※本ページ内の情報は2024年2月時点のものです。

1970年代に起きた流通革命により、大量消費・大量生産が進み、スーパーや量販店などでは流通のシステム化としてPOSシステムの導入に拍車がかかった。レジを通すにはバーコードが印字されたラベルが必要となり、印刷業界も賑わいを見せることとなった。

OSPホールディングスは、小さなシール・ラベル屋として創業した大阪シーリング印刷の持株会社だ。ラベル需要増加の恩恵を受け、次第に会社を大きくしていくが、ラベル事業の成功には3代目社長である同社代表取締役社長の松口氏による経営手法が鍵を握っているという。

単価の安いシール・ラベル事業を軌道に乗せた方法とは。社長就任後の組織改革や、アイデアを湧き上がらせる思考方法、本質の見極め方など、松口社長から幅広い分野の話を聞いた。

「お前は会社を継ぐ人間だ」と言われ衝撃を受けた中学時代

ーー社長就任までの経緯を教えてください。

松口正:
幼少期から、生活の場である自宅と会社の工場が離れており、父も忙しく会話をすることもなかったので、私は会社を継ぐという意識もなく過ごしていました。

中学1年生の夏休みにバックパッカーの旅を計画したのですが、父に「お前は会社を継ぐ人間なのだから、計画性を持って行動してほしい」と後継ぎの必要性を言い渡され、そこで初めて「自分はこの会社を継ぐのだ」と自覚しました。

大学卒業後、そのまま実家の会社へ入社し、常務、副社長を経て1993年に社長就任に至ります。バブルが弾けた翌年で、決算は減収減益でした。

「このタイミングで社長を交代して、会社にとって厳しい時を知っていた方が良いのではないか」という、父からの打診が決定打になりました。私が33歳で父が70歳手前だったので、体力的にも自信がなかったのかもしれません。

論理的経営の実現のために採用した2つの手法

ーー社長就任後、どのように社内の改革をおこなったのでしょう?

松口正:
父が感覚的な人間だったので、私は論理的な経営をしたいと思い、トヨタ生産方式とアメーバ経営を取り入れました。

トヨタ生産方式には「乾いた雑巾を絞る」という例え話がありますが、これは乾いて何も出ない状態からさらに無駄を探すということではないと解釈しています。乾いた雑巾は放置しておくと湿気を吸い水分を含むようになります。

水分は無駄なことの例えで、会社も無駄が出てきたら削減しなければなりません。観察しつつ継続するという強い意志が必要で、並行して一方的に教えられるだけではなく、自発的に動ける社員の育成も大切です。PDCAサイクルをしっかり回してきたので、現在は定着し、継続させることができています。

次はそれを収益につなげるべく、アメーバ経営を導入しました。アメーバ専用チームをつくり、1人あたりの人件費や売上計画の立て方、収益を生まない部隊のコスト削減法などを学び、責任者に経営者意識を行き渡らせています。こうしてトヨタ生産方式とアメーバ経営の複合技で社内を改革しました。

小さな仕事が大きな信頼へとつながる

ーーターニングポイントとなった出来事はありますか?

松口正:
これまで決めていなかった社是を掲げ、私の社長就任行事で発表したことがターニングポイントでした。通常は従業員のみ参加のところを、協力会社や仕入れ先など外部の方々も招待し、今後の方向性を聞いていただきました。

この行事は5年ごとに周年記念式典として開催し続けています。顧客第一義で仕事をしていくにあたって、外部の方々にも弊社を深く理解していただくことが何よりも重要です。会社が大きくなるにつれて、こうした小さな仕事が疎かになりがちですが、小さな仕事の積み重ねは、やがて大きな信頼につながっていくのです。

売れる仕組みづくりがシール・ラベル成功の鍵

ーー貴社の強みや、他社との差別化のポイントは何でしょう?

