※本ページ内の情報は2023年10月時点のものです。

2020年初めから続くコロナ禍で外食産業は苦しい状況に置かれていたが、ようやく飲食店にも日常が戻ってきている。

飲食店のより一層の成長が期待されるなか、飲食業界の発展に情熱をかけているのが株式会社名畑だ。酒や食品、消耗品の業務用仕入れのほか、飲食店向けの物件紹介や接客指導など、飲食店を総合的にサポートする事業を展開している。

一体どのようにして名畑は関西の飲食業界を牽引するリーダー企業になったのか、代表取締役社長の名畑豊氏に、会社立て直しのために実施した組織改革や社員育成、今後の展望などを聞いた。

名畑を受け継ぐために入社したサントリーでの修業時代

ーー大学ご卒業後はサントリーで勤務されていたと伺いました。

名畑豊:
父が経営する名畑を継ぐための修業として、大学を卒業してからサントリーに入社しました。サントリーで5年半修業して、その後会社を継いだという流れです。

サントリーでの仕事は本当に楽しくて、辞めたくないと思うほどでした。最後に所属した業態開発部という部署では飲食店の中身をすべて知ることができて、外食産業への興味が深まり、もっとここで仕事を続けたいと思うようになりました。

サントリーでは自由に仕事にチャレンジをさせてもらい、社員たちが切磋琢磨する社風だったので、自分に合っていたように感じます。そんなプロ意識の高い社員が集まるサントリーから名畑へ来て、社風のギャップに驚きましたね。

名畑では従業員同士の仲がギスギスしていたり、真面目に仕事に取り組んでいない人がいたり、管理が杜撰で数字の実態が分からなかったりといった状況でした。

ですので、まずは名畑を普通の会社にする必要があるなと改革を始めました。

17年にわたる「大改革」で非効率な業務を徹底排除

ーー改革とは、具体的にどのようなことから実行されたのでしょうか。

名畑豊:
専務として1990年に入社して、社長に就任する2007年までの17年間で、とにかく改革を進めました。最初に大きく取り組んだのが、システムの改革です。

当時は会社にコンピューター室があって、専用のPCに触れられるのは入力者と管理者だけでした。ほかの人は全員手書きで伝票を書いていて、配送担当者もその手書きの伝票を見て手書きでまた書くという状態でした。

すべてが手作業であまりにも時間がかかっていたので、それを誰もが自分でコンピューター入力できるようにしました。

ーー手書きからコンピューターにシステムが変わったことで効率化された一方、社員側から不満もあったのではないでしょうか。

名畑豊:
そうですね。トップダウンで指示をすると社員も抵抗感を覚えると思ったので、まずは社員たちに「この点を変えたいのだけど、みんなはどう思う?」と意見を聞くように配慮しました。

意見を聞くと、もちろん反対意見も出てきます。反対意見が出てきた際は、じっくりと時間をかけて話し合うようにしました。私が考えた案を無理やり通しているのではなく、みんなで考えた案が採用されているのだと感じてもらうことが納得感につながると思ったのです。

あとは1つの工夫として、飲食店のお客様が何をしたら喜ぶのかを社員にも共有しました。サントリー時代の経験から、飲食店の経営者のなかには感覚や勘で経営している方が多いことは分かっていたので、それとなく「ここを変えたらもっと良くなりますよ」と教えると喜んでくれるのです。

このことを社員にも教えて、実際に取り入れてもらいました。そうすると社員たちが飲食店から感謝されることが増え、それで仕事の楽しさを感じてもらえるようになり、結果としてモチベーションの向上にもつながりました。このような意識改革も並行して行いました。

飲食店が失敗しないために必要なのは「学びの場」

ーー名畑社長の「飲食店に喜んでもらう」という価値観が、名畑が行っている外食総合サポート提案会「食王」などのイベントにもつながるのですね。食王の活動について詳しく教えていただけますか。

名畑豊:
たとえば普段、ビールメーカーが飲食店を一軒一軒回って、自社の商品を紹介するのはかなり時間もかかりますしなかなか難しいですよね。もし、メーカーが自分の商品を紹介して、飲食店が自由に商品を選べる場をつくることができれば、それは流通業として価値のある活動だなと感じたのです。それで、食王という提案会の開催を始めました。

2024年の開催で20回目を迎えますが、食王を楽しみにしてくれている方や、食王がきっかけで取引が始まる方もいて、このイベントがお客様の役に立てていることを実感しています。

――名畑ではアカデミーの開催なども考えていると伺いましたが、今後の構想について教えていただけますか。

名畑豊:
飲食店向けのアカデミーを始めたい理由としては、多くの飲食店に失敗してもらいたくないという気持ちが原点にあります。飲食店はしっかりと勉強して経営に臨めば失敗しませんが、しっかりと勉強できるところは実際かなり少ないです。

私はサントリー時代に飲食店へ接客の仕方や心構え、店舗運営を教える業務をしていて、実際に飲食店の方々から「勉強になった」や「店舗運営が上手くいった」と喜んでもらえました。そのときの経験から、やはり飲食店にはバーテンダーや料理、接客などを総合的に学べる場が必要なのだなと感じています。

何年後になるかは分かりませんが、飲食店として成功するための方法を学べるプログラムを提供したいと考えています。

飲食業界で真っ先に思い浮かぶ企業を目指して

ーーどのような会社を目指しているのかお聞かせください。

名畑豊:
何かあったとき、真っ先に思い浮かんでもらえるような会社を目指しています。そういった会社になるためには多くの武器を持って、付加価値を提案できるようになることが大切だと思っています。

たとえば弊社ではシャワーヘッドのミラブルを販売する会社とともに、食器やシンクを洗うヘッド『ミラブル プロダイナー』を販売しています。この商品は汚れが簡単に落ちるので節水効果や使用洗剤量の削減によってSDGsに貢献でき、手荒れが防げることでスタッフにも喜ばれています。また、配管の詰まりも防げたり、グリストラップの臭いも抑えたりできると非常に好評です。

「業務用酒販店って、ただ商品を卸すだけでなくほかにも実はこういうことができるんだよ」ということを世間に知ってもらうことが大切ですし、そのために他社と一緒に何かを始めるのも良いなと思っています。

編集後記

飲食店を成功に導くサポートを通して、外食産業を盛り上げていきたいと話す名畑豊氏。取材中は「最終的にはNSC(吉本総合芸能学院)のような学校をつくって、飲食店が失敗しないための学びの場をつくるのが夢」と語った。

他社と協力しながら面白い事業を次々と打ち出していく株式会社名畑がどのように進化するのか、今後の新たな挑戦に注目したい。

名畑豊(なばた・ゆたか)/1962年、大阪府出身。大阪大学卒業後、サントリーに入社。2007年9月代表取締役社長に就任。