※本ページ内の情報は2024年1月時点のものです。

新型コロナウイルスの感染拡大や​​原材料価格の高騰などによる影響で、相次ぐ工場閉鎖が懸念されている製造業。ウィズコロナの生活が定着し徐々に経済回復の兆しが見えてきたとはいえ、近年、国内の製造業企業においては、工場など生産設備の老朽化が深刻な状況となっているという。

そんな中、製造業の工場内に詰所を持ち「建築物の​​営造と修繕」を業務とする「営繕工事(えいぜんこうじ)」を専門とする建築業者がいる。「営繕」とは中国の春秋・戦国時代の頃から使われ、我が国の「大宝律令」にも記された言葉である。

​​昨年(2022年)創業65年を迎えた曙建設株式会社は、この営繕を得意とする特殊な建設会社だ。この会社が何を目指し何を守ってきたのか、2代目である名誉会長の関泰彦氏に話を伺った。

「人が働いているときにはもっと働け。人が金を使っているときには金を使うな」父の教訓を胸に刻んで社長に就任

ーー会長が貴社の社長になるまでの経緯について教えてください。

関泰彦:
父は1953年にこの会社を創業し、僕は子どもの頃からよく「お前は会社を継げ」と言われて育ってきました。父は長男の僕が会計事務所で学んで将来は会社を継ぎ、次男は一級建築士になるという理想を描いていたのです。それで僕は大学を卒業してから2年間は会計事務所で働き、その後、父に弊社に戻ってくるように言われて1971年に入社しました。

僕たちの世代はオイルショックやバブル崩壊を経験していますが、そんなときに父からよく言われたのが、「人が働いているときにはもっと働け。そして人が金を使っているときには金を使うな、金は人が使わないときに使うものだ」ということです。つまり、世の中の動きに逆行すること、世間と同じ動きをするなということです。

それから僕がまだ常務か専務だった頃に「自分はもう引退するからお前がやれ」と言われ、父はあまり表に出てこないようになりました。その後ちょうど1989年に会社の利益が父の退職金を出せるほどに達したので、1990年に社長職を交代しました。

ーー社長に就任してから特に力を入れたことはありますか?

関泰彦:
「父の代からの顧客を守ること」です。お客様と長くつながるというのが弊社のプライドであると思っていますので、これまでお付き合いしてきたお得意様を大事にしています。

税務署の特別国税調査官の方にも、「代替わりして会社を受け継ぐ際に、それまでの顧客を失うことはよくあるけれど、今までと変わらずつながりを保っている曙建設さんは素晴らしいですね」と褒めていただきました。

弊社では創業以来六十数年間取引を続けているお客様も居られます。長くお付き合いしてきたお客様の中には、既に第一線を退いた担当者もいますが、いまだに企業としてのお付き合いは続いています。

一度でも失敗したら大切な顧客を失うと肝に命じて、いかに一つの得意先を守ることが大事かということを常に考えています。

「曙品質」を守り「曙プライド」を掲げて、世の中の役に立つような仕事をしていきたい

ーー貴社の事業形態について簡単にご説明ください。

関泰彦:
弊社は簡単に言えば、上場企業の製造工場や生産設備の建築・営繕工事を担っている会社です。普通の建設業といえば営業担当者が顧客を回って仕事を取ってくるイメージですが、弊社の場合は決まった顧客の工場内に詰所をいただいており、弊社の現場監督が常駐するという形になっております。

ですので、見積もりの段階から関与することが多く、これが他社と比べて有利な点だと思っています。弊社は建設業許可29業種中23業種には対応しています。

総合建設業というのはオーケストラでいえば指揮者にあたるものです。父の代とは違い大工をかかえる時代ではないので、他の建設業者と同様に施工業者は全て外注しているのですが、やはり総合建設業として業務を行うためにはどうしても建設業の資格が必要になってきます。

ーー社内教育はどのように行っていますか?

関泰彦:
社内教育は管理部長が担当しています。建設業はやはり安全に関する教育が重要なので、安全パトロールに行ったり、安全のための指示書を出したりしています。

それから、建設業労働災害防止協会で行われているいろいろな講習を受けてもらっています。また、業務に関しては、入社したばかりの若い人たちは最初は上司と一緒に3ヶ月ぐらい現場を回って実地で学んでもらっています。

ーー会長として貴社のどのような点を誇りに思っていますか?

