※本ページ内の情報は2023年12月時点のものです。

音楽を聴くツールとして生み出されたイヤホンやヘッドホン。新型コロナウイルス感染拡大に伴う在宅時間の高まりにより、その役割は大きく発展した。テレワークやオンラインミーティング、ゲームや映画配信サービスなど、イヤホンを使用する機会が急増し、いまや私たちの生活に欠かせないツールとなっている。

株式会社タイムマシンは、イヤホン・ヘッドホンの専門店を展開する会社として2007年に創業した。創業者である大井代表の後を継ぎ、2代目として2023年に社長就任したのが岡田卓也氏だ。

岡田氏はアルバイトとして同社に入り、そのまま翌年社員に登用。執行役員、取締役、副社長を経て社長に就任した。TBSテレビ「マツコの知らない世界」に3回出演するなど、メディアへの露出も高く「イヤホン王子」の異名を持つ活躍ぶりで知られている。

同氏が社長になるまでの軌跡と、9月に開催された東京ゲームショウへの出展、今後の展望などをうかがった。

好きなことを仕事に。アルバイトを始めるきっかけ

ーー現在の会社でアルバイトをすることになった経緯を教えてください。

岡田卓也:
私が就活をしていた当時は就職氷河期で、仕事に就くのが厳しい時代でした。就職をせずに公認会計の資格取得を目指すことに決め、専門学校に通うべく大阪に引っ越しました。その大阪でアルバイト先として選んだことが入社のきっかけです。

会計士の勉強をする時に、当時としては珍しくイヤホンをして勉強していました。辛い勉強時間を、イヤホンで音楽を聴くという趣味があったから乗り越えることができました。結局、試験に合格する事はできず、仕事を探していたところ、自分を支えてくれた趣味であるイヤホンを取り扱うこの会社に出会い、アルバイトの応募に至りました。

ーー社長ご自身がアルバイトから社員になられていますが、もともと社員登用に積極的な社風だったのでしょうか?

岡田卓也:
基本的にはアルバイトを採用して、頑張っている人を社員にしていくという流れがメインでした。弊社の創業社長はもともとソフマップの出身で、「学歴=仕事ができる、という訳ではなく、アルバイトでも能力が高い人間は評価していきたい」という考えなので、私と同い年のメンバーは皆アルバイトから始まり、課長、部長、役員、経営層に上がっていきました。

PR業務で華々しい成果を収め、社長就任へ


ーーどのような過程で社長に就任されたのでしょうか?

岡田卓也:
社員になってすぐのタイミングで大阪の店長を任されました。弊社は東京での知名度はまだ低く、秋葉原店は売上低迷の時期がしばらく続きますが、オタク文化の勢いに押されてユーザーが急増したため、東京へ異動することになりました。

東京に来てからメディア対応が増え、私もプロモーション担当スタッフとして関わりました。TBSテレビ「マツコの知らない世界」から声がかかったことがターニングポイントとなり、その後PR1本で仕事をするようになりました。

PRの仕事の1つで、秋葉原の交差点にある大きなイベントスペースを使った自社イベント「ポタフェス」の責任者を務めました。毎年規模を広げ、今夏は4万9000人を集客し、日本のオーディオ業界の中で最大規模に成長したイベントを成功させました。

現在52歳になる創業社長が45歳のとき、「50歳で会社を譲る」と言い始め、私が後継者候補に挙がっていると知らされました。2015年に執行役員になってすぐ、経営者としてのいろはを叩き込まれ、人事や会計など各部署の勉強をさせてもらい、2023年に社長に就任しました。

ーーアルバイトとして入社されたときは、ご自身が将来的に社長になることは考えていましたか?

岡田卓也:
弊社は「経営者目線で仕事をする」という働き方に重きを置いており、どんな仕事も自分事に捉え、任された業務は良くも悪くも自分の自由にできる環境でした。

私も「いつか社長になってやろう」という野心はもともと持っており、周りのスタッフもそういった意識が強く、「予算を達成するのは当たり前で、どれくらいで達成できるだろう」と社員みんなで常に考えていました。

ーー短期間での昇格でしたが、ご自身のどの部分が周りよりも評価されたと思いますか?

岡田卓也:
小売業にとって最も重要なのは売上を上げることです。

しかし弊社の場合、単に売上を上げるだけでは足りず、ポータブルオーディオという文化をつくっている会社なので、お客様を獲得しファンを増やすことが大事な指標になっています。そこに対して、私はテレビに出演し、イベントを開催することで、分かりやすい数字でお客様を増やしてきたところが、社内でも秀でている部分だと自負しています。

かつてのやり方を否定する勇気が必要となった、世代交代

ーー社長就任されてから感じた苦労はなんですか?

岡田卓也:
創業社長はカリスマ的な存在で、どちらかというとワンマンと言える面もありました。私は「組織を強くするためには、スタッフにどう成長してもらい権限委譲していけるか」を考えていますので、あえて手を出さずに「任せる経営」を意識しています。

そのため「前のやり方がよかった」と思っているスタッフもおり、改革を進めるのには苦労しました。しかし、失敗をしながら成功体験を積むことでスタッフの責任感も増し、マネージャーとして成長してきていると実感しています。

プロチームとのコラボ商品を掲げ、ゲーム業界へ進出

ーー9月に開催された大規模ゲームイベント「東京ゲームショウ」に出展されましたが、出ようと思われたきっかけは何でしょうか?

