※本ページ内の情報は2023年11月時点のものです。

国土交通省が2021年に発表した「建設業の働き方改革の現状と課題」によると、建設業の就業者数は2020年時点で55歳以上が36.0%、29歳以下は11.8%と、高齢化が深刻だ。

そんな中、地元・吉祥寺に特化した経営を続けているのが、みすゞ建設株式会社だ。

同社の最大の特徴は、吉祥寺にある本社を中心におよそ半径1km以内を拠点に活動しているところにある。

地域に根ざした建設会社であり続ける思いについて宮下真一氏に話を聞いた。

地元に特化した営業戦略

ーー貴社の事業内容や、他社とは違う特徴についてお教えください。

宮下真一:
当社では家の新築やリフォームからビルの建設まで幅広く請け負っているので、いわゆる総合建設業にあたります。

その中でも主に木造住宅の新築とリフォームを取り扱っています。事務所も住宅地のど真ん中にあるので、地域密着の工務店といった感じですね。

当社の最大の特徴は、本社を中心におよそ半径1kmという限られたエリアでの工事を請け負っていることです。

周囲の方からは、それで利益を確保できるのかと言われることもありますが、当社は武蔵野市の端に位置していて、近隣の杉並区、練馬区、三鷹市が圏内にあたり、十分に建築需要があるエリアなのです。

また、当社ではチラシのポスティングやカレンダーを手渡しで配る、昔ながらの営業スタイルを続けていて、Webを使った営業活動はほとんどしておりません。

最初から活動エリアが決まっているため、関係のないエリアに情報発信をしてもあまり意味がないんですね。

吉祥寺という地域は長く住んでいる方が多く、地元の方々にはすでに当社のことを認知していただいているので、広く販促活動をする必要はないというわけです。

インターネットやSNSが普及している現代で、当社のようにWebよりもポスティング等の昔ながらの販促活動で利益を上げ続けている会社は珍しいと思いますね。

ーー貴社の強みについてお聞かせください。

宮下真一:
先ほどもお話した通り、当社は管轄エリアを限定しているため、移動距離が短いのもメリットのひとつです。

2024年4月からはいよいよ労働基準法の適用に対する猶予期間が終わります。建設業では時間外労働を年間最大720時間以内に規制されるため、労働力不足が懸念される、いわゆる「2024年問題」の解決策にもつながると考えています。

車を使って資材等を運搬する建設業の場合、労働時間の中でも特に移動に時間を取られます。

しかし、当社の場合は活動エリアが狭いため、移動時間が短くすみ、その分作業に充てる時間を確保できます。

また、現地調査からアフターメンテナンスまで一貫して請け負う「責任一貫体制」を取っていることと、後述しますが、家づくりの基本の徹底を行っているところも強みですね。

地元のお客様を大切にする理由

ーー活動拠点を広げることはせず、地域に根ざした会社であり続ける理由についてお聞かせください。

宮下真一:
当社では、家を建てて引き渡しをした後から本当のお付き合いが始まると考えています。

かつては平均寿命が短かったため、60歳になってから新しく家を建てる方は少なく、これまでマイホームを建てるのは一生に1回と言われていました。

しかし、今では人生100年時代に突入し、30代のときに家を建てたとしてもさらに70年住居が必要になるため、もう一度、場合によっては二度家を建てる可能性があるわけです。

また、建物を建てたら次に手を入れるまでの期間は空くものの、年数が経てば建物の耐久性の問題というよりは、後述の通り、家族形態の変化によるリフォームや建て替えが必要なので、建設業はリピート産業と言えます。

そのため、地元の方々から信頼を得て、みなさまから継続的にご依頼をいただければ、その地域だけで見れば大手ハウスメーカーにも対抗できると考えています。

ーー今後貴社が注力していきたいポイントについてお聞かせください。

宮下真一:
今後はお客様が抱えている諸問題を解決するサービスに力を入れていきたいと考えています。

たとえばお子さんたちが成人して一人立ちした後に、将来今住んでいる家をどうするかという問題が出てきますよね。

最近では結婚後に親とは同居せず別々に暮らす方が増えているので、親の代で家の後始末をしなければいけません。いわゆる「終活」です。

また、長生きをすると認知症になるリスクがあるので、自分で判断ができるうちに「任意後見制度」を利用した方が良いと考える方も少なくないです。

そこで当社では建物を提供するだけでなく、上記の「任意後見制度」を含む「終活」や相続を見越した税務相談など住まい・生活全般にかかわるサポートなども行っていこうと考えています。

当社で財産の管理や運用を行う家族信託サービスを提供するというわけではなく、手続き自体はお客様に行っていただき、私どもで必要な手続きについて調べたり、事務処理などのお手伝いをしたりといったサポートができればと思っています。税務相談も資産税を専門にしている税理士を紹介しています。

ただ、これらのサービス自体をビジネスにするつもりはありません。

私どもとしては無償でご依頼を受け、お客様の信頼を得ることでリフォームや建て替え、新築の受注につなげていければと考えています。

みすゞ建設が求める人物像と若者へのメッセージ

ーー現在採用活動は行われているのでしょうか。

宮下真一:
目先の人員数は足りているものの、少子高齢化により労働人口は減少する一方ですし、特に建設業全体の就業者の減少は危機的な状況です。

そのため、当社では今のうちに労働力を確保しておこうと採用を行っています。

ーー貴社が求める人物像についてお教えください。

宮下真一:
当社は新卒採用は行わず中途採用のみですが、採用の際はこの会社で長くやっていけるか、つまり社風が合っているかどうかを見ています。

会社も人の集まりなので、最終的には相性が大切だなと思いますね。

当社の和気あいあいとした環境に合う人を採用して、彼または彼女たちの個性を伸ばし、人として成長できるようフォローしていきたいです。

ーーこれから就職活動をする若い方々に向けてメッセージをお願いします。

宮下真一:
就職活動をするときは、自分が得意なことをはっきりさせておくといいと思いますね。

自分自身のことは案外気付きにくいので、自分が好きなことと得意なことを混同してしまう方が多いように感じています。

自分と同じような境遇や年代の人とばかり付き合っていると、どうしても視野が狭くなってしまうので、立場の違う方や目上の方と会話する機会を作り、視点を変えてみることで本当に得意なものが見つかると思いますよ。

編集後記

父親から会社を引き継ぎ、今も地元に特化した経営を貫いている宮下社長。インタビューを通し地元である吉祥寺の方々と長年に渡り信頼関係を築き上げてきたことが、同業他社が簡単に真似できない大きな強みとなっている。少子高齢化による人材不足が深刻な建設業界で、地元にこだわった営業スタイルを続けるみすゞ建設株式会社を今後も見守っていきたい。

宮下 真一(みやした・しんいち)/1958年生まれ。慶応義塾大学卒業後に博報堂に入社。1995年に父親の会社であるみすゞ建設株式会社に入社。2003年に同社代表取締役社長に就任。2007年に父親の代表取締役会長退任により同社代表取締役に就任。2012年に地域に根差した住宅に携わる事業者がグループを組み、活動していく趣旨で「水と緑の循環型住宅を考える会」を設立。「地域型住宅ブランド化事業」案(武蔵野の家)が国土交通省より採択を受ける(同事業は2014年まで)。近隣の工務店などでグループを組み、大工などの志願者を受け入れ育成する「東京大工塾」に創設メンバーとして参画。