※本ページ内の情報は2024年5月時点のものです。

電気設備資材の卸業界は、建設需要や企業の設備投資の動向に大きな影響を受けるため、絶えず市場を先読みしつつ、堅実かつ大胆な取り組みが求められる。近年では新型コロナウイルス感染拡大による停滞に悩まされたが、ようやく脱して市場は活況を取り戻しつつある。

1927年創業という歴史を持ち、電材商社として幅広い事業を展開する株式会社日本電商。同社の代表取締役社長の山中一晃氏に、大手電気機器メーカーでの経験、経営者に転身した経緯、自身のキャリアを活かした社内改革についてうかがった。

経営者になるまでの経験と葛藤

ーー松下電工株式会社(現・パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社)での新人時代のエピソードを教えてください。

山中一晃:
入社後、営業部門に配属され、半年間の研修を受けました。なかでも印象に残っているのは、1泊2日の自衛隊研修です。行進訓練に始まり、食事体験や講義の受講、そして就寝時に体育館で雑魚寝をする際には自衛隊流の布団の敷き方を厳しく指導されました。就寝後も1人ずつ交代で見回りをしなければいけませんでした。

当時の自衛隊研修は今の時代にはそぐわないと思いますが、組織の一員としての自覚とチームワークが身についたと感じています。

その後配属された宮崎の営業所では、お客様と仲良くなり、プライベートでも一緒に遊んだり飲みに行ったりしていました。そのような関係性を築くことで、仕事にもプラスになった上、一生ものの友人に出会うことができました。

ーーどのような経緯で日本電商に転職したのでしょうか。

山中一晃:
宮崎営業所からの転勤で、福岡営業所に7年間、北九州営業所に3年間在籍しました。販売課長を務めていたとき、株式会社日本電商の当時の社長(現会長)である寺脇康祐から「社長として日本電商に来ないか」と誘われました。そのとき「このままパナソニックでサラリーマンとして過ごすのか、経営者の道を歩むのか」ということで非常に悩みました。

「自分は経営者として、社員や家族の生活を背負うことができるのか」ということを自問自答し、半年ほど経っても結論が出ませんでした。そこで、当時の上司に相談したところ「お前ならできる」と背中を押されて日本電商への転職を決めました。

サラリーマン時代の経験を活かした社内改革

ーー社長に就任してからこれまで4年間の取り組みをお聞かせください。

山中一晃:
社長就任前、「これから何をしていくか」ということを寺脇と相談したところ、「SDGsの精神が経営理念と合致している」とアドバイスをもらいました。当時、私はSDGsの意味もよく理解していない状態でしたが、社長就任までの1年間でプロジェクトを組んで会社の方向性を決めました。

しかし、社長就任早々、新型コロナウイルスの感染拡大により計画が思い通りにいかず、改めて「内部改革が必要ではないか」と考え始めました。私は日本電商に来てから、疑問に思ったことや、パナソニックとのギャップをノートに書き留めていました。「日本電商の環境に慣れて当たり前になってしまうと変えることができなくなる」と思ったからです。ノートに書いていたIT化や体制変更、社員教育を実行したことで、生産性が格段に向上しました。

ーー具体的にどのような社内改革を行いましたか?

山中一晃:
以前は紙の書類が多く、作業効率が悪いのはIT化できていないことが原因だと感じ、ワークフローシステムを導入しました。また、リモートで仕事ができる体制を整えました。私自身、19年間サラリーマンだったので、社員目線で「自分だったらこうしてほしい」と思うことを社長として実践していきました。

「社長支持率アンケート」で社員の意見を取り入れる全員経営

ーー貴社の強みを教えてください。

山中一晃:
弊社の業務について簡単に説明すると、インフラに伴う電気設備の材料をメーカーから購入し、電気工事店などのユーザーに届けています。弊社の利点は、直接取引のメーカーが多いことです。

また、電気工事店だけでなく、誘導灯や非常灯、自動火災報知設備などの取り付けを行う防災設備工事業者への販売を行っていることも弊社の強みです。ハウジング営業部では全国の住宅建設業者とも直接取引をしています。

ーー貴社のホームページにある「社長支持率アンケート」についてお聞かせください。

山中一晃:
前社長が始めた取り組みで「社員が満足しているか」「働きやすい会社かどうか」を測るバロメーターになっています。弊社は「パートナーシャフト経営(経営者と従業員の相互信頼に基づく経営)」を企業理念に掲げ、「全員経営」を根幹としています。

「社長支持率アンケート」では社員からさまざまなコメントが寄せられるため、一人ひとりの意見を吸い上げる良い機会だと感じています。社員から挙がった意見を実際に取り入れたのが、女性活躍推進プロジェクトや若手活躍推進プロジェクトです。産休や育休の取得だけでなく、男女共に子育てをしながら働ける環境づくりや、若手社員が言いたいことを言える環境づくりを推進しています。

ーー貴社の課題と、解決に向けた取り組みはありますか。

山中一晃:
体制強化のために毎年新規の営業所を開設する中で、マネジメント人材の不足が課題でした。そこで、昨年から新たな職種をつくり、各営業所の管理職を2名に増やしました。マネジメント職を経験することで、ヒューマンスキルやコンセプチュアルスキル(物事の本質をとらえ、個人や企業の可能性を最大化できる能力)が身につき、人材育成にもつながります。また、弊社では老若男女関係なく役職を与えており、実際に20代で課長を務めている社員もいます。

万博目前の大阪でさらなる拡大を目指す

ーー今注力している新たな事業は何ですか。

山中一晃:
一般企業向けのECサイトである「防災機器.com」を5月にプレリリースします。この業界は電話やファックスでの注文が主流ですが、パソコンやスマートフォンで簡単に発注できるシステムを構築することで、お客様や受注側の手間を省き、生産性を上げたいと考えています。また、新たに建設している防災営業部専用の物流倉庫に在庫を拡充し、ワンストップで商品を届けます。

ーー今後の展望をお聞かせください。

山中一晃:
現在、万博の開催やIR(統合型リゾート)の開業を控え、活気にあふれた大阪で商売をするにあたって、弊社も成長していかなければならないと感じています。現在掲げている「大きな会社より素敵な会社」からさらに「大きな会社で素敵な会社」を目指します。具体的には、2030年までに、年商500億円を目標としています。

編集後記

真摯に社員への理解と支援を深めることで、従業員一人ひとりがその能力を最大限に発揮できるように努める山中社長。お客様一人ひとりにメリットになるサービスを提供し、会社全体が一丸となって目指す全国展開の夢に向けて、山中社長のもと、株式会社日本電商は確実にステップを進めていると感じる。彼のリーダーシップのもと、今後のさらなる発展が非常に楽しみであるとともに、この勢いを持続させ、業界をリードしていく姿にぜひ注目していきたい。

山中一晃/1974年兵庫県生まれ。山口大学を卒業後、松下電工株式会社(現・パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社)に入社し、営業マンとして19年間勤めた後、2016年に株式会社日本電商へ入社。2020年に代表取締役社長に就任。