2006年のサービス開始以来、拡大を続け、2018年4月には単行本換算で累計8億冊ダウンロードを突破した国内最大級のコミック配信サービス『まんが王国』。会員数は100万人を超え、運営する株式会社ビーグリーは2018年3月に東証一部上場を果たしている。

『まんが王国』の強みは、一般的な電子書籍事業と異なり出版社や作家などと直接ライセンス契約したり、ビューア開発や広告制作業務などを自社で行ったりしている点だ。そのため、ライセンサーと作成チームをつなぐ営業職は、配信する作品の出来を大きく左右する存在ともいえる。

そんなビーグリーの営業として、直近1億冊ダウンロードが過去最短の6ヵ月間で達成という記録に貢献したのが2016年入社の竹田裕美氏だ。教員志望から一転、自身が最も好きな分野へ飛び込み、仕事にしたともいえる竹田氏に、仕事への向き合い方や目指すビジネスパーソン像について伺った。

教職からエンタメ業界へ舵を切ったきっかけ

-広島大学在籍中に教員免許を取得されていますが、なぜ教師から一般企業へ就職されたのでしょうか?

竹田 裕美:
実は大学に入って初めてアルバイトをしたのですが、働くこと自体が楽しく、学生時代は複数の職場を掛け持ちするほどアルバイトに精を出していました。

すると、学校ではなく一般社会に出て働きたいという思いがどんどん強くなっていったのです。教員免許は取ったのですが、勉強を教えるだけでなく人間性の育成にも携わらなければならない教師の責任を、当時は重く感じてしまった面もありました。

せっかく一般企業へ就職すると決めたならば、好きな分野を仕事にしたいと思い、私にとってそれがアニメや漫画などのエンターテインメント業界でした。そんな時に本屋のアルバイトで出会ったのが、アニメのキャラクターグッズが当たるくじです。とても人気のある商品でしたし、私も好きなアイテムだったので興味を持ち、そのグッズを製作している企業を調べて製作に携わる東京の関連会社に入社しました。エンターテインメント業界は関東に集中しているので、社員も関東の学校出身者が多く、地方からわざわざ入社したことは会社からも珍しがられましたね。

大失態から立ち直れた先輩女性社員とのエピソード

-憧れのエンターテインメント業界に入社して、ご自身が思い描いていた仕事はできたのでしょうか?

竹田 裕美:
全くイメージと違いましたね(笑)。グループ内外の会社と工場をつなぐ製造取次業務の会社で営業に就きましたが、扱う商材自体が、本屋のアルバイトで見た物とは全然違い、初めて知るものばかりでした。「これは何だろう?」「こんなものがあるんだ!」と驚きながら、メーカーと工場の間に入りスケジュール調整などをしていました。


-入社後、思い出深い出来事はありましたか?

竹田 裕美:
入社2~3ヵ月の頃、取引先の上層部の方に、私が製品の素材について説明をしなくてはならないことがありました。専門知識が必要なのに、明らかに取引先の方のほうがよくご存じで、結果、多くのご指摘を受けてしまい大クレームになりました。

しかし、その時にサポートしてくれた女性の先輩がとても素敵だったんです。相手をフォローするのはもちろんのこと、私のフォローも欠かさない。失態があると自社メンバーを下げる形で謝罪することも多いと思いますが、私の信頼度が上がるように対応してくださって、とてもありがたかったです。だから仕事を続けられたとさえ思います。

「自分だけでなく周りが動けるように仕事をしなくてはいけない」と、自分の働き方のスタイルが変化するきっかけにもなりました。

ビーグリー転職の経緯

-4年在籍された後、御社に転職されました。どのようなきっかけがあったのでしょうか?

竹田 裕美:
前職の職場は皆すごくいい方たちばかりで、社会人として教えていただくことも多かったので、自分もチームに貢献したいと思いながら働いていました。ただ、同じことの専門性を深めていく仕事でしたので、もっとマルチに動ける仕事がしたいという思いもあったのです。居心地はよかったのですが、その分ここで動かなくては今後きっと出られなくなると思い、4年目に転職を決断しました。

ビーグリーに入社したのは、元々漫画が好きで、出版業界に興味があったからです。業界には出版社から編集プロダクション、書店などさまざまありますが、前職では取次業務だったので、今度は自社商品を持つ会社に入って、自分の会社の商品を売る経験をしたいと思っていたところ、転職エージェントの方にビーグリーを紹介いただきました。


-マザーズ上場前の2016年にご入社されたとのことですが、吉田社長の印象はいかがでしたか?

