自律的に考え、行動する組織づくりに必要な要素
―今現在、経営陣の皆さまが大切にされていることは何ですか?
中川 貴史:
組織的な側面からいうと、やはり一人ひとりが自律的に考えて動ける裁量の大きい組織にしていくことをすごく大事にしています。
当社は、「フラットである」と言っているのですが、いわゆる部署の壁や部長や課長という職を一切設けていません。同時に、経営情報から細かいデータまで、あらゆる情報をオンライン上で共有しています。なぜかというと、通常の組織であれば情報はトップに集まりますが、そうなると、トップダウンで意思決定せざるを得ないからです。
そうではなくて、一人ひとりが自律的に考え、大きな裁量とやりがいを持って働ける組織であるために、あらゆる情報の透明性を確保しています。
―サービス面についてはいかがですか?
中川 貴史:
最も大切にしているのは、究極的には我々が何のために存在しているか。それは、日本の医療の課題を解き、より良くするためです。ですから、顧客からの要望をただ飲み込んで、売り上げを上げようという考えではありません。
最終的に、プロダクトが日本の医療に貢献できるかどうかを突き詰めて考えています。面白いケースですと、薬局の方から「こういう機能をつけてほしい」と言われて、ヒアリングを重ねた結果、「その仕事はあなたの仕事ではないから、この機能はつけません」と言う返答をすることすらある。その機能をつけることによって、薬剤師さんが本質的な業務ではない作業に時間をとられてしまう。そういうものを促進するプロダクトであってはならないのです。
採用のポイントは“モチベーションの源泉”
―採用の際に重要視しているポイントは何ですか?
中川 貴史:
一番重視しているのは、その人のモチベーションの源泉がどこにあるかということです。目の前のお金が欲しいとか、出世をしたいとか、自己実現的なモチベーションが強い方なのか、または社会貢献できることに喜びを感じる方なのか。
例えば「過去にあった一番嬉しかった経験は何ですか」と聞いて、そこを深掘りすることで、モチベーションの源泉を探ります。KAKEHASHIは、社会に貢献するというところに強いミッションを置いている組織でもありますし、自律的で自由度の高い組織なので、その人自身のモチベーションが個人主義的なものに寄りすぎている場合には、組織に合わないことが多いのです。
―御社で活躍できる人材はどんなバックグラウンドを持った方だと思われますか?
中川 貴史:
100名近い規模の組織になると、数字を集めてそれを構造化した上で、きちんとコントロールしながらかじ取りをしていくことが必要になってきます。そうすると、私のバックグラウンドに近いようなコンサルティングのバックグラウンドを持っていて、構造化能力が強く、しっかりとファクトをベースに進められる方々は、非常に活躍しやすい土台になってくるのではないかと思います。
事業のフェーズが進んでくると、より精緻に構造化しながらロジックを組み立てていくことができるような、情報の整理能力が強い人の方が活躍できるフェーズに入ってきます。当社も徐々にそういうフェーズになりつつあると感じますので、まさに今必要とされているところだと思います。
「KAKEHASHIの働き方が未来の働き方」だといわれるようにしていきたい
―御社では女性も多く活躍されていますが、仕事と家庭の両立について、どのようにお考えでしょうか?
中川 貴史:
仕事をすることの価値観は時代とともに変化してきているように思います。少し前の日本では、“企業のアイデンティティー=自分のアイデンティティー”であり、一生そこに奉仕するという考えの中で、家庭よりも仕事を大切にするパターンが多かったかもしれません。
しかし、本来、個人の価値観や仕事に求めるものは、自分の中で選び取っていくものだと思います。企業のアイデンティティーを自分に寄せるのではなく、自分のアイデンティティーがある中で働く。家でもカフェでも、好きな場所で、趣味や家庭、自分の大切にしているものと両立させながら仕事をしても良いわけですし、何なら1つの企業に縛られる必要もありません。「私は株式会社××の人ですよ」というよりも、「私はこういうもので、たまたまそこで働いている」という価値観へと、今は変わりつつあります。働くことへの価値観が変わっている中で、企業文化が変わらないまま、つまり、自由な働き方で家庭と仕事が両立できる環境でないと、本当の意味で女性が活躍する場はつくれないと思っています。
そういう意味で、当社は働き方の自由度の高さと裁量の大きさを担保することで、趣味でも家庭でも、自己研鑽でも、その人が大切にしているものと両立できる環境をつくっています。「KAKEHASHIの働き方が未来の働き方」だといわれるようにしていきたいですね。
『Musubi』のその先に見える世界観の実現に向けて
―今後の御社の目指す方向性についてお教えください。
中川 貴史:
薬剤師さんたちがより活躍できる場をつくるというミッションのもとに生まれた『Musubi』ですが、それは第一歩であり、その先に見える世界観をどう実現できるかがKAKEHASHIにとってのビジョンです。例えば、ある病院でレントゲンを撮って、診断をして、別の病院を紹介されたとします。すると、紹介先の病院でもまたレントゲンを取り直すことがありますよね。病院で症状を伝えて薬を処方してもらっても、また薬局で同じ質問をされる。これは、医療機関同士で患者さんの情報が適切に連携されていないが故に起きる現象です。アナログな情報連携のせいで、紙ベースの書類が量産されて、医療従事者の時間が浪費されている現状がある。そこを解決するのが、『Musubi』の先の世界です。
もう一つは、『Musubi』を通して得た医療情報をどう扱うか。蓄積されたデータを製薬会社に売ったら利益になると考える企業もあるかもしれない。しかし、我々はそういうことはしたくありません。このデータを大学や医療機関と連携し、それを色々な分析をして論文化し、医学的に新しい発見につなげていきたい。全国何百万人というリアルなデータからは、治験のときには気づかなかったような副作用の出方や、効果の違いなど、医学の進歩に貢献できる情報を得られるかもしれません。クラウドで医療情報を扱う企業の“はしり”として、大切な患者さんから預かったデータをどう扱うかという意味でも、ロールモデルになり、医療の進歩につなげていきたいと思っています。
編集後記
目先の利益よりも、いかに社会に貢献できるか。中川氏の発言の全てがこの土台の上に成り立っていた。経営陣のベクトルが一切ぶれないことで、社員もまた同じ方向を向くことができる。自由度の高い社風にもかかわらず、全員が明確なビジョンを共有できることが、同社の強みであると感じた。
中川 貴史(なかがわ・たかし)/1987年8月28日生まれ。東京大学法学部卒。マッキンゼー・アンド・カンパニーにて製造・ハイテク産業分野の調達・製造・開発の最適化、企業買収・買収後統合マネジメントを専門として全社変革プロジェクトに携わる。インド・米国・イギリスでのプロジェクトに携わった後、2015年10月マッキンゼーシカゴオフィスより帰国し、2016年3月、株式会社カケハシを創業。同社取締役COOに就任する。