“会社”のために働く必要はない!?「ワークスタイル変革」の最前線を走るサイボウズ社長が語ったその真意とは ~第2回 『社長との懇親会』実施レポート~

2018年1月26日、都内の某レストランにて、サイボウズ株式会社の代表取締役社長である青野慶久氏をゲストにお招きし、第2回『社長との懇親会』を開催いたしました。

当日は、教育関係の仕事に就かれている方や、大手企業で多様な働き方を考える方など、現在サイボウズが取り組む「ワークスタイル変革」に興味をもつ数人のビジネスパーソンの方々が集まり、青野社長と熱いトークを交わしました。

「選択的夫婦別姓」に関わる青野社長が起こした訴訟の背景や、サイボウズが実施する評価制度の本質、そして、「“会社”で働く意味」についてなど、多くのビジネスパーソンが探し求めている問題の答えを知ることができた今回の懇親会。当日の様子をまとめました。

「働き方改革」は1人1人の不安や悩みにフォーカスすべき

「選択的夫婦別姓を起点として、一律に全てを捉えがちな日本の社会を、多様な個性を重視する社会へと変えていきたい」という青野社長。LGBTの方たちに対する理解も進んでいるサイボウズ内では「男性」「女性」という言葉は使わないそうです。パーソナリティをとことん重視し、常に「Aさんはどうか?」「Bさんはどうしたいのか?」と、バイネームまで落とし込んで考えています。「幸せも価値観も人それぞれ」という多様性を認める社風。それをつくりあげた青野社長は、全社統一で「残業禁止」や「朝方勤務への切り替え」などを掲げがちな日本の「働き方改革」に対して、異議を唱えます。

「働き方改革は、右から左に流せばいいというものじゃない。1人1人のちょっとした不安を1個ずつ拾っていくこと。それを積み重ねることが大切」と語ります。

「朝型の人は朝働けばいいし、夜型の人は夜働けばいい。在宅でも出社でも、その人が最適なパフォーマンスを出せる環境なら構わないわけです。そういった多様性を受け入れる土壌が出来上がれば、日本は面白くなる。

1人1人に必要なことは何かを聞き、それが理にかなっていれば取り入れるサイボウズの制度。中には、「営業で外出した際に飲むコーヒー代を経費にしてほしい」といった要望も通ったといいます。一見型破りなようで、社員のパフォーマンスに特化したサイボウズならではのエピソード。同社の強さが垣間見れた気がしました。

“会社”のために働く必要はない

また、「辛い思いをしてまで“会社のために働く”ということに対して疑問を持つ」と意見に対しては、「“会社”というものは実は存在しない」という意外な言葉が青野社長から発せられました。

「『会社って何?』というのは実は難しい質問なんです。働いているのは社員ですし、株主も“会社”ではない。ならば『会社ってどれ?』となります。実は存在していないんです。法人格として、見えないけどそこに“いる”ことにしている。それが“会社”。だから『存在していないもののため』に働くことへ疑いの目を持ってほしい。

経営者として会社を運営している立場の青野社長からの「“会社”というものは存在しない。“会社”のために働くな」という言葉に、参加者の方は驚かれていました。

「“大事にしたいのは何か”ということを真剣に考えてみるべきです。会社のためではないはずです。“お客さんのため”であったり、“仲間のためで”あったりします。何の“ため”に働いているかを考えることが大切です。

昨今、盛んに叫ばれている「働き方改革」。多様性を認め、1人1人のパフォーマンスを最大限に発揮するためには、まずは“会社”という当たり前の概念を一旦外して考えることが大切なのかもしれません。

“モヤモヤ”はイノベーションのチャンス

「潜在的な社員の不満をどう解消したらいいか」というマネージメントに関する質問に対し、青野氏は、“モヤモヤ”は問題解決のチャンスです。“モヤモヤ”していることがあれば言わなければならない。サイボウズでは“質問責任”を義務化しています」と言います。イノベーションのきっかけになる“モヤモヤ”は、サイボウズでは大歓迎とのこと。青野氏がメンバーに「押し付ける」数少ない行動規範の1つです。

そして、その「“モヤモヤ”を発信できる土壌」を整えるためには、「言った人間が得をする状態をどんどんつくっていく」ことが肝だと言います。中には入社3年目の社員が全社員のボーナス制度を変えた事例もあるそうです。「言ったもん勝ち」の状況をつくり上げることと、“モヤモヤ”について質問する義務を持たせることで、サイボウズの社内では様々なイノベーションが起きています。

市場価値で決めるサイボウズの人事査定

そして話題は、サイボウズの評価制度について。ある参加者の方から「サイボウズでは、その人の市場価値で人事査定されると聞きました。具体的にどうやってジャッジしているのでしょうか?」という質問が飛びました。

「例えば、その人が今行っている事業や働き方で転職をしたら、転職先でどの程度の給与をもらえるのか。または同等の人がサイボウズに入社してきたら、いくら出すのか。その感覚で、まず部長が査定し、その後、部長が集まる本部会で話し合って最終的に決めます。スキルも成果も、年齢も実績も全て勘定した上で、最後は「適当」に評価しています。答えなんてありません。一番大事なのは『その人が幸せに働けるかどうか』です。」

