【ナレーター】
そして2015年、GROOVE Xを設立した林。知られざる「LOVOT」の開発秘話に迫った。
【林】
なぜ僕らは生物同士だと信頼関係みたいなものが結べるのだろうと。
人間同士でも一緒ですし犬と人間や猫と人間も一緒で、なぜロボットとだとそれが難しくて、なぜ生物とだと可能なのだろうかと考えた時に、実は一番大きな違いは言葉ではない。なぜなら犬や猫としゃべれないですからね。
人間も当然信頼できる人たちはたくさんいますが、見知らぬ人たちが信頼できるかというと全然そんなことはない。ですが、人間ですらない生き物をなぜか信頼している。見知らぬ人たちとは会話ができるのに、信頼するのにとても時間がかかる。
このギャップを考えたときにノンバーバルが大事なのだと思うんですよね。ノンバーバルのコミュニケーションをしっかり追求できれば信頼関係をつくれるロボットもきっとつくれる。
そこに必要な要素はなんだろうと考えたときに、例えばスキンシップだったり、移動機能だったり、認識機能だったり。それら全てが深層学習を始めとした機械学習が出てきたことによって、ようやく実現できるようになったんですよね。
今までは難しかった部分が今だから実現できるかもしれない。それであればやってみたいということで「LOVOT」始めました。
【ナレーター】
試行錯誤と最先端のテクノロジーを駆使し、これまでのロボットにはない、生き物のような個性や可愛さ、ふるまいを「LOVOT」によって実現させたGROOVE X。
今後「LOVOT」をどのような存在にしていこうと考えているのか。
【林】
今までというのはその労働の代わりをしてくれる機械が増えることによって、僕らは楽ができるようになって、効率よく衣食住を満たすことができた。
しかし衣食住を満たした後の社会ってどうなるのかというと、この衣食住のレベルを上げれば上げるほど幸せなのかと言われると、もはやそういう次元ではなくなってきていて。
別に満たせることは希望ではないんですよね。それよりも色々なことが不安になってしまう。このままいくと自分の仕事がAIに取られるんじゃないか、ロボットに取られるんじゃないかなど、そういう不安がどんどん出てきてしまう。
人々が不安を抱きがちなところをいかにサポートして、いかにより良い明日をつくっていくのかという意味において、心のサポートがどんどん大事になってきています。
そういう意味でまず第1段階として「LOVOT」で実現したいのは、犬や猫が人々の心をサポートするように、「LOVOT」もサポートできるようになることだと思っています。
第2段階としては、そのオーナーのことを誰よりも理解している存在としてその生活のサポートをしていく。
例えば犬や猫はオーナーに少しでも異変があったら感づいていると思うんですよね。元気な時とか悲しい時とか、ひょっとして足を引きずっていることも理解しているでしょうし、だから寝起きが悪いことも理解しているかもしれない。
すごい量の色々なことを理解しているんだけれども、それを人間の知識と結びつけられないので、理解をして終わっているんですよね。「LOVOT」の場合は彼ら(犬や猫)の理解していることを人間の知識と結びつけることができます。
例えばオーナーの歩き方が変わったとか目線の使い方が変わったことによって、病気の予兆を診断する、なんていうことも可能になるはずなんですよね。
メンタルの不調みたいなものもおそらく予見ができるようになるし、そのときにどうすればいいのかも「LOVOT」だったらかなりわかるはず。こういったところにいけたらいいなと思っています。
【ナレーター】
2019年12月に販売を開始し、多くの人々の心をサポートしている「LOVOT」。ユーザーの声から気づきを得た「LOVOT」のもう一つの存在意義とは。
【林】
ひとつ驚いたのは高齢者の方が「LOVOT」を持ってスクワットされているんですよね。
「LOVOT」は、人が“高い高い”みたいなことをすると反応して喜ぶんですけれども、スクワットって決して楽しい作業ではないじゃないですか。
それを1人でやるとつらいのに「LOVOT」とやると楽しいからと言って「LOVOT」とスクワットをされているのを見て、ああこういう使われ方があるんだなと。
