ーベンチャーキャピタル時代ー
【聞き手】
景気で言いますと、非常に厳しい環境の中で、いわゆるベンチャーキャピタリストとして、投資に値する、これから成長していく可能性のある会社を見つけていく訳ですよね。
【五十嵐】
そうですね。逆に言うと不景気の時というのは2つ良い点があって、1つはいわゆる投資をする時、企業評価した際にバリュエーションという言葉がありますけども、それが非常に低く提示できるということで、投資のリターンが上がりやすいということですね、後は、不景気だからこそ逆に新規事業であるとか、そういうことをやっていかなきゃいけないケースが出ていたりとかしますので、そういう面では逆に投資して欲しいという企業が多くなってくると思います。
【聞き手】
確かに景気が悪い時だからこそ、力のある体力のある会社が残るというか、見えてくるところはあるかも知れないですね。
【五十嵐】
ありますし、真剣に仕事もしていきますし、たまたまということがなくなってきますので、本当に良い経営者が登場する良いタイミングだと思います。
【聞き手】
いらっしゃった期間は3年間と伺っておるのですが、その3年間の中で、今思い出しても背筋が凍るような失敗とか、そういったエピソードはございますか?
【五十嵐】
ベンチャーキャピタル自体、数ある失敗を乗り越えてやっていく訳で、やはり投資と言いましても10社投資をして1、2社うまくいけばいい方だと思います。従って90%、もしくは80%の会社が何らかの形で資金回収をされるか、もしくは本当に会社が20~30%の割合で潰れますので、そうすると資金回収しなくてはいけなくなるんですね。ですので、私のお客さんでもアポイントの約束がありまして、会社に行ってみた時に張り紙がされてると。この会社は破産しましたということで、こちらにご連絡をという形で弁護士事務所が書いてあるんですね。そういったケースも数多く経験してますし、債権者が来られていて、みんなで資金回収の順番を競って、みたいなこともあります。
【聞き手】
でもまだ、20代前半の若いビジネスマンでいらっしゃって、そういうドラマの中で起こるようなことを目の当たりにした時って、初めての時の心情としてはいかがでしたか?
【五十嵐】
やはりこれがリアルなんだなということの実感値は増したということですね。ですので、ベンチャーキャピタルに勤めて良かったのは、1つは夢の部分もありますし、実際のビジネスの現場でのリアル感ですね。当然、成功していく人の裏側には失敗があって、失敗量の方が圧倒的に多いんだという現実を知れたことが非常に良かったと思います。
【聞き手】
ちなみに、逆に手掛けられたお仕事の中で、ここはすごくうまくいったなというようなエピソードはごさいますか?
【五十嵐】
業種的に面白く、良かったと思っていますのは、今、いわゆる日本のカルチャーということで、アニメだとか、そういうのがもてはやされていますけども、実際そういう産業は1990年代後半から出始めていて、今の秋葉原にそういうお店が増えているじゃないですか。その走りの会社があったんですね。
やはり自分達でトレーディングカードであったりとか、アニメのキャラクターをつくって世の中に普及させていくということで、爆発的に成長していた頃がありました。今のアニメ産業をつくってきたような会社に投資をした時は、そもそもニッチカテゴリーな産業があるんだということと、それに対していわゆる大人買いみたいな形で、ある意味、いい大人の方が結構なお金を使っていただけるんだという面白い業種があるなと分かった時は非常に面白かったですね。
【聞き手】
いらっしゃったのは短い期間ではありますけども、1,000人を超えるような経営者にお会いになった経験があって、たくさんの成功や失敗を見てこられたと思います。そういった中で、元々起業したいということで会社も選ばれているのですが、逆にリアルが見えたところで、変な質問をしますけど、怖くなって起業は止めようかなと思われたことはないのでしょうか?