サイボウズでは入社面談時と入社後半年に1回のペースで希望する給与の額についてのヒアリングを行います。「どんな人事査定の仕組みでも、最終的にその人が喜んで働かなければ、『仕組みに使われている状態』と同じ」だと言う青野社長。ここにも、一律に評価することを避け、1人1人の事情や実績を鑑みるという、パーソナリティを大切にするサイボウズの姿勢が反映されていました。

「選択的夫婦別姓」訴訟の真意とは

2017年11月、青野社長が「選択的夫婦別姓」の実現に向けた 訴訟を行うと発表されたことで、国内では大きな反響がありました。青野社長は結婚にあたり奥様の姓である「西端」を選択されました。「青野」というのは旧姓です。

「女が家に入る」という昔ながらの結婚観に違和感を抱いた奥様への賛同と、旧姓と新姓という2つの姓を使うことへの興味から、奥様の「西端」姓を選んだ青野社長。しかし、新旧の姓を使い分けることに不便を感じるようになりました。「会社では『青野』だけれども、株主総会では『西端』でなければならない」「郵便物はどちらの姓でも届く」「保険は新姓でなければならない」など、使い分けに苦労するようになります。

そこで思い切って登録していた全てのものを新姓に変えることを決意。ところが、所有する株の名義変更をしたことで80万円以上の支出があったというのです。

2015年には、最高裁が民法の夫婦同姓規定は「合憲」であるという判決を下しています。しかし、やはり実際に多くの不便が出ているという中で、青野社長自身も制度に対して疑問を抱くようになりました。そうした中で、熱意ある弁護士の方と出会ったことで、訴訟に踏み切ることとなったのです。 2年前とはアプローチを変え、「戸籍法に、『婚姻により氏を変えた者は,戸籍法上の届出により,旧姓を戸籍法上の氏として用いることができる。』の条文を追加する」ことをゴールとしました(「選択的夫婦別姓訴訟で実現したいことへのご理解とご支援のお願い」(https://note.mu/yoshiaono/n/nd26d89d46048)より)。離婚時に認められる戸籍法上の氏と民法上の氏の不一致を、婚姻時にも適応することを目的としています。

「政府に対して意見があるとか、フェミニズム運動をしたいとかではない。婚姻の概念に踏み込むつもりもない。『旧姓を使いたい』という思いがあっただけで、今回、たまたま自分がその“打席”に立っただけなんです。」

非常にシンプルな訴訟の真意。その背景には、青野社長が今回の懇親会で繰り返し話した「多様な個性」を重視する社会をつくりたいという思いがありました。

最後に

まだまだ話足りないといった雰囲気の中、あっという間に終了時刻が来てしまいました。最後に青野社長は「次の世代にはもっと多様な個性が生きる楽しい社会を残したいなと思いますので、ぜひ引き続き、情報交換しながら連携していきましょう」と参加者の方に呼びかけました。

すべてのビジネスパーソンが自分らしく輝ける社会に向け、それぞれが意識すべきことを見つけられた今回の懇親会は、参加者の方にとって、非常に有意義な時間となりました。

参加した方の感想

Mさん(30代・会社員)

とても近い距離感でお話できるのはなかなかないので本当に有難いと思っています。青野さんのお話に深く共感し、今の職場に何とか取り入れたい!!と本気で思いました。


Oさん(30代・教員)

印象に残ったことは働き方改革は個々にとって楽しくなくてはならず、個々の生活スタイルに合わせてデザインされるべきものであると理解できました。青野社長をはじめ様々な職種の多くの方に出会えまして貴重な機会となりました。


Kさん(30代・webゲーム部門シニアマネージャー)

人生でなかなか得られない貴重な機会を提供いただきありがとうございました。まさかこのタイミングで青野さんとタイムリーに話せるとは思っていませんでした。

「選択的夫婦別姓を認める法改正の実現に、自社の利益になるわけでもないのになぜそこまでやるんですか?」という質問に対して、青野さんは「神輿を担がれたからね」と笑っていましたが、その後に「やっぱり理想の社会を実現したいという思いがある」と話されていたのが印象的でした。著書の中で「人は理想に向かって行動する」という行動原理が書かれていましたが、青野さんが「理想」として捉えている範囲は自分自身のことや社内のことだけではなく、もっとスケールが大きいものを描かれているんだと感じました。

私も大きな理想を作り、そこに向かって行動していきたいと思います。


Tさん(30代・経営企画)

青野社長と直に食事しながら仕事やそれ以外のことについて、率直にご意見や考えを交換できてとても有意義な時間を過ごすことができました。気さくに話をさせていただき嬉しいです。特に、モヤモヤはチャンス、イノベーションを起こすきっかけ。大きな変化を起こすことは難しいが、目の前の小さな課題を解決していくことにワクワクする。みんながハッピーになれる方法をどうやって模索していくかが大切だということを再認識しました。

『社長との懇親会』とは

メディアから注目される経営者の方に、ビジネスに関する疑問やプライベートの過ごし方まで、様々な質問を直接聞くことができる、少人数制の懇親会です。

サイボウズ社長 青野慶久氏 プロフィール

1971年生まれ。愛媛県今治市出身。
大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。2011年から事業のクラウド化を進め、2016年にクラウド事業の売上が全体の50%を超えるまで成長。総務省、厚労省、経産省、内閣府、内閣官房の働き方変革プロジェクトの外部アドバイザーや一般社団法人コンピュータソフトウェア協会の副会長を務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)がある。