松口正:
シール・ラベルというのは、でき上がった製品にはほとんど差がありません。弊社は何が違うかというと、ラベルのつくり方に工夫があります。

シール・ラベルはロットが少ないため、準備時間に対して印刷時間が短く、儲かりにくいという性質があります。それならば、「儲からない仕事も数を集めれば勝てる」と算段し、他の会社がやりたがらないラベルづくりを数多く引き受けることを重視しました。

1つの仕事はロットが小さいため、数を集める手段として代理店方式を採用しました。トレーなどを扱う包装資材会社に「プラスα」としてラベルも売ってもらえるよう、利益率を確保した価格で卸しました。

代理店価格を見た同業他社からは「安売りしすぎだ」とよく言われましたが、弊社は安くつくる仕組みを整えたことで、適正価格で利益を出すことに成功しました。仕組みができていない会社はただ安売りをするしかありません。そこに大きな差があります。

本質を見極め、ビジネスの動向を探る

ーー社長の経営手法やアイデアはどこから湧いてくるのでしょうか?

松口正:
「世の中の仕組みや本質はどこにあるのだろう?」と常に考えています。疑問に対して自分なりの回答を頭に入れて過ごしていると、ふとした瞬間に自分の考えていた回答の答え合わせができます。そうした思考を積み重ねていくことで、本質を見極める力が付き、ビジネスの動向も読めるようになってくるのです。

ーー若い世代の方に向けて、メッセージをいただけますでしょうか。

松口正:
やはり本質を見抜く訓練をやってほしいと思います。ただ、若い頃はいろいろと興味を持ち挑戦すべきだと思いますが、若気の至りで何でも許されるというわけではなく、業界のルールの中でどれだけ力を発揮できるかを考えなければいけません。

ルールというのは相対的なものであり、変化する部分と不変である部分が存在します。若い頃は変化を追い求めがちですが、常に変えることにとらわれてしまっては、自分自身を見失ってしまいます。本質を見抜き変化するルールを見極めることが、ビジネスを捉えることにつながります。

大先輩から受け継いだ禅の教え

ーー好きな言葉や、座右の銘はありますか?

松口正:
大先輩から教えていただいた「随所に主となれば立処皆真なり」という言葉を常に心に置いています。置かれた環境や立場でそれぞれのなすべき務めを精一杯果たせば、必ず真価を発揮できるという教えです。

また、適材適所という言葉がありますが、「今、この場所で頑張っている人に、もっと輝ける場所を与える」ことが本来の意味であって、「単に成果が出ていないから他の場所に移る」ということではありません。

一生懸命努力している姿を見ないと、その人の能力が最大限に発揮できる場所を見つけることはできません。成果が出ていないのは、今いる場所のせいなのか、自分のせいなのかどうかは、努力してみて初めて分かることなのです。

ラベルをもっと身近な存在に。そして世界へ

ーー今後の展望を教えてください。

松口正:
弊社が扱う製品の70%は食品関係なので、日本の人口が減るにつれて当然ながら食品ビジネスも減少していきます。海外の方々にも私たちのノウハウを使っていただきたいですし、将来性のことも考え今後は輸出の比率を上げていきたいと考えています。

また、環境負担を軽減できる新しい包装資材の開発や、ラベル貼りの機械をもっと身近に使っていただけるような開発をして、それをサブスクで使えるようにするなど、人手不足解消の一助としてお気軽に活用していただけるよう提供していきます。

編集後記

小さなシール屋から始まり、親子3代で総合パッケージグループ企業にまで発展させた松口社長。今後は世界に向けてのビジネスを展開するべく、日本酒のパッケージにも意欲的で、「もっと手軽に世界で日本酒を楽しんでいただけるように、予想外の製品を開発していきたい」と楽しそうに語る。OSPグループの今後に目が離せない。

松口正(まつぐち・ただし)/1959年大阪生まれ。1982年関西大学工学部卒。1982年大阪シーリング印刷株式会社に入社、1993年代表取締役社長に就任(現任)。2013年には株式会社OSPホールディングス代表取締役社長に就任(現任)。2015年、紺綬褒章受章。大阪シーリング印刷株式会社 代表取締役社長、株式会社OSPトレーディング代表取締役社長、オークテック株式会社代表取締役社長を現任。