【五十嵐】
やはり心をよぎる瞬間というのはあると思うんですね。実際目の前で倒産危機が起きる訳ですから。やはりビジネスは実際リスクは高いんだという実感値はありますので、辞めるんだったら早く辞めようと思っていたということですね。ですので、僕自身も30歳までに辞めようと思っていましたので、やはり再チャレンジするのであれば、20代で一回失敗してから、もしくは30歳前半だったらやり直しが効くかなということで、早く独立しようと思いました。ですので、逆の発想ですね。
【聞き手】
確かに、若い時であればまだ取り返しがつくといいますか、やはりサポートするより自分が舞台に上がってやりたいという気持ちが強かった。
【五十嵐】
元々、自分が社長をやるために来ているので、逆に言うと活躍されている、もしくは成功されている方がいる以上、実際やれるんだという実感値にもなってきますよね。今までは本の中である成功者であるとか、テレビの向こう側にいた人達が目の前にいらっしゃる訳ですから。逆に言うと、目の前で見たからこそ追いかけてみようということも出てくるということですね。
ー創業の経緯ー
【聞き手】
会社を辞めて新しく立ち上げた会社が、その時は全体としてはうまくいかなかったというところで、ただ五十嵐社長がやっていらっしゃった事業に関しては、実はある程度黒字化していた。
【五十嵐】
私自身が前職でネット企業の役員をやっていた時に、やはりネットメディアだけだと赤字が先行するという状態ではあったんですけれども、いわゆる会員登録をしていただいて得た「データ」ですね。データをマーケティングに活用できないかということで、今だとビックデータみたいな言い方をしますけど、そういうものをBtoB用に何か開発していけないかということで新規事業のネットワークを探していました。その時に出てきた分野がクロス・マーケティング自体の創業時のビジネスになっていますが、いわゆるネットリサーチといわれる分野です。そちらについては会員基盤をネット上で既に持っていましたので、早期に収益化が可能だったということがありまして、自分達も新規事業をやってみて比較的速やかに立ち上がったということがございました。
【聞き手】
その会社では唯一黒字化しているその事業で、また立て直して、広げて大きくしていこうという考えはなかったのですか?
【五十嵐】
やはりタイミングの議論がありまして、一番のメイン舞台というのは、当然ネットメディアの事業になりますので、ネットメディアでの収益とその赤字をどうするかということで、一番の経営課題になっていくわけです。ひとつは新規事業が黒字化したとはいえ、それでは赤字が埋まらないということと、当然、新規事業の事業領域においてもやはり競合企業がいらっしゃって、そこに勝つために投資をしなくてはいけないんですね。
その時、投資の優先順位をどうしても下げられないこともあって、私が独立するきっかけにもなったんですが、では会社の方できっちり収支を分けて投資できるよう環境をつくってもらえるか、もしくは自分が出てやりますというような選択を当時のオーナーさんの方にお願いをしたんですね。そうすると、やはり収益事業を支える事業としての扱いをしたいということでしたので、私自身その段階で辞めて自分たちでやろうと、良い面で飛び出したというところだと思います。
【聞き手】
その事業を持って、更に自分の力で大きくする、それをメインの事業とした会社をつくろうと。それで、満を持して2003年にご創業された。
【五十嵐】
2003年に兄の会社から自分の事業の切り出しをしました。なぜ切り出したのかという話もありますけれども、当然、私自身もベンチャーキャピタル時代から親族問題で会社というのは兄弟では難しいというのは分かっていたので、その中できっちり分けていきましょうということで、分社独立させまして、それでクロス・マーケティングとして始めました。
【聞き手】
ちなみにクロス・マーケティングという社名は、これは社長がお考えになったんですか?
