【ナレーター】
国内トップシェアを誇るブランドを多数手掛けるエステー株式会社。
「空気をかえよう」をスローガンに、空気をとおして暮らしを明るく元気にすることをビジョンとして見据え、消臭・芳香剤「消臭力」、防虫剤「ムシューダ」、脱臭剤「脱臭炭」、除湿剤「ドライペット」、米びつ用防虫剤「米唐番」など、独自の空気ビジネスの新技術を活かした事業を展開している。
近年では、既存商品の強化に加えてペット事業への参画、M&Aの推進など、持続的な成長に向けた挑戦を続けている。
「全員経営」を掲げ、新たな経営体制で臨む経営者の信念と、成長戦略に迫る。
【ナレーター】
自社の強みについて、上月はエステー屈指の2大ヒット商品を挙げ、次のように語る。
【上月】
我々の強みは、ちょっとニッチな商品が多いこと。“なるべく自分たちが戦える範囲で、ナンバーワンのシェアを取ろう”というのが創業以来の方向性なんですね。その中では圧倒的に強くならなきゃいけない。売れる商品を作ることも大切ですが、ブランド力もすごく重要じゃないかと思っているんです。
例えば、防虫剤っていったら『ムシューダ』っていうのを想起していただけるし、消臭芳香剤でいったら『消臭力』って言っていただける。このブランドの強さ、そこが非常に強みじゃないかなと思いますね。
【ナレーター】
上月のキャリアは、エステーへの新卒入社からスタートした。営業職を経て、希望していたマーケティング部門に配属される。そこで上月はメーカーとしての業務の本質を学び、それは現在も生きていると振り返る。
【上月】
営業を10年ぐらいやった後、マーケティング部に所属しました。そこで実際に自分が作った商品を、いかにお客さんに支持していただくかをすごく考えた結果、今まで売るだけだったところからすごく視野というか、視座が変わったんです。その時の大変さっていうのが、今自分のベースになっているなという気はします。
営業職だった時は得意先だけ納得していただければ良かったけれども、自分で商品をつくる側になると、営業に売ってもらう立場になるじゃないですか。
自分のビジネスプランで商品の説明をして「これがこうだから売れると思うんですよ。だからこうやってください」といった具合に。「これをいつまでに作ってもらって、こういう調査をして」というのを全部マーケッタ―が自分でやらなきゃいけない。そんな経緯を経て、商品に対する考え方だとかがすごく理解できるようになりましたね。
【ナレーター】
その後、上月は、現在もエステーの主力商品である『消臭力』と『脱臭炭』を市場に送り出し、執行役マーケティング部門担当、R&D部門担当、常務執行役、エステーPRO 代表取締役社長を経て、2023年に代表執行役社長に就任した。長期にわたり舵取りをしてきた創業家から経営のバトンを受け継いだ上月は、就任早々「全員経営」を掲げた。その真意とは。
うちの会社はおとなしい社員が多いんです。すごく熱心で、真面目で誠実。まさにそういうタイプの社員が多く、指示待ちで、自分から動くとか、自分から何かとんでもない提案をするという、社内の風土があまりなかったんですね。
でも、社長に就任したからといって、私が全部決めて必ずしもうまくいくとも限らないわけで。全員で経営していくというスタイルにした方が絶対にいいと思ったのです。若い人からベテランまで、みんなが参画するんだ、と。どんどんどんどんアイデアを出すし、意見もするスタイルにしたいと。
だから、一番最初に発したのは「壁をぶち壊せ!」っていうメッセージでした。壁というのは年代の壁などもあるし、R&Dと製造の間にも壁があります。そういう部門の壁だとか、お客さんと関係ない壁を全部なくしていこうよ、と発信したんです。
でも、それをやるためには、やっぱり組織も変えなきゃいけないし、人事のやり方も変えなきゃいけない。そういった改革を行いつつも、事業としてもっと成長していくためには何か行動を起こさなくてはいけないということで、就任直後に“100日プロジェクト”というものを立ち上げたのです。
“100日プロジェクト”とは、私が社長に就任してから100日で我々の目指す方向性を全社員で決めようという取り組みです。
そうすればみんな他人ごとではいられないですから。「自分たちはこういう方向性で、自分たちの部署は何をしなければいけないのか」とか、「自分は何かしなきゃいけない」「自分も提案しなきゃいけない」というように大分変わってくるじゃないですか。そういったプロジェクトを通して社内の風土や、雰囲気を変えていこうと行動を起こしたのです。