※本ページ内の情報は2023年12月時点のものです。

生き物の飼育に欠かせない要素の1つが餌である。餌の種類や与え方によって、生き物の生育は大きく変わる。カミハタ養魚グループは観賞魚の餌で圧倒的なシェアを誇る。

特に鯉の餌「咲ひかり」は品評会で優勝する養鯉業者のほとんどが使うなど客先からの信頼も厚い。納得いく製品以外は商品化しないなど、こだわり抜いた餌の開発の裏側や、販売戦略、将来を見据えた社員育成などについてうかがった。

社長の仕事は社員の活躍する場をつくること

ーー社長就任の経緯を教えてください。

神畑道子:
カミハタ養魚グループは1877年に食用鯉の養殖で創業しました。私が三姉妹でしたので、後継のことを考えて、養子を取ろうということになり、主人が養子で入ってきました。主人と一緒に会社の仕事を手伝っていましたが、正直に申し上げると「なんとなくの入社」でした。ただ、主人が病気で亡くなってしまい、誰が会社を継ぐのかという話し合いを行った結果、私が継ぐことになりました。本格的に仕事に取り組むようになったのはそこからです。

ーー社長になってからの苦労はありますか。

神畑道子:
小さい頃から家業としてお店を見ていたので仕事に関しては身近でした。ただ、社員と一緒に働く、トップに立つというのは今までとは全然違う世界でしたので、最初は少し戸惑いました。今になって「あの頃の社長は厳しかったです」と社員から話を聞くようになりました。きっと肩に力が入っていたんでしょう。

新たな発見もありました。ある時錦鯉の品評会に行ったら、養鯉業者さんが弊社の餌をほとんど使っていないことがわかったのです。外から見ているだけでは気付くことができず、実際に現場で仕事をすることで初めてその現状を知りました。

顧客を分析していくと、私たちの餌は一般のユーザー向けではシェアが高かったのですが、品評会に出すような鯉を作っている養殖業者さん向けの餌としてはまだまだ通用していないという結果がでました。そこでグループ総合施設の山崎研究所で社員が日夜研究し、プロ向けにも通用するような餌「咲ひかり」が誕生しました。

ーー鯉の養殖業者からの評価はいかがでしょうか。

神畑道子:
現在も品評会によくブースを出すのですが、本当に多くのお客様にお越しいただいています。そして、品評会で優勝するような鯉にはほとんど弊社の餌を使っていただいています。「素晴らしい餌です」と言ってくださる方がとても増えました。発売当初は「米より高い餌」と言われていたのですが、今ではその品質を多くの養鯉業者様に認めていただいています。

ーー社長の仕事として何か意識していることはありますか。

神畑道子:
弊社には優秀な社員が多いので、彼らが活躍する場所をつくるのが私の仕事だと思っています。父は自分で何でもできたので、「みんなついて来い」というようなタイプでしたが、私は皆に任せるスタイルを取っています。私は何も提案はせず社員が提案をして、それをするかしないかの判断を私がするべきだと考えています。ですから、社員にはどんどん提案してきてほしいと思っています。

納得した商品以外は商品化しない

ーー商品開発のこだわりを教えてください。

神畑道子:
弊社ではハリネズミの餌も販売しています。以前、市場でハリネズミブームがありました。でも弊社では商品の発売が遅かったのです。問屋さんにも「今更出してきても遅いよ」と言われました。担当者に開発が遅れた理由を聞くとだいぶ前から研究はしていたものの「検証に時間がかかりました」との回答でした。

「自分たちが納得がいかないものは出したくない」というポリシーがあるので仕方ないことだと思っています。最終的には弊社の餌がハリネズミの餌の市場でナンバーワンになったので、やはり社員は正しかったと思います。餌として食べられるかどうかは実験してすぐわかるのですが、その餌で本当に健康にちゃんと育つかというのは年数が経たないと答えが出ません。その答えが出るまでは弊社は商品を市場には出しません。正直者の社員が多いのです。

ーー2020年にはISO22000の認証を取得されましたが、どうしてでしょうか。

神畑道子:
海外へ輸出するためにはとても厳格な製造工程の衛生管理が求められます。

各国の規制に対応するために、2006年からハサップ(HACCP)に準じた衛生管理システムを構築しました。2019年にはアメリカの食品安全強化法(FSMA)に基づいたアメリカFDAの工場監査もクリアしました。そういった経験を通して得た知識をもとに2020年にISO22000の認証取得に挑戦して、グループの3工場すべてで取得しました。国内の観賞魚飼料製造工場としては初めてのことです。人間の食品と同等の安全管理レベルを実現できますので、胸を張って海外に輸出できます。

また、輸出する国によっては、使用原料や製造基準などに関わる規制もあり、それに対応する必要がありますが、自社工場を持っていないと、原料の把握や手続きが面倒で対応が難しいと思います。日本からのペットフード輸出量については弊社が一番多いといわれていますが、こういった土台があるからだと思います。

ーー海外輸出へのこだわりについて教えてください。

神畑道子:
輸出に関していえば、売り上げだけを目指すことはありません。観賞魚用の餌を販売する会社の中には投資会社や他企業に買収されながらブランドを維持している会社もありますが、弊社の社員は「熱帯魚や生き物が好きなマニアの集まり」でもあるので、自分たちが買いたくなるような商品を売りたいという気持ちが強いのです。

そしてその思いに共感いただける信頼できる海外の代理店経由で、本当に弊社の餌を必要としている人に販売したいと思っています。

求める人物は正直者

ーーどのような人物が働く上で求められるのでしょうか。

神畑道子:
「正直な人」だと思います。人の能力は変わることがあっても、人間性は変わりません。ですから、人間として信用される人になることが大切になると思います。たとえば、ミスをしたらミスをしたと正直に言えることなどです。弊社で過去に大きなミスをした社員がいましたが、その後挽回して今では役員になっています。1回の失敗でレッテルは貼れませんので真面目で誠実な人が最終的には求められると思います。

ーー将来的に新しいプロジェクトの構想はありますか。

神畑道子:
あと数年で娘に社長を譲るかもしれないのですが、娘は子ども向けの教育活動を通して、生き物に対する学びや楽しみを提供したいそうです。今は魚などと触れ合う機会も少ないので、そのような機会を作って、生き物や自然、環境の大切さも伝えていけたら良いと思います。

編集後記

顧客から支持されるのには必ず理由がある。カミハタ養魚グループの場合、それは「納得いかなければ出荷しない」というこだわりだ。社員もまた観賞魚の愛好家だからこそ、ユーザー目線で商品開発に取り組めるのだと感じた。そして確かな開発力の裏には社員の正直で誠実な人間性が影響していることも忘れてはいけない。同グループの次の取り組みに注目したい。

神畑道子(かみはた・みちこ)/1954年10月兵庫県生まれ。甲南女子短期大学卒業後、1983年にカミハタ養魚グループ入社。グループ企業に、株式会社キョーリン、キョーリンフード工業株式会社、神畑養魚株式会社がある。
2001年1月神畑養魚株式会社・株式会社キョーリン取締役専務就任。2003年1月神畑養魚株式会社・株式会社キョーリン代表取締役社長就任。2003年9月キョーリンフード工業株式会社代表取締役会長就任。2014年1月キョーリンフード工業株式会社代表取締役社長就任。