【五十嵐】
そうですね。創業期にもう一人役員がいまして、その2人で考えました。どういう想いで会社をつくりたかったかということなんですが、元々やりたかったことというのは、いわゆる事業をつくっていく会社をつくりたかったんですね。
私自身、ベンチャーキャピタルにいたということもありまして、あまりこの事業をやりたいというよりは、色々な事業を手掛けてみたいという想いがありました。その時に、じゃあどういう社名にしていこうかと、なるべく抽象的かつ色々なことができる社名にしたいというのが大前提にありました。その中で、では新しいものをつくっていくプロセスを表現するとどうなるのかということで、つけた名前が「クロス・マーケティング」という名前です。
その中に含まれている想いとしては、当然クロスという部分に関しましては、やはり色々な新規事業といいますのは、アイディアの組み合わせだったり、もしくは、色々な人達が集まることによって新しいものって生まれてくると思うんですね。そういうプロセスを表現しているのがクロスということと、マーケティングというのは、なぜマーケティングするのかということなのですが、新しいものを生み出すためです。そういうことも含めてクロス・マーケティングという中で、事業をつくっていく会社をつくっていこうと、クロス・マーケティングを社名にしました。
後は当然、会社として事業領域のある程度幅を決めないといけないということで、お客さんに対しても分かりやすい領域としてマーケティング領域をしていますのでマーケティングということですね。
【聞き手】
実際にその当時、いわゆる競合となるようなマーケティングをやっていらっしゃる会社もいくつかあったということですが、確かにその中でも御社の場合、自社でマーケティングデータを抱えるのではなくて、いわゆるデータを持っていらっしゃる会社さんと提携をしたり、共同で何かをすることによってお互いにクロスするといいますか、そういったところで伸びていかれたという面もありますよね。
【五十嵐】
元々は置かれていた環境といいますのが、私達が会社をつくった段階で、逆に言うと、今最大手の会社が上場したというタイミングでもありました。資本金でいくと100倍以上違うんですね。その中で競合企業に追いつくためにはどうするかという中で考えた戦略が、自分達が投資すべきものとそうでないものをはっきり分けることでした。
私達の戦略というのは提携戦略です。ですので、転職の段階でもネットビジネスを失敗していますので、やはり大規模にメディア投資をしていくというよりは、既に会員データベースを持たれている会社さんとタイアップすることによって、明日から売れる状態をつくろうということですね。
従って私達がまずやったのは、ネットメディアの提携ということで、当時はMyIDという社名だったVOYAGE GROUPという会社とまず事業提携を結ばせていただいて、いわゆるネットのデータベースをいつでも売れる様な状態をつくった上で、私達は営業の方に特化して立ち上げたというのがスタートです。
ー会社の成長と人材マネジメントー
【聞き手】
会社のステージによって、集まってくる人のタイプも変わってきますよね。
【五十嵐】
全然違いますよね。
【聞き手】
ちなみに、始められた当初は何人位だったのですか?
【五十嵐】
役員2人とアルバイトの3人ですね。ですので、基本的には何にも法律に縛られない3人が働いてますので無制限に働くわけですね、
【聞き手】
御社にジョインしてくれる皆さんは、そういう山っ気のある方が多いですよね。
【五十嵐】
そうですし、学歴というよりも本当に体力はあるのか、一生懸命やれるのかという採用になりますので、想いが主体なんですね。立ち上げ当初でいうと、この人、もしくはこいつのためだったら頑張れるとかそういう気持ちで働ける、一体感が非常にすごい状態になっていますので、そういう立ち上げのフェーズの人材と、組織が大きくなってくると今度は管理職層を育てていかないとということで、ロジックで人を動かさないといけなくなってきますので、想いとロジックのバランスが崩れてくるんですね。そういうところでまた人材層が変わっていくんですね。
後は当然、本当に成長していきたいと気持ちで頑張ってきた若手が、当然、組織を管理していくことに関しては経験不足ですので、年上の中途入社が増えてくるわけですね。そうすると頭にきてしまうなど、違った壁にぶつかったりしますので、組織としては、そういう面で色々な形で不調和が出てきたりしますね。それを乗り越えて、ステップバイステップで、組織って大きくなっていくと思っていますので。
【聞き手】
そういう時は、社長はどのように判断されるんですか?
【五十嵐】
そこは感情というよりは組織の合理性であるとか、「そもそも何のためにこの組織をつくっているんだっけ?」と、目標に立ち返るようにしています。現時点で目指そうとしているのは、アジアナンバーワンのマーケティング会社を目指している訳なのですけれども、それに沿っているかどうかですね。従って、想いだけでアジアナンバーワンになれるかといったらそうではありませんし、組織をつくっている側も、そういう成長をするための熱い気持ちがないと組織を引っ張れないじゃないですか。バランスですね。いわゆる感情と理屈のバランスを取りながら、かつ、それが取れている人材をなるべく上にあげていくという形になっていくと思いますし、組織って面白いもので自浄作用がありますので、やはりその時の気持ちが強い人が残っていくと思います。
【聞き手】
そうやって少しずつ今の形になって、もう社員数も1,000人ですよね。それこそ、1,000人の規模になって、事業所もそれこそ日本だけでなく海外にもとなっていくと、なかなか社員一人ひとりの顔を見て何か話をするということができづらい環境なのかなと思ってしまうのですが、ご自身の考えとか理念とかを、いわゆる末端の社員の方に伝える時にどういったことを心掛けていますか?
