【ナレーター】
その後も着実にキャリアを積み、2018年にブラザー工業の代表取締役社長へ就任。当時の心境について、佐々木はこう振り返る。
【佐々木】
驚きおよび戸惑いですね。
私のテーマにお客様と従業員の幸せの追求というのがありまして、それをやっていくんだということで、たとえば自分が上司だとして、部下が非常に成長して変わっていくとします。
これを見るのがその人たちの人生に自分がインパクトを与えられるという意味では、とてもやりがいがあることだなというのを一方で感じておりました。
ですから、社長をやりなさいと言われたら、こちらを追求するひとつのチャンスだと思ってやるしかないかなという、そのような感情でしたね。
【ナレーター】
挑戦を結実させる秘訣について、常に勉強することが大事だと語る佐々木。その真意とは。
【佐々木】
社員を巻き込んで会社で挑戦していくのだったら、もっと確率が高い挑戦をしないと社員の努力が無駄になってしまうわけですね。
自分たちはどうやったら、この活動で高い成果を出すことができるのかというようなものを常に学んでおく。
高い成果を出す確率が高そうな活動を一生懸命、声をかけて社員みんなで進めていく、そういうことを非常に心がけているわけですね。
5年後、10年後にやって良かったと社員みんなが思うような活動を選ぶということが非常に大事です。
【ナレーター】
顧客が本当に便利だと思うようなメリットを届けることができるかどうかが、メーカーとしての真価が問われる時だと佐々木は言う。
【佐々木】
弊社はミシンの修理業から出発したものですから、その修理をやれば、どういうつくり方をすればどういうところが壊れるということを非常に学べるわけですね。そのため、最初につくったミシンが壊れないことで有名になってしまいました。
しかし壊れにくいというのはお客様から言ったら非常にメリットなので、やはりその市場で起こることを学び、常に改良を続け、便利で壊れにくく使いやすい、こういったものをご提供することによってお客様から対価をいただく。
これによって私どもが生活していくことができるという、ここをしっかりやっていくことが大事だと思っています。
【ナレーター】
2021年10月、新たなグループビジョン“At your side2030”の策定を発表したブラザー工業。どのような想いでつくられたものなのか。
【佐々木】
この“At your side2030”の1つ前の“グローバルビジョン21”。2002年にこれをつくる活動に私自身も参加させていただきました。
こういう活動を行なうことによって、このブラザーという会社全体がどういうビジネスをやっているのか、何を強みとしているのか、今後どうしていかなければいけないのか、そういうことを深く考える経験を若いうちにすることができるわけです。
このような経験を次の世代にやらせてあげたいという思いがとても強くて、40代を中心とする次のブラザーを引っ張っていく人たちに集まってもらって、この新しいビジョンをつくってもらいました。
このビジョンは3部構成になっておりまして、“最初があり続けたい姿”。それから2番目が“お客様への価値の提供方法”。3番目が“注力領域”と、こういう3部、3層の構成になっているというところが素晴らしいと思っています。
【ナレーター】
求める人材像について、佐々木は次のように語る。
【佐々木】
この世の中を少しでもいい場所にしたいというようなことを考えている方。そこに自分が少しでも貢献したい、できれば自分が世界に与えるインパクトをできるだけ大きくしたいと思っている方。
そういうような方が一緒に仕事をしていただけると大変ありがたいと思っています。
自分自身が世界に与えるインパクト、これをできるだけ大きくするという意味では、当社はなかなかお買い得な会社ではないかと思っております。
-大事にしている言葉-
【佐々木】
「常に工夫、常に改善」ということですね。
世の中が変わってきたことを受け入れて、その中で自分はどういう工夫をしてどういうことをやったらよりよい自分の人生をつくっていけるか、こういうことをどんな局面でも考えていく。
これが皆さんそれぞれの考え方を常に明るく前向きにしてくれます。
解決しないことを考え始めても、どんどん気持ちが暗くなってくるんですね。暗くなっているといいアイデアというのは出なくなってしまいます。
そうではなく、考えても仕方がないことは考えない。考えたら良くなることを一生懸命考えてやってみるわけです。
やってみると意外とうまくいくと思ってやったのにうまくいかないことって多いんですよ。
そういうときは大チャンスで、なぜうまくいかなかったかということを調べると、自分の考えの足りないところをその結果がガーンと教えてくれるわけです。
そうすると、「こんなことが起こるなんて知らなかったな」ということで、自分がひとつ賢くなるわけですね。そうやって常に成長していくことができる。
ですから、常に工夫して改善してトライしていく。そういうことを続けてほしいと思うし、自分自身もそれを心がけています。