※本ページ内の情報は2024年1月時点のものです。

白石電機工業は熱処理設備専門メーカーとして、金属、粉末冶金や電子部品業界に数多くの工業炉を送り出している企業だ。一般には馴染みのない工業炉(加熱装置)は全長20m〜30mほどの大形の機械であり、その長さは新幹線1両分と同程度以上である。

同社をけん引する代表取締役社長の大久保景史氏は、別会社で営業職や総務職を経て役員を務めていたが、そこから同社に転職した。知識ゼロから炉の設計ができるまで技術を叩きこみ、2023年6月に代表取締役社長に就任した。

今回は、社長になった経緯と現状について、大久保社長にうかがった。

妻の祖父が創設した会社に転職。畑違いの設計部で奮闘

――社長に就任して半年経ちましたが、入社した経緯を教えてください。

大久保景史:
弊社は1949年に設立し、創業者の孫が私の妻です。私はもともと実の父親が創業した会社の長男で役員でした。長年の技術に培われた白石電機について「事業承継するのに血族である必要はない」という考えもありましたので、当初は父の会社を離れて弊社に来るつもりはありませんでした。

しかし、70年の伝統を継承しつつ、更なる事業の発展に役立ちたいという思いが次第に強くなり転職を決意いたしました。

前職では営業として統括部長まで務めましたが、転職後はまったくの畑違いの部門に配属され、「オールドルーキー」として設計部の仕事からスタートしました。

その仕事を続けているうちに、大手企業に納品され、仲間とともに立ち上げた加熱装置が稼働する姿をみると、大きな達成感を得られました。

これらの加熱装置から生産される部品はスマートフォン等の身近な製品に使用されており、我々の生活を支えていることも実感できます。

設計には6年ほど携わりました。社長に就任して半年経ちましたが、設計職を担当して良かったと思っています。前社長の見立ては正しかったのです。現在も設計会議に毎回参加して、現場側から意見を述べられるのも、設計職の経験があったからこそです。

今は責任の重さを痛感しています。会社を発展させるために、あらゆる手を尽くす決意です。

社員一人ひとりのチャレンジが、新たな可能性を開く

――社長就任後、改革したところはありますか?

大久保景史:
弊社は技術の会社です。技術こそが私たちの強みであり、未来を切り開く原動力だと考えています。ですから、設備や研究開発に、惜しみなく投資をしています。また、専門知識や高度な技能を要する社員に対しての投資を行っています。

将来的には、社員がモチベーションを失うことなく、より高い技術を習得できるような人事評価にしていこうと思っています。やはり、モチベーションは大事です。

そのため、少し変わった社内制度をつくりました。設計部以外の部署で入社していても、性別や国籍を問わず、技術に興味を持って「やってみたい」と手を挙げた人には、CAD(製図用のパソコンソフト)など必要な環境を整えて、積極的に技術を学べるようにしました。

やはり好きなことや興味のあることには意欲を持って取り組むことができ成長も早いので、サポートにも力を入れています。

――CADで製図。素人には難しいのではないのでしょうか?

大久保景史:
私は当初、設計という分野は「製図」というスキルが求められ、初心者にはチャレンジする機会すらないというイメージを抱いていました。すぐに習得は出来ませんでしたが、毎日図面と向き合うことで、少しずつ理解が進みました。「製図」に限ったことではありませんが、モチベーションが高ければ高いほど身につくと思います。ですので、弊社では希望者にはその人に合ったカリキュラムを組みます。製図に興味があれば部署関係なく、チャレンジできます。

また、営業職だった私が未経験の設計部に配属されてわかったことは、図面を描くことだけが設計の仕事ではないということでした。

弊社の製品は工業炉なので、熱の勉強から始まり、得意先様と打合せをして仕様を決め、設計を進めていきます。そして工業炉を実際に組立て、稼働させて物が焼けるまでが仕事なのです。

若手は、学びと成長のチャンスを最大限に活かしてほしい

――若い方へ向けて、メッセージをいただけますか。

大久保景史:
志があれば、年齢に関係なく、何でも成し遂げることができると考えています。私自身、36歳ぐらいから5年ほどかけて税理士試験に受かりましたので、本人のやる気次第だと思います。

入社後、私はCADだけではなく、電気回路やPLCも勉強しました。機械がどのように動いているのか、どのような順序で処理が行われているのかを理解することで、機械を安全に運用することができるからです。

年齢に関係なく知識や技術を習得することは可能ですが、若手には相当なアドバンテージがあります。時間があり、学ぶことや成長する機会が豊富です。「本を読んだほうがいい。そして、やりたいと思ったことは、すぐに行動に移すことが大切だ」と考えます。

――どのような人を採用したいとお考えですか?

大久保景史:
工業炉(加熱装置)の設置・試運転は容易な仕事ではありません。工業炉は重く、ヒーターには大電流が流れ、危険を伴います。これらをコントロールしながら安全に作業を進める必要があります。

弊社の仕事はチームワークが重要で、お互いに信頼し合うことが必要ですから、責任感がある人を採用したいと考えています。必ず約束を守ってほしいので、面接に遅刻した時点でマイナス評価となります。採用窓口は、弊社ホームページにありますので、興味を持った方はぜひご応募ください。

編集後記

設計に興味を抱いたすべての社員に、分け隔てなく入り口をつくる大久保社長。技術こそが未来を切り拓く原動力だと確信しているからだろう。

「年齢は、志を実現するための障壁にはならない」と情熱を持って語る姿に、社員たちの信頼が厚いのもうなずける。

大久保社長の挑戦に、これからも注目していきたい。

大久保景史(おおくぼ・けいじ)/1971年11月7日大阪府生まれ。兵庫県立大学(旧神戸商科大学)卒、卒業後は父親の設立した会社で営業職、総務職、役員を歴任し、その後2017年9月に同社に入社、設計職を約6年経験し、2023年6月に代表取締役社長に就任。