【五十嵐】
グループ全体として11ヵ国に展開しているということと、あと人種でいきますと20ヵ国くらいの方が集まっていて、宗教で言っても、キリスト教からヒンズー教の方、イスラム教、あと仏教と、主要な宗教は全ているわけなんですね。従って、ひとつの価値観に統一することができない、それは無理だという前提の中で多様性を享受しつつ、かつ、そこに関して統一的なメッセージを出していこうということで、今努力している段階ですね。ですので、上手くいっているかどうかは別としまして、とりあえず発信源をまず増やそうとしていっています。月次の朝礼などもやってますし、肝心なことに関しては当然記事を起こして、英語に変換してグローバルに流してと、まずはプッシュする。そういうことを心掛けている段階です。
ー今後の展望とメッセージー
【聞き手】
クロス・マーケティングという名前以外でも、グループ会社をいくつも立ち上げていらっしゃいますけども、その辺りに関して、どういう方向性で事業を広げて行こうと思われているんですか?
【五十嵐】
私達がやりたいことというのは、いわゆるマーケティングビジネス全体に対して、サービス化を進めていきましょうというのが大前提です。では、マーケティングサービスとは何かということなんですが、私達のお客様といいますのは、やはり消費者に対してサービス、もしくは物を提供している会社です。
私達が持っている主要なサービスは、いわゆる意思決定するための情報ですね。そういう部分の提供を通じて、実際に世の中に広げていく為のオペレーションのサポートをさせていただいたりなどという形で、マーケティングを通じて支援する側です。ですので、大事なのは、お客様がなんらかの経営問題を抱えている、もしくはマーケティング課題を抱えた時に、こんなことできますよと言えるかどうか。もしくは何らかの解決策の方向感を出せることが大事ですので、そういう面では私達自身、現状サービスの幅を増やすことによってクロス・マーケティングに相談したらビジネスが成功するというような状態をつくり上げていこうと。それに対してのサービスの多様性を増やしていくことを、一つの考え方の軸に置いているということですね。
従って、今一番注力していますのはITとマーケティングの掛け合わせなんですけども、やはりご存知の通り、インターネットビジネスがこれだけ普及してきている中で、かつ、会社の中でも全てインターネットがつながって、仕事もインターネットを通じてやるという時代になってますので、IT×マーケティングですね。ですので、ITマーケティングの領域においてのサービスのラインナップ化ということを、今一番力を入れて増やしています。私達がやっていきたいことというのは、事業創造できる会社、もしくは事業創造できるメンバーをちゃんと育成する、もしくはそういったことに恐れずチャレンジしていける組織を維持し続けるということで、それをまずここ10年間くらい集中してやっていきたいと思います。
【聞き手】
ご自身でも、昔から起業したいという想いがおありで今の状況がある訳なのですが、今の社内でも企業内起業家といいますか、アントレプレナーみたいなものを沢山創出していく状態をつくっていきたいお考えでしょうか?