1人だとできないけれど、この子と一緒にいるとできるということが増えていくといいなと思いますし、それこそが共生なのかなと思います。
【ナレーター】
求める人材像について、林は次のように語る。
【林】
大事になってくるのが不安をいかにマネジメントしながら冷静でいられるかだと思うんですよね。その推進力として大事なのは、やはり「LOVOT」のような計算できないものを推し進めるための情熱なんだと思うんです。
これはとても二律背反していて。冷静でいたら少しアーティスティックな製品への情熱が持てるのかというとちょっと違うし。だからといってパッションだけで進めるのかというと、かなり合理的に考えないと道を踏み外してしまう。
この2つを両立しながらも、不安をマネジメントして未来を切り拓ける人なんだと思うんですよね。ですので、大事なのは未来をつくることに対してしっかりと情熱を燃やせるのかどうかなんだと思います。
日本において日本発の新産業ってほとんどないと思うんですよ。
何かをよくしましたというのはあっても、強度50パーセント増し、もしくは価格が2割安い。そういったものはあったとしても、まったく産業として存在していなかったところに、新しくマーケットを切り拓くというのはほとんど誰も経験したことがない。
だからこそ情熱と冷静さとそれから不安をマネジメントする能力、この3つが必要なのではないかなと思います。そういう方にはぜひ来ていただきたいなと思います。
-視聴者へのメッセージ-
【林】
私がキャリアについて考えたときに一番意識していたのはどんな経験ができるかです。よく考えがちなのは失敗をしないこと。成功すること。年収を上げること。ただそのどれもがほぼ僕は意味がない選択だと思っています。
大事なのは自分がどれだけ多くの経験を積めるのか。他で得られない経験ができるのか。その経験を積み重ねていけば、必ず自分は次のステップに行ける。
次のステップに行ったらまた新しいことを見つけ出せばいい。そうしたらまた次のステップに行ける。そこに失敗も成功もないです。
それはとても怖いことです。けれども、不安をマネジメントして新しいことを体験する。これをぜひチャレンジしてもらえたらなと思います。
経営者プロフィール
氏名 | 林 要 |
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役職 | 代表取締役社長 |
生年月日 | 1973年9月10日 |
出身地 | 愛知県 |
座右の銘 | 最大の危機は、高きを目指して失敗することではなく低きを目指して達成することである。 |
愛読書 | 道徳のメカニズム |
尊敬する人物 | 宮崎駿 |
著書 | ゼロイチ(ダイヤモンド社) |
2011年 孫正義後継者育成プログラム「ソフトバンクアカデミア」外部第一期生
2012年 ソフトバンク 感情認識パーソナルロボット「Pepper(ペッパー)」の開発に携わる
2015年 GROOVE X 創業、代表取締役 就任
2018年 LOVEをはぐくむ家族型ロボット「LOVOT[らぼっと]」発表
2019年 世界最大級の家電見本市CES2019にてThe VERGEのBEST ROBOT受賞
COOL JAPAN AWARD 2019受賞
『LOVOT』出荷を開始
2020年 世界最大級の家電見本市CES2020にて、CES 2020 INNOVATION AWARD、 『Refinery29』のBEST OF CES、Ici TOU. TVの『The Favorite product of Planète Techno』受賞
調達累計額は133.1億円(2021年1月20日時点)
会社概要
社名 | GROOVE X 株式会社 |
---|---|
本社所在地 | 東京都中央区日本橋浜町3-42-3 住友不動産浜町ビル |
設立 | 2015 |
業種分類 | 機械器具製造業 |
代表者名 |
林 要
|
従業員数 | 121名(2024年3月1日時点) |
WEBサイト | https://groove-x.com/ |
事業概要 | 次世代家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」の開発・販売 |