※本ページ内の情報は2023年11月時点のものです。

ゲームソフトの国内市場は減少傾向にあるものの、海外の販売数は年々増加している。

そんな中、ゲームの世界観やゲームルールに合わせて翻訳するローカライズ事業を展開しているのが、株式会社アクティブゲーミングメディアだ。

故郷のスペインから日本へ移住し、同社を起業した代表取締役のビーニヤス・アメストイ・イバイ氏の思いについて伺った。

日本へ移住するきっかけになった日本作品

――日本文化に興味を持たれたきっかけは何だったのでしょうか。

ビーニヤス・アメストイ・イバイ:
北野武さんが監督をされた映画「HANA-BI」を見たのが大きなきっかけでした。

スペインでも人気のあるテレビ番組「風雲!たけし城」をよく見ていたのですが、彼が作った作品を初めて見たときにとても感動しました。

それから日本の映像作品を見るようになり、日本は漫画やアニメ以外にも素晴らしいコンテンツがあるのだと気付きました。

――それから実際に日本に来られるまでどのような経緯があったのでしょうか。

ビーニヤス・アメストイ・イバイ:
大学入学後、休学し警察官となりました。日本に移住するタイミングで警察官と大学をやめて日本へ来たのですが、21歳くらいのときにこのままでいいのかと漠然とした不安を抱えていました。

そこで、せっかくなら全く知らない国に行ってみようと思い立ち、あえて周りの人たちが誰も行っていない日本に行こうと決めました。

言葉の違いはありましたが、私がバスク語とスペイン語のバイリンガルということもあり、新しい言語を覚えるのはそんなに難しくはないと思っていました。

それから1ヶ月の休暇を利用し、サンセバスティアン市の姉妹都市である丸亀市に滞在したのですが、そこですっかり日本の魅力にはまってしまい、移住しようと決めました。

その後、東京へと住居を移して始めたのが、アパートの家賃を滞納している外国人を相手に大家さんに変わって交渉をする仕事でした。

スペイン語で通訳をし、警察官時代に培った交渉力も活かして生活できるくらいの収入は得ることができました。

日本で会社を起業した理由

――ご自身の会社を起業しようと思われたきっかけについて教えていただけますか。

ビーニヤス・アメストイ・イバイ:
私がゲーム会社で働いていたときに、日本で作られたゲームやアニメの海外版での翻訳の質が低いなと感じていたんです。

映画などではスペイン語の字幕も吹き替えもネイティブと変わらないレベルなのに、ゲームやアニメだと一気に質が落ちるなと。

クリエイターがクオリティの高いコンテンツを出しているのに、翻訳の質が低いと作品自体の価値が下がってしまうと憤りを感じていました。

これはゲームやアニメが配信形式になったことで、大手のゲーム会社やテレビ局に限らず、誰もがコンテンツを提供できるようになったからだと考えています。
クオリティチェックの基準レベルが徐々に低くなっているように感じます。

こうした状況を改善するため自分で会社を起こし、ローカライズサービスを提供しようと思いつきました。

――海外から移住されてきた方が日本で会社を立ち上げるのはハードルが高かったのではないでしょうか。

ビーニヤス・アメストイ・イバイ:
あまり大変だとは思いませんでしたね。

2006年に「新社会法」が施行されたことで、1円から株式会社を設立できるようになったタイミングでしたし、日本では起業するまでに必要な手続きを行政側が手厚くサポートしてくれます。

そのため、むしろ他の国で会社を立ち上げるよりも簡単ではないかと思います。
例えば、アメリカであれば立ち上げられていなかったかもしれないし、母国であるスペインでも同様にかなり苦戦していたと考えています。

アクティブゲーミングメディアの今後について

――今後どのようなことに注力していきたいとお考えでしょうか。

ビーニヤス・アメストイ・イバイ:
今一番力を入れているのは人材採用ですね。

弊社では大手企業だけでなく、少人数でゲーム開発をされている、いわゆるインディーズといわれる方々とも取引をしています。

そうしたインディーズの方々は資金が限られていることもあり、絶対に失敗できないという思いでひとつのゲームの開発に向き合われています。

そのため、我々としても常にパーフェクトなものを提供しようという高い志を持って働いてくれる人を集めていかなければと思っています。

さらに、ゲームを翻訳するにあたってそれぞれの国に精通した外国人が必要なわけですが、日本に長く住んでいると自国で何が起きているのか、何がタブー視されているのかをよく知らないという方も多いのです。

日本に住んでいる外国人の方で、なおかつ母国の文化的価値観の変化について把握している人材を探し出すのは骨の折れる作業です。

しかし、会社を成長させるには日本のゲーム文化を完璧な形で海外に伝えられる人を採用することが不可欠なので、今後も粘り強く続けていこうと思っています。

それと同時に、今でも世界で最も売れているシューティングゲームなどのタイトルを扱っていますが、ゲーム業界で大手企業が出しているビッグタイトルのお仕事もたくさんさせていただき、信頼される実績を作っていくことも重要だと思っています。

というのも、ローカライズについては、販売先となる国の言語や文化、価値観に精通していないと、そのローカライズの質が高いか低いかの評価が困難です。

そのため、どれだけクオリティにこだわっていたとしても、それを正しく評価できる人が少ないという実態があると思います。だからこそ、サービスクオリティの高さの証明として、ビッグタイトルをたくさん手掛けているという実績が必要だと考えています。

また、現時点ではディズニーやピクサーといった有名なアニメプロダクションとは違い、ゲーム会社はまだ世間からあまり高く評価されていませんので、そのような状況も変えていきたいと思います。

実際に『ポケモンGO』が数々の世界ギネス記録を更新し、20日間で1億ドル(約100億円)の売上を叩き出したように、日本のゲーム会社は国内の経済を成長させる大きな起爆剤になると考えています。

弊社も日本のゲーム市場の発展の一翼となれるよう完璧なものを提供し続け、これから40年、50年と続く会社にしたいですね。

編集後記

「ゲーム自体のクオリティが高いからこそ海外版になったときの翻訳のクオリティの低さが許せなかった」と熱く語るイバイ・アメストイ氏。

ただ言語を翻訳するだけでなく、それぞれの国の背景や価値観も考慮し、違和感なくゲームを楽しんでほしいという彼の想いが伝わってきた。日本の経済をけん引するゲーム業界で質の高いコンテンツ作りに情熱を燃やす株式会社アクティブゲーミングメディアの今後に期待だ。

ビーニヤス・アメストイ・イバイ/2008年株式会社アクティブゲーミングメディアを設立。マルチプレイ、オンラインに対応したゲームや漫画、 アニメといったコンテンツの ローカライズのほか、インディーズゲームブランド『PLAYISM』、ゲームメディア『AUTOMATON』を運営。