【五十嵐】
そうですね。実際そういう人間もいますし、元社員でも独立してやっている人間は数多くいますので、そういう面では、気持ちの持ちようとしてはベンチャー企業、いわゆる非常にアグレッシブに成長を志向していける状態をつくっていくことが、私達のやりたいことです。
組織というのは、そういう頑張っている人達がいれば下の人間は育ってくるので、硬直的な組織をつくっていくというよりは、格差型の組織。これはやはり、成功者を数多く生み出していくということだと思うんですよね。それに期待して優秀な人も入ってくるでしょうし、組織のカルチャーとしてもそういう志向性に持っていけるというのは、一番いい状態だと思いますので、僕らはそういう志向性の方にどんどん切り替えていきたいと思っています。
【聞き手】
御社ほどの規模になってこられますと、それこそマーケティングという事業を通じて社会に貢献したいと思って、多くの学生さんがこられたりすると思うんですが、そういった学生さん、ないしは本日、こちらのVTRをご覧になっていらっしゃる方というのは、本当に五十嵐社長に興味があってご覧になられている方もいらっしゃれば、御社という会社にこれから入社をしたいな、どんな経営者なんだろうなというところで興味を持っている方もいらっしゃると思います。
最後に会社説明会で学生さんを前に語るとしたら、どういったことを伝えたいかというところでメッセージを一言いただければと思います。
【五十嵐】
一番伝えたいことは、20代の内は死ぬ程働きながら夢を描こうというのが大事なメッセージだと思います。僕自身が思っているのは、夢を描かないと先程言った仕事が手段にならないじゃないですか。人一倍充実したことを追っていく、もしくは仲間と何かを成し遂げていくということに関しては、大きな夢を描けることがすごい大事なポイントだと思いますので、私達、特にマーケティングビジネスを通じて成功者を数多く出していこうとしている訳ですから、自分達自身もそういう大きな夢を持ってやっていって欲しいというのが今一番学生に伝えたいことです。
【聞き手】
今日はすごくどっしりとした、本当にお名前の通りに落ち着いた、安定した感じで色々とお話を伺いましたが、そんな社長でも、実は動揺したり、迷ったりされることが色々あってそして今があるのかなと思いました。これから本当にまだまだ、未知の世界といいますか、そういうステージにチャレンジしていかれて、更に成長されることを、ファンの一人として楽しみにさせていただきたいと思います。
【五十嵐】
ありがとうございます。
【聞き手】
本日は、色々とお話を聞かせていただきまして、ありがとうございました。
【五十嵐】
1999年12月に会社を退職したのですが、2000年を目前に辞表を出そうと思いました。
【聞き手】
ミレニアム辞表ですね。
【五十嵐】
はい。ベンチャーキャピタル時代に当時インターネットの産業が出始めていて、いわゆるネットバブルが始まる予感があったんですけども、ベンチャー企業であっても、色々な会社、もしくは大手の会社と組むことによって、そういうところに進出していこうという働きがけを自分自身がしていて。たまたま事業会社2社で、新しくネットの戦略の会社を投資をしてつくろうということが決まったんですね。たまたま仕掛けていたのが、私だったということがあって、かつ、その会社の代表になられる方も、もう四の五の言わず早く事業をやってみろと背中を押してくれる機会がありましたので、創業段階から参画させて頂いて、本当に会社を登記する段階から一緒に参画していったということですね。
【聞き手】
いよいよ夢の起業に向かって一歩を踏み出された訳ですね。
【五十嵐】
そうですね。ただし金融機関の人間ですので、実際に実業をやったことがないという中で、そういう一からやれる機会を逆に役員という立場でやらせてもらったというのが、次の飛躍につながっているのではないかなと思っています。
【聞き手】
ただ、時代の流れに乗ってネット事業を起こしていかれた訳なのですが、あまり順風満帆に進んだ訳じゃなかったと。
【五十嵐】
今の時代、かなり資本金を入れてビジネスを立ち上げる企業が多いと思いますが、当時の2000年前後も全く同じ状況で、世界的にも、やはりネットビジネスをやるということで数多くの資金が集まりました。私達自身も総額で20億円ぐらい使ってしまったのですけれども、やはり、まずはサーバーを買ってネットメディアを立ち上げてということで、数億円がポンと飛んでしまうんですね。ですので、赤字が先行していく事業だということもあって、大規模な資本投下も行う。
しかしながら、当時のインターネットバブルの時代と言いますのは、回線問題もあってブロードバンドというよりはナローバンドの時代でしたので、いわゆるネット広告の収入もまだまだ上がってきませんし、ご家庭においてもダイヤルアップの時代ということもありまして、ある意味マニア層がまず先行して使い始めたというのが実態だと思うんですね。
ですので、実需ベースのビジネスというのは小さくて、今残っているネット企業の数多くは、初めは相当な赤字を抱えながら生き残ってきた会社が、今いらっしゃるとは思いますけれども、ご多分に漏れず90%のネット企業が無くなったと思います。私たち自身もその内の1社になってしまったんですけども、逆に20億円使ってネットメディアを立ち上げて、なかなか収益化していくのは非常に難しかったという実感もありますし、逆に言うと私たち自身は、その時の事が非常に勉強になっています。
やはり起業はシンプルに、キャッシュオフは大事だということですね。収益を稼いでいかないと新規投資もできないですし、数年後には会社がもたないという現実も見てきています。かつ、当時、資金がなくなっていく中でリストラということも図らずもやりましたので、やはりそれが人に与える影響というのも、ある意味、失敗ケースを自分達でリアルに見たということは、今クロス・マーケティンググループをやっていく中で非常に役に立ってることですし、逆に身が引き締まる経験をしてきたということでもあります。
【聞き手】
ご経験の中で一番得たもの、失敗の中で一番得たものはなんでしょうか?
