※本ページ内の情報は2024年1月時点のものです。

山の斜面を整地する法面施工を主軸に40年以上の歴史を持ち、経験、知識、技術の向上に注力し、自社の機械と技術を強みとする大昌建設。
ワークライフバランスや労働環境を重視し、若手採用にも積極的に取り組む一方で、テクノロジーを活用した事業拡大にも着手している。今回は、土木業界に新たな風を吹かせるべく邁進する岡本貴嗣代表取締役に話をうかがった。

幼い頃から家業中心。自然と「後を継ぐのが当然」と思えた

ーーどのような経緯で家業承継に至ったのでしょうか?

岡本貴嗣:
もともと私の祖父が弊社を創業しましたが、市場の変化で実質倒産状態になってしまいました。父は20歳の頃に再建に着手し、28歳の時に会社を立ち上げました。

父は借金をして会社を再建したため忙しく働き、私も幼い頃の記憶は仕事の手伝いばかりで、遊ぶ時間はほとんどありませんでした。休みの日でさえ母とともに父に弁当を届けるなど、家業に関わることが日常的でした。その結果、自然と弊社に親しみを持って育ち、将来的にはこの道に進むだろうと思っていました。

大学卒業後は別の会社で、現場監督と営業職を兼任していました。最初はその会社で昇進するつもりでいましたが、約7年ほど勤めた頃に、父から戻るように言われました。そこで、30歳の時に事実上の2代目として弊社に入社することになったというわけです。

ーー貴社に入社し、カルチャーショックや問題に直面したことはありましたか?

岡本貴嗣:
前職とは異なり、ほとんどの社員が職人であることが大きな違いでした。私は現場監督として働いていた経験がありますが、こちらの会社では職人たちとともに現場作業をすることが主な仕事です。

最初の1〜2年は体力的にも大変で、仕事に慣れるのに時間がかかりましたが、これが逆に職人たちの苦労を理解する手助けとなり、現場作業の大変さと家族から離れて働くことの寂しさを実感することができました。私自身は妻と4人の子どもがいたので、家族との時間を持つことの重要性を理解し、それがのちに現場の状況改善に役立ちました。現在は若い社員たちがプライベートの時間を楽しむことができるよう、配慮を重ねています。

ーー社長になってからの変化や、現場での仕事の変化についてうかがいたいです。

岡本貴嗣:
私が2012年に入社してから、4年後に役員に昇進し、さらに6年後に社長に就任しました。社長になってからは特に変化がなかったといえます。ただ、責任は一段と重くなり、絶対に会社を破綻させてはいけないという意識が強まりました。

私はもともと現場で働いた経験があるため、社員たちの立場や大変さを理解しており、その気持ちを大切にしています。現在、父から会社を譲り受けてからまだ時間が経っていないため、新たなスタートを切ったばかりです。父もまだ現役であるため、会社をより発展させ、いずれは父を超える存在になりたいと考えています。

大昌建設の「法面施工」と事業の強み

ーー大昌建設の主な事業内容について教えてください。

岡本貴嗣:
弊社の主要な事業内容は公共事業で、主に治山事業を請け負っています。治山事業は土木工事の一環で、一般的には道路の脇にある山を整備する作業です。山の斜面をコンクリートで補強したり、格子状の構造物を設置したりして、山の安定性を向上させる作業を指します。このような山の整地作業には、崩れやすい箇所の特定から、事前の切り崩し、その後のコンクリート吹付工程までが含まれます。弊社はこの一連のプロセスの中で法面施工という最初の作業、つまり、下処理を担当しています。

一方、コンクリート吹付などの工程は他社に委託しています。この治山事業は非常に狭い市場ですが、多くの人が見かける道路の斜面に関わる重要な作業です。日本には同様の事業を行っている企業も存在しますが、弊社はこの分野におけるパイオニアとして、40年以上の歴史を持っています。

ーー業界における貴社の強みはなんですか?

岡本貴嗣:
10社程度の同業他社が存在し、競争はあるものの、弊社は業界の中での経験と知識および技術の向上に注力している点を強みとしています。弊社の機械は20〜30年以上の歴史があり、改良を重ねて現在は完成形に近づいています。操作席から作業ができるだけでなく、ラジコン操作も可能です。これらを活用することで、他社とは異なる作業の選択肢を提供することが可能です。

また、認知度も高く、官公庁からの仕事が9割以上を占めていることも弊社の強みの一つです。長年にわたり業界での経験と信頼性を積み重ねてきた結果であると考えています。

ーー拠点は東京にあるとのことですが、皆さん都内でお仕事をされていらっしゃいますか?

岡本貴嗣:
弊社の活動地域は北海道から九州の奄美大島まで、日本全国にわたっています。
海外市場への進出も視野に入れ、実際、カナダからの問い合わせによって、新たなプロジェクトに取り組んでいます。

ーー海外でも、貴社の法面施工のような作業は普及しているのでしょうか?