竹田 裕美:
面接時の第一印象はとにかく「若い」でした。前職の社長は60歳に近い方でしたが、社長の吉田は40代と比較的若かったのでとてもギャップがありました。喋り方もゆったりとしていて、同席していた部長のほうが役員らしくみえたほどです。しかし、垣根を作らずに人と接しようとする雰囲気に私はとても好印象を持ちまして、入社を決めました。今もこの印象は変わりませんね。

不安が自信に変わった担当作家の一言

-ビーグリー様に入社されて、やりがいを感じたことや、苦労したことはございましたか?

竹田 裕美:
やりがいを感じるのは、自分の担当する出版社や作品の売上げが上がったときはもちろんですが、出版社の方や作家の先生とお話していてよい関係を構築でき始めたなと思えた時です。しっかり自分の仕事ができていると実感します。

入社直後からすぐに現場に入り、作家先生や出版社とのコミュニケーションにも悩む前に動く形で突き進んでいたのですが、大変だったのは入社半年ほどで先輩の退職や産休が重なり、近い立場で頼れる人がいなくなってしまった時ですね。それでも実務メンバーが私だけの中、営業の上司や事務の方、他の社内メンバーが助けてくれたので、苦しかった時期でしたが良いメンバーがたくさんいる会社だと知ることができました。


-印象に残っている出来事などがありましたらお教えください。

竹田 裕美:
当時担当していた作家の先生からいただいた言葉が、今でもとても印象に残っています。オリジナルの漫画を作るというプロジェクトが立ち上がった時のことですが、社内でも久しぶりのことで周囲に経験がある人が誰もいません。私も編集の知識がなかったので、ずっと不安を抱えたまま社内の制作メンバーや作家先生とやり取りを重ねていたのです。先生には私は営業だとお伝えしていたのですが、連載が決まって配信が開始され、と進んでいくと、先生が「ちゃんと編集としてやれているよ」と言ってくださいました。

それまで私は出版業界に身を置きつつ、自分には編集担当者になる力は備わっていないと思っていました。また、弊社のやり方は一般的な出版社と違い、先生との一対一で作品作りをするのではなく、先生とチームで作成します。まだ紙の漫画を正統派と考える方も多い中、電子コンテンツの作成はやり方を模索しながらの作業でしたので、プロである先生に認めてもらえたことは非常にうれしかったです。自分は編集としての立ち位置もできるという自覚が芽生え、自信にもつながりました。

周囲全てに気を配りながら仕事ができる人間になるために

-自信を持たれたことがさらなる躍進につながったのだと思いますが、仕事をする上でこだわっていることはございますか?

竹田 裕美:
自分だけで完結する仕事ではないので、自分の仕事だけを終わらせるのではなく他の人の動きを見て、自分ができる部分は手伝ったり、声をかけたりしています。営業としては顧客と話して許諾や契約をもらいますが、配信して売るためには会社のメンバーがデータを作ったりサイトの準備をしたりしなくてはなりません。チームで動いていることは、常に意識していますね。


-30代を目前にして、今後はどのようなキャリアを目指していらっしゃいますか?

竹田 裕美:
その時々の仕事を大切にしながら、ずっと実務に携わっていたいと思いますが、目指したい人物像は、社会人となってすぐに私の失態をカバーしてくださった先輩のような方と決まっています。周囲全てに気を配りながら仕事ができる人間になりたいです。ビーグリーは、今はまだ社員数も少なく、ワンフロアで作業しているので顔と名前が一致しやすく話もしやすい環境です。自分も聞いたり聞かれたりがしやすい雰囲気を作って、全体の動きを意識しながら仕事を進めたいですね。

私は営業でスタートしましたが、結果的に自分がやりたかった漫画の世界で仕事をし、当初は全く思い描いていなかった編集側の仕事にも携わることができています。これはビーグリーへ入社したからこそ実現できたキャリアなので、これからも事業全体を俯瞰して見つつ、チームに貢献していきたいですね。

編集後記

好きな分野への就職を目指しながら、当初の営業では予想外の商材を扱っていたという竹田氏。それでも周囲からの教えを吸収し成長していたからこそ、ビーグリー転職後もすぐに活躍できたのではないだろうか。自身とチームの成長を常に考え、マルチに動く姿勢を持ち続けてきたために、自身では気が付かなかった創造性を発揮する機会も得られたのだと感じた。

竹田 裕美(たけだ・ひろみ)/1990年生まれ、愛媛県出身。広島大学卒業後、新卒でバンダイナムコグループ関連会社に入社し、キャラクターグッズやカードゲームの印刷・製造の営業に従事。2016年12月、株式会社ビーグリーに入社し営業企画部に配属。
座右の銘は「適度に適当」。趣味は漫画を読むこと、姪と遊ぶこと。