関泰彦:
曙建設として一定の品質を保つことで、これだけの名だたる企業のお客様と取引させていただいているというのが弊社のプライドです。弊社のお客様は、三菱ふそうトラック・バス、リコー、IHI、横浜ゴムなど、多くが上場企業です。

数ある建設業者の中で、弊社のように上場企業から安定して業務を請け負っている建設業者は珍しいのではと自負を込めて、ニッチなコンストラクターすなわち「ニチコン」と名乗っています。弊社ではこれを「曙品質」「曙プライド」と呼んで誇りにしております。

また、弊社の社訓として「日本の製造業の礎となろう」というものがあります。たとえば、三菱ふそうトラック・バスのトラック製造工場の基礎工事や工場の建設に携わったことによって、弊社が日本の製造業の基礎をつくってきたという自負があります。

そのほか、医・薬・介護の複合施設としてのメディカルビルや、横浜市が家賃を補助する高齢者専用住宅の建設も手がけました。今後も地域の福祉に貢献するなど、世の中の役に立つような仕事をしていきたいと思っています。

自由に働き、働いた分だけのリターンがあるやりがいのある仕事

ーー貴社で求める人材についてはどのようにお考えですか?

関泰彦:
一般的な住宅メーカーなどの新築工事は、基礎工事から最後の設備内装工事まである程度決まった工程が多いという印象があります。建設業界でなくとも、現場経験を重ねると、試行錯誤しながらより良い方法を模索し、自分ならではのやり方が見つかってくると思います。

そういった観点で、営繕工事はお客様と直接コミュニケーションを取り、ヒアリングや積算見積から施工まで自らするので、そのすべてに自分の色を出しやすくなります。

お客様のご希望に応えるためには、自らの経験・知識を基に、時には慣習にとらわれない
斬新な発想も必要になります。

常に課題意識を持ち、積極的に改善方法を考える、主体性の強い人材が今後は必要であると考えています。

裁量権があるということは得意先を与えられて後は自分で様々な工夫ができるということです。そうして利益が出ればその分給料も上がります。僕も入社してから初めのうちは戸惑いましたが、1年ぐらいするとこんなに働きやすい会社はないと思うようになりました。

悪く言えば上からの指示が多くはないわけですが、自分が働いた分だけのリターンがあるので大変やりがいがあります。そういう意味で、自ら動いてどんどん仕事をしてくれる人材を求めているといえます。

僕は自分で好きなように働くことができたので、うちの社員にも好きなようにさせていました。働きたいと思う社員には好きなように働かいてもらうということです。弊社の社員は本当に一生懸命働いてくれてくれている人が多いと思います。

ーー会長として社員の方々に伝えていきたいことはありますか?

関泰彦:
常駐先からの要望は何でも実行して、いかに自分の仕事を納得できる形で残していくかが重要だということです。社員にも自分たちがどれだけのことをしたかという結果を毎度残しなさいと言っています。「ああ、いい仕事をしてくれた」とお客様に感謝されたら自分たちも感動しますから、お客様から言われたことは選り好みせず喜んですることが大事です。

ーー今後取り組んでいきたいことはありますか?

関泰彦:
どうしたら社員が健康で安全に仕事ができるかということです。建設業は危険を伴いますから、健康に留意しつつ安全面も十分フォローする必要があります。その上で、今後もどれだけお客様に喜び感謝される仕事をしていくかということです。

編集後記

縁のある人々とのつながりを大切にし、得意先との信頼関係を守ることに努力を惜しまない関名誉会長。

数々の一流企業との取引を続けるために高い品質を保ちながら、日本の製造業の礎であろうと歩んできた曙建設は、これからも顧客第一の精神で「曙品質」「曙プライド」を掲げて胸を張って進んでいくことだろう。

関泰彦(せき・やすひこ)/1947年1月1日横浜生まれ、東京経済大学卒業。卒業後2年間を会計事務所に勤め、1971年に曙建設へ入社し、現場監督、営業、財務経験を経て、1990年には父に代わり代表取締役に就任。2019年1月をもって代表取締役を長男に継承。現在は名誉会長として、会社の成長を見守っている。社外ではみなと工業会、神奈川県災害防止協会にて副会長、幹事を務める。