを支える従業員の力です。当社は会員制ホテルにとどまらず、パブリックホテルやゴルフ場、スキー場、別荘管理など、多種多様な施設を展開していますが、ここまで幅広い事業を持つ企業は他にあまり類を見ません。ターゲット層の広さも特徴の一つであり、誕生から間もなく40周年を迎える「東急ハーヴェストクラブ」を支えてくださる会員様をはじめ、「東急ステイ」やスキー場を利用される国内外から訪れるお客様まで、全方位的なアプローチを実現しています。

また、こうした事業の多様性は、従業員のキャリア形成における無限の可能性にも繋がります。たとえば、都心のホテルでオペレーション業務を経験した若手社員が、数年後にはスキー場のマネジメントに挑戦したり、リゾート開発のプロジェクトをリードしたりなどのキャリアビジョンもあり得ます。一人ひとりの社員がさまざまなフィールドを経験し、枠にとらわれず挑戦できる環境が整っていることこそが、弊社の確固たる強みだと考えています。

ーー地域との関わり方においてはどのような取り組みをされていますか。

山脇賢一:
単に施設を運営するだけでなく、その土地の歴史や文化に深く根ざし、地域の力を最大限に引き出す設計を重視しています。たとえば広島の「東急ステイ メルキュール 広島」では、ただ宿泊していただくだけではなく、街とつながるコンセプトを取り入れています。朝食のパンを地元で昔から愛されている老舗のパン屋さんから提供していただいたり、サミットなどでも提供された美味しいコーヒー店とコラボレーションし、オリジナルブレンドをご提供したりしています。空間デザインは、水の都である広島の美や歴史、文化を随所にデザインとして落とし込み創り上げました。

また、長野県の「東急リゾートタウン蓼科」では、計画的な間伐により健全で豊かな森を育み、生物多様性を守る取り組みを積極的に行っています。また、間伐材を使ってさまざまなものをつくったり、燃料として利用したりすることで循環型モデルを構築しました。一方的に投資するのではなく、地元企業と一緒に回るサイクルをつくる。現場の従業員が自ら考え、地域を巻き込みながら新しい体験価値を生み出している点が、弊社の大きな特徴です。

ーー新たな体験価値を生み出す背景には、どのようなビジョンがあるのですか。

山脇賢一:
弊社では「FUN MAKE SPECIALIST」というビジョンを掲げ、出会うすべての人に楽しさを提供し、弊社のファンになってもらうための追求をしています。この「すべての人」には、お客様はもちろんのこと、協力して助け合う従業員同士や、地域の方々も含まれます。お客様、従業員、そして地域という3つのバランスを大切にし、それぞれに楽しい体験価値を創出していく集団でありたいとの思いが込められているのです。

さらに、「東急ステイ」でも新たなコンセプトを策定しました。従来のビジネス利用の形態から脱却し、従業員がよりお客様と触れ合い、望まれる企画を体験していただく。投資を含めて手法を根本から見直し、体験価値の向上をより重視する方向へと大きく舵を切っています。

1万室への拡大とDX そして次世代を担うリーダーの育成

ーー5年後、10年後を見据えた今後のビジョンについて教えてください。

山脇賢一:
大きく3つの柱があります。1つ目は対顧客への高付加価値化、2つ目は従業員の働きがいの向上、そして3つ目は規模拡大です。

中でも規模拡大の面では、中長期滞在に強みを持つ「東急ステイ」が現在、全国で約5,000室を展開しています。これを将来的には1万室規模へと拡大することを目指しています。洗濯乾燥機や電子レンジを備えている弊社の滞在型ホテルは、現在では6〜7割が海外のお客様にご利用いただいており、非常に高く評価されています。

ーー対顧客への高付加価値化には具体的にはどのように取り組むお考えですか。

山脇賢一:
デジタル技術の活用を強力に推進し、他社との差別化を図っています。たとえば京都のホテルでは、茶室に映像を投影し、海外のお客様がご自身で手順を見ながらお茶を点てられる体験をご用意しました。また、スタッフが見つけた地元の観光情報をデジタルサイネージに集約し、お客様がスマートフォンで読み取ってそのまま街歩きを楽しめるような仕組みも導入しています。

加えて、ホテルの宿泊権をブロックチェーン上のNFTとして管理し、個人間で直接やり取りすることなくシステム上で安全に譲渡できる「東急ステイ公式宿泊権リセールサービス」も開発し、既に多くの方に活用いただいています。裏側の業務においてもデジタル化は進んでおり、シフト作成やスキー場の送迎バスの予約管理などを自動化しました。こうした業務効率化による利益率の向上を、最終的には顧客への体験価値の増大へとつなげていく方針です。

ーー従業員の働きがいの向上や次世代のリーダー育成についてもお聞かせください。

山脇賢一:
次世代の幹部を確実に輩出するための仕組みづくりに注力しています。具体的には、先ほど触れたマネジメントコースの新設に加え、役員昇格前に外部の研修受講を必須にしたり、客観的な評価制度を導入するなど、教育の基準を東急不動産グループ全体に合わせて明確にしました。また、会社の方向性や考え方を私から直に伝え、次世代の幹部候補であるマネジメント層と交流する「山脇塾」という取り組みも開始する予定です。

さらに現場の従業員に対しては、従業員の誰もが経営層へ気づきや提案を自由に送れる目安箱の仕組みを設けました。これまでに100件ほどの意見が寄せられ、週に一度、本部長以上のメンバーが集まって一つひとつ真剣に議論を重ねており、実際に寄せられた意見から、実現に向けて動いているケースも存在します。従業員一人ひとりが会社を自分ごととして捉え、前向きに挑戦できる環境や土壌が着実に育ってきていることを、非常にうれしく感じています。

ーー最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

山脇賢一:
弊社には、一人ひとりが受け身ではなく自分ごととして業務をとらえ、誇りを持って働ける環境があります。お客様はもちろん、ともに働く仲間たちや地域社会へ感動を届ける。その感動がさらに社会へと広がっていくような好循環を生み出すこと、そしてそれを支えるのが弊社の使命だと考えています。

現状に満足することなく、学び続け、変化し、挑戦し続ける人には、必ず明るい未来が開ける会社です。私自身もその実現に向けて尽力し、これからも新しい価値を創造し続ける企業でありたいと思います。私たちの思いに共感してくださる方には、ぜひ仲間に加わっていただきたいですね。

編集後記

リゾート事業の最前線で20年以上走り続けてきた山脇社長。その言葉の端々からは、過去の苦い経験から得た相手を思いやるという確固たる信念が感じられた。コロナ禍の危機にあっても、コスト削減に終始するのではなく、従業員の働きやすさやキャリアパスの拡充といった人への投資に舵を切った。その判断力は、現在の業績回復という結果が証明している。デジタル技術を駆使した最新の取り組みと、「敬天愛人」という人間味あふれる哲学。その両輪がもたらす、多様性を持つ同社は今後も勢いを増して進化していく。

山脇賢一/1976年大阪府生まれ。同志社大学卒。1999年東急不動産に入社し、東急リバブルや旧東急リゾートサービスへの出向を経験。2021年東急不動産ウェルネス事業ユニット事業戦略部グループリーダーを経て、2022年に東急リゾーツ&ステイの取締役 常務執行役員に就任。2026年、同社の代表取締役社長に就任。長年にわたり東急不動産グループにおけるリゾート・ウェルネス事業の成長を牽引している。