※本ページ内の情報は2023年10月時点のものです。

国は少子高齢化による医療費の増加に伴い薬価の引き下げを強化しており、製薬業界は収益を上げにくい状況が続いている。

そんな中、研究開発受託会社として医薬・バイオ・機能性材料分野で研究・開発・量産をしているのが、神戸天然物化学株式会社だ。今年6月に代表取締役社長に就任した真岡宅哉氏は、大学院を卒業後、臨床検査会社での研究開発 に3年間従事し、そこから全くの異業種である父親の塗装業を3年間手伝っている。

その後に中途社員として入社した同社で経営者になったという異色の経歴を持つ。「科学に携わる仕事ができて幸せだ」と、学生の頃から変わらず科学への情熱を注ぎ続ける社長の思いを聞いた。

神戸天然物化学に入社するまでの経緯

――新卒で三菱油化ビーシーエル(現:LSIメディエンス)に入社後、塗装業に転職されたきっかけは何だったのでしょうか。

真岡宅哉:
大学の研究室では、微生物培養で得られた生理活性物質の研究をしており、新卒で入った会社では臨床検査の研究開発に携わっていました。仕事はやりがいもあり楽しかったですし、会社が嫌で辞めたわけではないんです。

ただ、自営業で塗装の仕事をしていた父親の姿を見て、私なら違うやり方で父に仕事で貢献できるのでは思い、会社を辞めて3年ほど一緒に働きました。それが結果として親孝行になったかどうかわかりませんし、昨年亡くなった父としては嬉しい反面せっかく大学院まで行かせたのにと思っていたかもしれませんね。

――そこから今の会社に移られたのはどういった経緯があったのでしょうか。

真岡宅哉:
家業が順調だった時期もあったのですが、いい時期は長く続かず、次第にうまくいかなくなっていきました。

そんなときに、たまたま塗装現場の近くにあったハローワークに立ち寄ったところ、神戸天然物化学の研究員の求人広告を見かけたんです。その求人を見て面白そうな会社だなと、30歳は超えておりましたが自分にも何かできることがあるかもしれないと思い、応募したのが入社のきっかけです。

入社してから経営者になるまでの経緯

――神戸天然物化学に入社されてから経営者になられるまでの経緯についてお聞かせいただけ ますでしょうか。

真岡宅哉:
市川研究所にケミストとして入社して数か月がしたあるとき、当時代表取締役社長だった広瀬から、新規に立ち上げる出雲工場の開設と同時に品質保証部を立ち上げ、出雲工場と連携する市川研究所の品質管理課長を任せたいという話を受けました。

はじめは品質管理についての知識もないし、入社後数か月で課長の大役は務まらないと断ったのですが、「自分が思うより周りの目の方が確かなんだからやってみなさい」と言われ、不安もありましたが承諾しました。

その翌年には、神戸の本社にある総務部と人事部を兼ねた業務部への異動を命じられ、その後は企画開発部や営業部を転々とし、有機合成の受託会社の買収、アメリカ・サンディエゴの子会社や中国との合弁会社の立ち上げにも携わりました。

どの異動も次長、部長、本部長への昇格も毎回驚いたのですが、2018年6月の株主総会で取締役に任命されたときは、まさか自分がと思いました。広瀬には取締役なんて荷が重すぎますと言ったのですが、「今まで何とか全部できてきたじゃないか」 と言われ、結局引き受けることになりました。

今年の3月に現会長の宮内に「次、社長頼むわ」と言われたときも、まさに青天の霹靂でしたが、これまでの経験で免疫ができていたこともあり、その場ですんなり承諾していましたね。

――代表の職を引き継いだときの心境についてお聞かせください。

真岡宅哉:
私はハローワークを通して中途で入社した人間で、創業メンバーである広瀬や宮内のようなカリスマ性は持ち合わせていません。それに彼らからは「君らしくやってくれたらいいよ。もちろん同じようなタイプの社長になれるはずもないし、それを望んでいるわけでもないから」と言われています。もちろん会社を引っ張る立場として重責やプレッシャーもありますし、万が一何か問題が起きてしまったら、と不安です。

しかし、引き受けた以上はこの責務を全うしなければと思っています。また、弊社の経営理念として書かれた「私たちの目標」の第一条には、「技術立社」を目指すと書いてあるんですね。技術立社として、弊社の技術者や研究者は、お客様からの依頼を受けてお客様とともに必死に開発してきた製品を、世の中に出していきたいという思いを強く持っています。

それと、第三条には「革新と挑戦」という言葉があります。

広瀬と宮内が立ち上げた会社を私が継続し、さらに発展させていきたいと思っています。弊社が発展することによって新たな医薬品を次々と患者さんの元にお届けし、お客様のエレクトロニクス関連の材料製造に当社の受託サービスを使っていただくことで、世の中のお役に立てればと思っております。

神戸天然物化学の「強み」とは

――貴社の強みについてお聞かせください。

真岡宅哉:
大手化学会社や製薬メーカーには「モノづくり」において開発難易度や品質といった部分で長年の実績を評価いただき良好な関係性を築けている点に加えて、大学教授やスタートアップ企業の方などとも研究の初期の段階から関わり、日頃から密な関係を築いていることで、弊社に信頼を寄せていただけていると感じています。

また、有機合成と遺伝子組み換え微生物を利用する等のバイオ技術の両方ができる会社は珍しく、お客様からも重宝がられることが弊社の強みです。さらに、弊社は製薬、化学、バイオなど数多くの分野に携わっているため、「神戸天然物化学に任せればすべてやってもらえる」といったお言葉もいただきます。

科学を愛する社長の思い

――これから注力していきたいことについてお聞かせください。

真岡宅哉:
やりがいを持って働ける職場環境をつくろうと思っています。私自身、学生時代に学んだ科学が仕事となり、お給料をもらって生活できることに幸せを感じてきました。そのため社員のみなさんには「とにかく科学を楽しむ会社にしましょう」と言っています。仕事をもっと楽しめるようになれば、会社を継続させるために安全や品質を守ることの大切さや、健康を第一に考えて行動する重要性がおのずとわかるのではないでしょうか。

私は、有機合成やバイオの研究や製造だけではなく、営業や人事も経営企画の仕事もある意味で科学だと思っています。

試行錯誤しながら、自分で考えて仕事をすることも科学です。私はどの部署の誰に対しても「あなたの仕事は科学なんですよ。科学を楽しんでください。」と伝えています。

編集後記

研究開発の仕事を辞めて塗装業に転職した後、ハローワークを通じて入社した会社で経営者になるといった異色の経歴を持つ真岡社長。昇格を伝えられ、荷が重いと断ろうとしたエピソード や、自分にはカリスマ性はないと話す姿から、謙虚な人柄が垣間見える。科学技術によって社会の発展に貢献し続ける神戸天然物化学株式会社のこれからに注目だ。


真岡宅哉(まおか・たくや)/1968年生まれ。1994年岡山大学大学院修了後、株式会社三菱油化ビーシーエル(現:株式会社LSIメディエンス)に入社。1998年姫路塗装に入社。2000年神戸天然物化学株式会社に入社、執行役員営業本部長などを歴任し、2023年6月代表取締役社長に就任