岡田卓也:
オーディオを趣味とする方々の中では、イヤホン・ヘッドホン専門店としてある程度の認知がされていると感じますが、オーディオに感心のない方には全く認知されていないお店であると感じています。
また、昨今ではイヤホンは音楽を聴くためだけのものではなく、動画を見たり、映画を見たり、仕事でビデオチャットをしたりと、多様な使い方がされるようになりました。
そういった音楽を聴く以外の用途でも、良いイヤホンを使ってほしい、こんなお店があることを知ってほしいという想いがあり、まずはゲーム業界に挑戦しようと決意しました。

小売店の1番の利点は、お店で商品を実際に試せることです。特に弊社は高いイヤホンでも全て触れるように展示しており、自分で好きなだけ他の商品と比べて聴けるようにしています。

しかし、ゲームのデバイスではそうはいきません。特にヘッドホンに関しては、ゲームコーナーに置かれていても試せるわけでもなく、ヘッドホンに詳しいスタッフもいません。

そこに勝機があると感じ、まずゲーム用のヘッドホンだけをそろえた店舗を1つ受け皿として設け、日本一有名なプロのゲームチームとスポンサー契約を結んで、共同でイヤホン作りを行いました。完成したイヤホンを普及すべく、東京ゲームショウという日本で1番大きなゲームイベントで発表しようと計画したのです。

今年のゲームショウには、4日間で24万人が来場しました。日本国内でも10本の指に入る規模のイベントで、来場者のうち2%程度がブースに来る計算だと言われていたので、6000人くらいを見積もっていたら、弊社のブースだけで2万4000人以上の方に来場していただくことができ、大成功を収めました。

風通しが良くアットホームな雰囲気が魅力

ーー採用についてはどのような状況でしょうか?

岡田卓也:
東京ゲームショウに出たり、アーティストとコラボしたイヤホンを作ったりしているので、採用の場面では人が集まっています。アルバイトという早い段階から、企業理念とマッチしているかどうかを人事が見極めて採用しているため、より良い人材を早期に見つけることができています。

入社してからは、いつも近くに先輩がいる環境なので、人とコミュニケーションをとる中で成長でき、悩んだらすぐに相談できる風通しの良さが魅力です。

ーー今後の後継者や、幹部の育成についてはどうお考えですか?

岡田卓也:
私もずっと社長でいるイメージはなく、次の世代に引き継いでいきたいと考えています。実際に私以外にも30代の役員がいますし、事業本部長や部長などのポジションでも同年代の社員が活躍しています。そして、さらにその下の層が今とても勢いがあります。23〜24歳の大学を出てすぐの時期にもかかわらず「こんなに仕事ができるのか」と感心するほど良い人材がそろっています。10〜15年先に「この子たちに会社を渡したい」と思ったとき、どういった経験をしてもらおうかと、今から楽しみにしているところです。

ファンビジネスのためのマーケティングツール


ーー今後は何に注力されるご予定でしょうか?

岡田卓也:
ECサイトの強化に励みます。5月時点の売上では店頭55%に対しEC45%程度の水準でした。ECはこれまで問題ないと思っていましたが、マーケティング部門に外部から役員を招いた際、「もっとお客様とつながっていこう」という考えが入ってきました。

これまではお客様側が積極的に取りに行かないと情報が入って来ない設計になっていたため、おすすめ動画やレビューの紹介など、弊社が持っている情報全てを提案できるようなECをつくろうと模索中です。

昔は車や家などを買うことがステータスでしたが、今の若い世代はあまり物を所有しません。しかし、スマートフォンに関するものはニーズがあり、差別化としてイヤホンが使われている時代です。

もともと男性の趣味というところが強く、95%が男性ユーザーでしたが、コロナ禍で女性の比率も上がっており、年齢層も10代後半〜30代後半ぐらいまでが、7割を占めています。間口を広げて老若男女問わず購入しやすいサイトを意識していきます。

自分軸を大切にすることが理想につながる

ーー新卒など若い世代の方に向けて、メッセージをいただけますでしょうか。

岡田卓也:
失敗を恐れずに、何でも自分事にしてチャレンジすることが大事だと思います。スキルや学歴は自分の価値とは直接関連せず、「何にチャレンジして、それがどうだったか」の積み重ねが評価や成長につながります。

まずは「自分で決める」という習慣を若いうちから持っていると、思い描く通りの30代に近づくのではないでしょうか。仕事をしていく上で、自分で決める、自分で責任を持つという事はとても勇気がいることですし、難しいことだと思います。しかし、これが成長の速度を決定的に分ける差だと思っています。

編集後記

イヤホンをただの音楽を聴くツールではなく、オーディオという文化として広めている岡田社長。「本当に私たちが大事にしたいのは、ファンを増やしていくこと。それにより売上を伸ばしていくべきだ」と語る。
コロナ禍により追い風を受けているイヤホン業界で、さらなるファン獲得のためイベントの企画やECサイトによる誘導で飛躍していく同社の活躍に目が離せない。

岡田卓也(おかだ・たくや)/1988年長野県生まれ、中京大学経営学部卒業。2010年にアルバイトで入社、2011年に社員登用、2015年に執行役員就任、2018年取締役就任、2022年に副社長就任、2023年に社長就任。経営に携わる以前は、TBSテレビ「マツコの知らない世界」に3回出演するなど、イヤホンの専門家としてさまざまなメディアに出演し、PR活動を中心とした業務を行っていた。