2006年の設立以来、「生活機会の最大化」を目標に、様々なウェブメディアを運営する株式会社じげん。2013年には東証マザーズに上場し、破竹の勢いで成長を続けるベンチャー企業だ。同社の子会社の1つ、株式会社にじげんの事業責任者を務める長島寛人氏は、にじげんの柱である占い事業を軌道に乗せた立役者として、社内の期待を背負う若手社員だ。大学在学中に事業戦略の重要性を痛感した長島氏が、低迷していたにじげんの事業をV字回復させた舞台裏に迫る。

組織を運営する難しさを痛感した経験

―大学時代のご経験で、今のご自身に影響を与えたものはありますか?

長島 寛人:
政策立案コンテストを運営する学生団体に所属し、代表を務めたのですが、そこで組織運営の難しさを知りました。そこには今まで巡り合わなかったような優秀な人や個性豊かな人がたくさんいました。代表就任直後は、とにかく温かい組織をつくりたいと思っていました。しかし、実際に参加者の方からお金を頂いてイベントを成功させなければならないという、ある種1つの企業のような目的のある組織を運営する中で、1人の非常に優秀な学生の「大多数のメンバーを切って、少数精鋭で運営するべきだ」という主張とぶつかることになりました。

私にはメンバーの“居場所”を奪うようなことはできないという思いがあり、その溝を埋められず、彼と決別せざるを得なくなったのです。イベントは無事成功したものの、優秀な彼を切ることになってしまったということもあり、自分にとっては成功でもあり失敗でもある、少し苦い経験となりました。本来なら、優秀なメンバーがとことん活躍できる環境をつくるべきで、大きな痛みを伴う前に手を打つことが必要だったのではないかと思います。その後は、メンバーにとっていかに有意義な体験を提供するかという情熱と、事業の目的達成のための判断の冷静さという両面を大事にするようになりました。

最短距離で「偉大な経営者」になるために選んだ“じげん”

―その経験が、じげんで働くという意思決定にどう繋がっていくのでしょうか。

長島 寛人:
学生団体での活動が終わり、就職活動の時期になると、様々な企業のインターンシップに参加し、そこで再び自分のリーダーシップを発揮させなければならないという場面にまた出くわしました。様々なバックグラウンドや個性をもつメンバーたちと決まった期間の中で成果を出さなければならないという中で、どのようにチームビルディングをし、どのタイミングで組織崩壊を起こして他者を認め合う風土をつくり再構築していくかという、組織のUカーブの描き方を確認することができたと思います。結果として賞をいただいたり、内定をいただいたり、就活という枠の中では一定の結果を残すことはできました。

けれど、インターンで評価されてもそれが自分の実力を裏付けるものではないと感じ、どこか物足りない気持ちがありました。そこで、真のリーダーシップと結果が求められる「経営」に挑戦しようと思い、就活で出会った仲間とともに在学中に起業しました。色々と挑戦したものの、どれも納得できるスケールにはならず、事業を立ち上げて結果を出す難しさを痛感したのを覚えています。しかし難しいからこそ逆に「経営者」になりたいという気持ちは余計に強くなりました。

突破口を見つけるべく、経営者や事業責任者の方々に、事業を創れるようになるために学ぶべきことなどを伺ったのですが、そこから実際に自ら事業を創る場数の多さと、優秀な経営者から質の高い指導を受けられる環境が良いという結論に至ったのです。自分にとって、その最適解がじげんでした。

経営者の気迫の中に見えた、キャッチアップポイント

―実際に平尾社長とお会いした時の印象はいかがでしたか?

長島 寛人:
知識量も思考力も経験値も全く敵わないと思いましたし、何より経営者としての気迫みたいなものに大変圧倒されました。話をしていく中で、マクロの動きをどう見極め、いつどのマーケットに入っていくべきか、どんな競争環境でどう勝ち筋を描くのか、といった事業運営を成功させるためのアプローチが非常に具体的であり、地道な情報収集と思考のサイクルが圧倒的に突き抜けていることを知り、だからこそ強い憧れと希望を持ったことを覚えています。

というのも、到底追いつけない距離にいるものの、当時、平尾自身も「自分はやるべきことをやっているだけだ」と話していましたが、彼のアプローチ自体はキャッチアップするイメージを持てたので、その実践により最短距離で経営者になりたいと思ったんです。その後に紹介されたのが、当時の株式会社にじげんの事業責任者でした。平尾に追いつく最初のステップとして、まずはその方を追い抜こうと考え、にじげんへの配属を強く希望したというのが、入社の経緯です。

思考の転換で停滞事業をV字回復

―ご入社された当初、どのような事業に携わられたのでしょうか?