【五十嵐】
やはりスピードが大事だということですね。
会社にとって血液ってなんですかというとキャッシュの流れになりますので、売上の獲得スピードと実際お金が入ってくるスピードを意識しないと会社が上手く動いていかないんですね。その時の組織において一番大事なのはスピードを上げていくこと。その中で、どうやってスピーディーにキャッシュを集めてきて、次の投資に回していけるかというのは、結局成長のスピードに関わってきますので、そういったことでスピード、スピード、スピードということです。どこかで楽天の三木谷さんが言っていましたけれど、そんな形になってくるんじゃないかと思いますね。
【聞き手】
でもそれは身をもって得た失敗からの教訓ということですね。
【五十嵐】
やはりベンチャー企業なので、安定した収益基盤がない中でのいわゆる安全領域ですね。きっちりとした安定収益期が見えてくるまでに、いち早く上がらないと失速してしまうんですね。そういう意味では、スピーディーに事業を立ち上げていくことは非常に大事だということが、言葉では分かっていましたけれども、ではどれぐらいのスピード感ということでいいますと本当に休みなく、24時間頑張り続けられるかが非常に大事だと思います。
【聞き手】
やはりお仕事をなさる上で、家族の理解とか支えというのは非常に大事だと思いますか?
【五十嵐】
100%大事ですね。先程も言った通りスピードを上げようと思った時に、家族の応援がないとスピードが上がらないんですね。
【聞き手】
具体的に言うとどういうことでしょうか?
【五十嵐】
人生の選択というわけではないですけれど、家庭で問題が起きました、職場で問題が起きました、どちらを取りますかいう議論だと思うんですね。そういう時、迷わず仕事を取れる環境であるということだと思うんです。
私自身も、現在社長という立場でやっていますけれど、ではどちらを優先するといった時に、会社を真っ先に優先できる意思決定ができることが非常にスピードを上げられますし、誰かが責任を取っていかなければならない部分で、そこは他の社員達に対してもいい影響を与えます。そういう面では、家庭の支えというのは大事だと思います。
【ナレーター】
創業時にネットリサーチ事業からスタートし、現在までにマーケティングリサーチサービスを総合的に提供しており、年間で約1万件以上のリサーチを手掛けるとともに、顧客企業のデジタルマーケティング支援までを行っている「株式会社クロス・マーケティンググループ」。
約800万人以上の国内有数のプロモーションネットワークと、世界11カ国に拠点を有し、国内だけでなく海外の大手法人などの支援も実施。
2021年には「デジタルマーケティング」「データマーケティング」「インサイト」の3事業を主とする事業体制に変更。顧客のビジネスの成功を導いていく「マーケティングDXパートナー」を目指し、挑戦を続けている。
総合マーケティング企業をけん引する創業者が見据える次のステージとは。
【ナレーター】
世界的に推進されているデジタルトランスフォーメーション。この大きな変化は、自社にとっても飛躍の転機になりつつあると五十嵐は言う。
【五十嵐】
本質はプロセスの話になってきますので、デジタルを使ってどんなビジネスをするかということですよね。だからそういう面では、従来になかった領域の拡充ということもありますし、今までの仕事のやり方を変える。
モノの売り方自体がよりデジタルを使ってという形になってきていますので、そういう意味ではDXという言葉の中にビジネスチャンスが広がったという見方が良いのではないかと思います。
僕らはマーケティング支援会社として、何か時代が動くことで大きなビジネスチャンスになってきますので、皆さんが新しいことを始めようということは、常に僕らにとっても可能性が広がってくるということになりますね。
【ナレーター】
経営者であった両親の背中を見て、自身も同じ道を志していた五十嵐は、慶應義塾大学経済学部を経て、1996年にベンチャーキャピタルに入社。数多くの経営者の成功と挫折を見てきた中で得た学びについて次のように語る。
【五十嵐】
僕の場合、独立したいという方針はありました。でもできるのかなって、常に不安がよぎるわけですね。