岡本貴嗣:
海外でも高度な建築技術が発展しています。しかし、弊社のようにワイヤーで掘削機を固定して斜面にぶら下がるように作業する方法はまだあまり一般的ではありません。
実は最近、Twitter(現:X)を通じて弊社の活動に注目が集まり、海外からの関心も高まりました。2022年の弊社の法面施工の写真を使用した年賀状をTwitterにも投稿したところ(※)、かなりの反響があり、Yahoo!ニュースにも掲載していただきました。それをきっかけにテレビ取材までいただく運びとなりました。

(※)Twitter(現:X)の実際の投稿

従来のイメージを払拭する働き方を提示したい

ーー貴社の拠点は東京ですが、社員の皆さんはどのような働き方をされていらっしゃいますか?

岡本貴嗣:
全国に作業現場があるため、基本的に社員は宿泊施設に滞在しています。1ヶ所に長期間滞在するのではなく、現場を転々と移動します。また、社員の現場出張において、1つの現場での滞在期間は短い場合で数日から1週間程度、長期では1ヶ月から2ヶ月かかることもありますが、皆家族がいたり、恋人がいたりするので、週末にはプライベートの時間を大切にし、仕事とのバランスを取って過ごしてもらえるよう努めています。

私自身も昔は現場に出て、1年のうち200日以上ずっと出張だった教訓から、今はプライベートの時間も大切にするように心がけています。

ーー労働条件や環境は採用面でも重要になりますが、その側面でお考えのことはありますか?

岡本貴嗣:
土木作業は汚れる、汚い、休みも少ないという、かつてのネガティブなイメージが未だに残っている業界ですが、2024年からはこの業界でも完全週休2日制が導入される予定で、ワークライフバランスという意味では整備されてきています。その一方で、日当制の作業員が強制的に休日を取得せざるを得ず、稼ぎたい人が稼げない状況になってしまうことも事実です。これに対する具体的な策はまだ熟慮中ですが、従業員の給与を確保できるような策を検討することが急務だと感じています。

ーー他に採用面での工夫はありますか?

岡本貴嗣:
出張時でもきちんと体を休めるために、宿泊施設の部屋は1人に1室を提供するようにしています。また、多様な年齢層との交流など、社内における良好なコミュニケーションの促進と労働環境の充実を重要視しています。親睦会や忘年会など、若者は参加したがらない傾向がありますが、やはりそういった場で築かれる横のつながりは長い目で見て糧になると感じるため実施しています。

また、現場の作業着をスタイリッシュなファッションに変えるなど、若者にも魅力的な職場環境を提供する取り組みに注力しています。業務に関しても、積極的に興味を持ってもらうために、DXに特化した部署の設立など、新たなアプローチを始めています。

ーーどういった方が向いている会社だとお考えですか?

岡本貴嗣:
技術やスキルは必須ではなく、むしろマインドや資質が重要であると考えています。
長期出張があるため、長期滞在や旅行を好む人、機械に興味を持っている人、物をつくることに喜びを感じる人は向いていますね。また、何かを残したいという強い意欲を持つ人や、チーム内でコミュニケーションを取りながら働ける人が向いていると思います。

日本での事業基盤をさらに強化し、海外進出を狙う

ーー取引先の強化についてはどのようにお考えですか?

岡本貴嗣:
海外市場に進出する一方で、国内でもさらなる事業拡大が可能だと考えています。
公共事業の中で治山関連の案件が増えていることに加え、リニアモーターカーや高速道路など、民間企業との取引についても今後の展望が広がっていることから、その分野を強化したいと思っています。インフラ整備は土地は変わっても行うことはほぼ同じなので、海外進出は日本での基盤をつくってからですね。

ーー営業部門では今後の展望をどのように計画されていますか?

岡本貴嗣:
競争が激化している市場で、価格競争だけでなく付加価値を提供することに焦点を当てています。具体的には、ICTの活用です。現状、他社と比べて機械の台数が多く、自社で製造から修理までを一貫して行い、迅速に対応できることを売りとしています。また、営業におけるコミュニケーションの向上と情報交換の場を整備し、営業マンのモチベーション向上にも力を入れています。

新商品開発および技術開発については、ICTとGPSを活用して山間部で電波の入りにくい状況に対処する方法を研究し、電波が入らなくても斜面の勾配を正確に設定できるシステムを開発中です。これにより、施工の効率化や時間短縮、省人化が可能となり、市場における競争力向上を図れると考えています。また、ドローンを活用してさらなる革新的なアプローチを検討しています。

編集後記

「土木作業」という言葉に対して無意識に先入観をもっている人々は少なくないと思う。私自身もその一人で、やはり肉体労働や外国人労働者、劣悪な労働環境が思い浮かんでしまうこともある。
しかし、こういった作業は人の営みに欠かせない仕事であり、技術の発展やルールの改善により、より働きやすい業界となってきていることが、インタビューからもうかがえた。自然と人間、そして技術はどのように折り合いをつけていくことができるのか、今後も大昌建設の事業から目が離せない。

岡本貴嗣(おかもと・たかし)/1982年生まれ。2012年大昌建設に入社。2016年同社取締役に就任。2022年代表取締役に就任。