長島 寛人:
占いの事業は集客に大きなコストがかかるということもあり、広告宣伝費を抑えて自社で集客できるようなメディアをつくることになりました。それこそ起業するような感覚で、たった1人でゼロから始めるというのが初仕事でした。新卒が1人でできることなんて限られているので最初は苦戦しましたが、学生団体時代の要領で学生インターンシップ組織を立ち上げて、数ヶ月後にはインターンシップのメンバーだけで事業を回せるまでに体制を整えることができました。今ではにじげんの第二の柱として、集客面のみならず売上/利益面で大きな貢献ができる強い事業に成長しています。

メディア事業が軌道に乗りつつある時期、一方で占い事業の方は伸び悩んでいました。「この事業が伸ばせないなら、そもそもにじげんはグループにとって必要ないのでは」という議論さえ持ち上がる中で、先輩と「やるからには絶対に諦めない」と逃げずに向き合い、V字回復に持ち込むことができたことは、自分にとっての大きな糧になったと思います。


―占い事業をV字回復させたきっかけは何だったのでしょうか?

長島 寛人:
事業を俯瞰して見直し、事業の本質的なドライバーは何かを見極めたことが重要だったと思います。占いの事業は、お客様が占い師に予約を入れて電話で相談するというモデルです。この事業モデルは何の事業に似ているかを考えた時、「人が人に予約を入れるビジネス」として抽象化できるかもしれないと思い、更に「人が人に予約を入れるビジネス」とは、例えばコンサルタントやマッサージ店、それから美容室といったビジネスが似ているかもしれないと考えました。

そこで、例えば自分が美容室の経営者だとしたら何を重要視するだろうかと想像すると、カリスマ美容師がきちんとシフトに入ってくれることなのではないかと思えたのです。今まではユーザー数しか見ていなかったのですが、この事業の本質は「需要があれば立ちあがるビジネス」ではなく、「供給があるから立ち上がるビジネス」であり、供給サイドから事業を見なければならないということに気付き、抜本的にKPIや事業構造を見直しました。その結果、ユーザー集客というよりは占い師にフォーカスして事業を創ることに舵を切ったことが、成功の要因だったと思います。

“知”を構造化することで、学びを深める

―他の同年代の方と比べて、ご自身の中で特に工夫をされていることはありますか?

長島 寛人:
比べるというよりも、自分の強みとどう向き合っていくかだと思います。私の場合、とにかく何に対しても好奇心を持ち、仕事でも遊びでもインプットを増やし、その中から抽象化して学びをストックし、知見同士を結び付けてアイディアを深めていくことを大切にしています。

先ほどの占い事業の話にありました「人が人に予約を入れる」という事業モデルから思考を抽象化すると、たとえば「人がモノに予約を入れる」モデルだとどうなるだろう?と考えることもできます。そこから「1対多の予約だったらどうなんだろう」「予約ではなく販売だったらどうなんだろう」と考えを広げたり、また、これは平尾から学んだことですが、事業モデル同士の共通点や相違点を見つけたり、結果が左右される要因を組み合わせたりすることで、“知”の構造化を進めることができます。その材料を少しでも多く持つために、インプットの量を増やすことを心掛けています。

いつか社長を超えたい

―今ご自身の中で解決すべき課題はありますか?

長島 寛人:
平尾を見ていると、果てしなく高い視座で事業や経営を俯瞰していると感じます。目線を上げるためには、やはり経営について考える時間を経営について広く深く考える時間を取り、いかに本質的な意思決定をしていくかが大事だと思います。ともに事業創りができるメンバーをさらに集めて、短期的にも成果を出しつつ、より中長期的な視野で純粋に戦略を考える時間を確保する体制をとることが、課題の1つです。


―いずれまた起業をしてみたいと思われますか?

長島 寛人:
そうですね。もちろん今の環境でできないことはほとんどないのですが、更にオーナシップを持ち、いずれは次のチャレンジをしてみたいと思っています。1人の起業家、経営者として、平尾丈を目指し、超えていきたいと思います。

編集後記

長島氏は、わからないことがあれば部署や役職関係なく、色々な人に話を聞きに行くようにしているという。大量の情報をインプットし、それを自分のなかでノウハウとして構造化するからこそ、具体的な戦略に落とし込むことができているのだ。平尾社長のアプローチを習得し、次のステージを目指すべく奮闘する長島氏の今後の成長に注目したい。

長島 寛人(ながしま・ひろと)/1991年10月7日生まれ。
静岡県立静岡高等学校卒業後、慶應義塾大学に入学。新卒で株式会社にじげんに入社。2016年9月、同社の事業責任者に就任。座右の銘は『自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ』。愛読書は『白洲次郎 占領を背負った男』(講談社)、『隠れた人材価値』(翔泳社)。趣味はサウナ、映画。

※本ページ内の情報は2018年2月時点のものです。

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