これは運がすごい大事で、いわゆる周りの起業家の人たちから「独立するタイミングだよね」と背中を押してくれたり、経営者の知り合いが多いということもあって、「最後は骨を拾うからやってみたら」と言ってくれたり。
そういう意味では、若い人たちってキャリア志向とかスキル志向が強すぎるので、独立を考える時は、自分に何かあった時に助けてくれる人が何人いるかということが最も大事な要素だと思うんですよね。
【ナレーター】
その後、ITベンチャーの起ち上げに役員として参画。インターネットメディア事業を運営するも、当時は収益化が難しく資金繰りに難航。そこで浮かんだのが独立という選択肢だった。
【五十嵐】
年齢的なタイミングもありますし、前職の時に比較的にもう資金が尽きてきたというのもありますね。
あと、自分が立ち上げた事業のコンディションの影響もありました。ある面、今(当時)の現状の会社では追加資金が出てこない状況になってきまして。
自分自身が事業責任者として、さらにこの事業を大きくしていくためにやっていた時に、お金が出てこないといった場合にじゃあどうするのかということになってきて、もういい機会なので独立してやろうと。
それで前職を辞めて始めたのが、クロス・マーケティングという会社ですね。
【ナレーター】
そして2003年、株式会社クロス・マーケティングを設立。着実に成長を重ね、2008年に東証マザーズへ上場し、2018年には東証一部へと市場変更を果たした。五十嵐が語る、成長を続けるために考えるべきこととは。
【五十嵐】
会社を伸ばすということが大前提ですね。ベンチャー企業にとって、成長していれば、いろいろな経営課題はほぼ消えていきます。
それはどういうことかというと、いわゆるベンチャー型人材はゼロからイチを生み出すという思考で仕事をしますので、これがルーチンワークになった瞬間に、仕事がもうつまらないと思ってしまう。
ということは、新しい領域をちゃんとつくって引き渡せるか、あとは組織型人材の場合だと、ちゃんとした業務運営をしたいという方が多いので、ちゃんとした仕組みを求めてきますし。そういう形で、フィールドを広げていくというのはすごく大事だと思います。
実は若い人の方が事例主義で、要するに先輩がやっていたら自分もやれそうな気がすると思う方が多いんです。今の当社は先行事例をつくりながら、どう促していくのかということが求められている段階ですね。
【ナレーター】
継続した成長には挑戦を習慣化し、経営陣を中心にその環境をつくることが大事だと五十嵐は言う。
【五十嵐】
基本的には、失敗が前提で動いています。
10やって、3つうまくいけばいいわけじゃないですか。7つ失敗することを前提で動くということと、やはり挑戦した人が馬鹿をみないということがすごく大事だと思っていて。
実は組織の敵は組織じゃないですか。挑戦が失敗すると「あいつ失敗したじゃん」って言われてしまうんですね。そういうのをどう言わせないかということや、上の立場の人が失敗しておくことが大事です。
ちなみに当社の執行役員クラスには、新しいことをやりなさいという指示がよく飛んでいますね。
経営者プロフィール
氏名 | 五十嵐 幹 |
---|---|
役職 | 代表取締役社長兼CEO |
生年月日 | 1973年5月10日 |
出身地 | 東京都 |
座右の銘 | 一生懸命 |
愛読書 | ピーター・ドラッカー |
尊敬する人物 | 松下幸之助、稲盛和夫 |
会社概要
社名 | 株式会社クロス・マーケティンググループ |
---|---|
本社所在地 | 東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティタワー24F |
設立 | 2013 |
業種分類 | 情報通信業 |
代表者名 |
五十嵐 幹
|
従業員数 | 1,707名(内、臨時従業員数261名)※2024年6月末時点 |
WEBサイト | https://www.cm-group.co.jp/ |
事業概要 | デジタルマーケティング事業、データマーケティング事業及びインサイト事業を行う子会社等の経営管理及びそれに付帯または関連する事業 |