【ナレーター】
そして2008年に代表取締役社長に就任。当時の心境と、社長の重責を改めて感じたと語る、前社長からのある言葉とは。
【佐藤】
当時社長からはこう言われました。「2年間は若葉マークを付けて走っているようなものだと思いなさい」と。今でもちゃんと覚えています。
それと当時の会長がもう一つ言った言葉は、「社長と専務の関係性は、極端に言うと専務と新入社員より遠い」です。「社長は全責任を持つ。専務はまだ社長にどうしましょうと言えるが、社長はそうは言えない」と。
要するに、そこまで判断だったものを、社長は「決断」しなくてはいけない。判断と同じように聞こえるが、全然重みが違う、決断とは「他の選択肢を捨てること」だと。
もちろん選択肢をAプランBプランCプランと色々残すこともビジネス的にはあります。でも最終的にはやはり他を捨てること。これが決断をするということですね。ひとつを選ぶということに他ならない、決断をできるのは社長しかいないのです。
【ナレーター】
業務用ヘア化粧品で国内最大手であり、グローバル展開を加速させているミルボン。その経営指針の屋台骨となっているのが、2012年に従業員との対話から佐藤が作成した「ミルボンウェイ」だ。その経緯に迫った。
【佐藤】
ふと思ったのは、「仲間がいるんだからみんなに聞こう」ということです。当時、従業員は400~500人ほどでしたので、お客様と接するフィールドパーソンを中心としたグループごとに、2、3時間のディスカッションの会を25回くらいやらせてもらいました。
その中で一番見えてきたことは、一言でいうと、組織は伝わらないものだということです。人が増えていくと益々伝わらなくなってくる。
それならいかにしてミルボンの文化、ミルボンのイズムをどう伝えていくのか、またミルボンの軸をどう支えていくのかを2年間くらい考えて出来たのが「ミルボンウェイ」です。
まず一番根底にはイズムがあり、その根っこには会長の想い、信念がある。それはつぶさない会社をつくるというキーワードで、これは絶対にミルボンとして、生涯にわたって変えてはいけないものだと定めました。
【ナレーター】
美容は文化であることに強いこだわりを持っているという佐藤が、ミルボンを通じてつくりたい文化とは。
【佐藤】
文化というのは新しいものが出たからといっただけでは変わりません。その地域の綺麗という価値観や、気候や風土、そういうものに根ざしていて、これは全て文化なのです。味も同じだから食品も同様です。
だから、グローバルスタンダードは文明には通用するかもしれませんが、文化には違うと私は思っています。その地域ごとの美しさがあります。中国には中国の美しさがあり、アメリカにはアメリカの美しさ、日本には日本の美しさがあり、日本の中でもまた色々な価値観で分かれるわけです。
我々が目指す、世界で一番貢献するというのは、ミルボンがスタンダートをつくって何かを決めるわけではなく、その地域ごとの美しさを我々がサポートして積み重ねていくことなのです。これをつくっていきたい、ミルボンだからできることです。
【ナレーター】
世界一美容師に支持されるメーカーになると力強く語る佐藤。見据えている未来像とは。
【佐藤】
あえて大企業を目指さない、中堅企業を目指す。これは中くらいという意味ではありません。ある一つの事業で圧倒的に強い企業のことを言うのです。我々はずっと中堅企業であり続けたいと思います。
その裏には、大企業病にならなくて済む、組織としての健康体でいられるということがあります。組織というのはできた時が一番フレッシュ。時間とともに腐っていきます。だから常に中から刺激していかないと、鮮度は保たれません。そのためにはやはり、一人ひとりが意志を持ち、ボールを投げられる環境をどうつくるかが重要です。
だからといって今100%できているかどうかはわかりません。ただ、お陰様で従業員数が1,000人を超えても言いたいことを言う従業員はかなりいますから、そういう文化が根付いているのだと思います。嬉しい限りです。こうしたいということは大事です。
-視聴者へのメッセージ-
【佐藤】
ご視聴どうもありがとうございました。最後に、これはミルボンウェイにも入れている言葉ですが、「未来、それは自分の意志」という言葉があります。私の大好きな言葉です。
やはり未来というのは、予測するものではなくてつくっていくものです。つくっていくためにはチャレンジしていかなくてはいけない、チャレンジしていくからこそ失敗もありますが、私は失敗をお勧めします。失敗からこそ新しいものが生まれてくるものだと思っています。
その時に一つだけ気を付けることは、目的と手段を間違わないことです。ちゃんと目的にフォーカスすること、これが大事で、人生でもつながることだと思っています。