※本ページ内の情報は2024年2月時点のものです。

福助機工株式会社を中核とする福助機工グループは、国内4社、海外5社ある機械設備・部品・工具・鋼材などの販売・製作・設計・メンテナンスを行うエンジニアリング会社だ。

創業以来4代にわたり創業家が代表取締役社長を務めてきたが、今回初めて創業家以外の者が経営トップを務めることとなった。

「中継ぎ経営者」として、責任を持って次世代の創業家に確実にバトンを渡すべく、2022年4月に代表取締役社長に就任した竹谷真也氏に心境などをうかがった。

予期せぬ社長の大任を受け入れる

ーー社長になった経緯を教えてください。

竹谷真也:
弊社は1915年に井河原商会として初代社長の井河原敬治郎が創業してから、井河原一族が経営しているオーナー企業です。

私は生え抜き社員ではなく、中途入社です。2006年に神戸事務所に配属された後、横浜事務所を立ち上げ、グループ会社の中国の大連工場に駐在しました。帰国後、プロフィットセンター部門の本部長と取締役を兼任してから数年後、「社長になってほしい」とお話をいただきました。私の社歴は16年ほどと浅く「そんな器でもない」と思っていたので、とても驚きました。

ーー現会長から「任せたい」と言われたときの心境についてお聞かせください。

竹谷真也:
弊社のグループ会社を含めた社員は270人強、家族を含めると1,000人以上になります。社長になるということは、彼らに対しての責任を負うということで、とても難しいと感じました。

私は高学歴でもないし、能力も高くありません。他の人より抜きんでていると自負しているのは経験値です。海外の仕事でジャングルに住むなど、普通ではあまりないような経験もしています。

これらのことから、必死になれば道は開くことを学びました。社長という仕事は確かに厳しいでしょう。しかし、この会社をより良くして若い世代につなぎ、200年300年と続くためには「中継ぎ役」が必要だと思い、おののきながらも引き受けさせていただきました。

メンテナンス事業に舵を切る、新たな挑戦の始まり

ーー社長就任から1年が経ちましたが、事業などはいかがでしょうか?

竹谷真也:
弊社の事業分野はモノづくりに関する材料・機械・装置・器具などの卸売り、輸出入貿易、機械メンテナンスなど幅広く手掛けています。しかし昨今の環境に関する時流の変化により発電事業の在り方に変化が出てきました。マーケットの一つである石炭火力発電は縮小しますので他の原料を用いた発電装置へのシフトに弊社も追随するのですが、石炭火力程度の規模になるにはしばらく時間がかかりそうです。また、弊社が携わっている造船業界のマーケットでも、中国・韓国のシェアUPや環境規制問題等課題が多いです。

上述のようにマーケットの変化はありますが、完全になくなるわけではありません。既存事業を維持しながらも新たな事業の開拓が不可欠なのですが、新規事業の準備には最低でも3年かかります。

冷静に考えて出した答えは「メンテナンス事業に特化する」ことでした。

ーーメンテナンス人材をどのように集めたのですか?

竹谷真也:
メンテナンスの仕事は、人材があってこそ成り立つものです。エンジンメンテナンスを軸としたメンテナンス事業に力を入れていくことの一環として、大手ゼネコンの関連会社から弊社に1人派遣していただきました。大手ゼネコンでは日本各地の島嶼域の施設運営を手掛けています。弊社も離島に顧客がありますので、ノウハウなどを吸収していきたいと思っています。

厳しい練習で培った「責任感」が支え

ーー強い責任感を持っておられる印象ですが、何かきっかけがあるのでしょうか?

竹谷真也:
高校時代、私は運動部に所属していました。昭和の時代でしたので、とても厳しい練習でした。「強くなろう」と誓い合った友人たちと共に切磋琢磨し、「日本一」を目指したいと大学進学後も同じ運動部に入りました。

全国制覇も狙えるほどの有名なところでしたので、日本中から腕に覚えのある者が200人以上応募してきます。けれど、実際に試合に出られるのは20人程度です。私は地獄のような練習を耐え抜き、選手としてグラウンドに立ちました。

「責任」という話でしたが、恐らく、このときに培われたと思います。試合中、自分のポジションの責任を果たさなければ、チームは負けてしまいます。青春時代を捧げたこの運動部での経験で、「責任を果たす」ことが骨の髄まで染み込んだのでしょう。社会人になって、嫌なことや死にそうになったこともありましたが、踏ん張ることができたのは、この部活の経験があったからだと今では感謝もしています。

「根っからの体育会系の私が社長をやって良いのか」と思う方もいるかもしれませんが、オーナーがすべて理解した上で「それでよし」と任命しているので、問題ないのでしょう。

大事なことは「失敗をしても、とにかく最後までやり遂げる」こと

ーー若い人に向けて、何かメッセージをいただけますか。

竹谷真也:
結果を問わず、やり抜くことが大切だと思います。何かを始めたら、途中で投げ出したり、後戻りしたりせず、大事なのは失敗しても最後までやり遂げることです。失敗の経験も必ず肥やしになります。もちろん、困難なときにはつい放棄したり、逃げ出したりしたくなるものです。しかし、何より大切なのは自分の信念や考え方、計画を最後まで貫き通すことです。そうすることで、必ず何かを学んだり、成長したりすることができます。

また、一生懸命に取り組む人は、周囲から温かい応援とサポートを受け、失敗したときには手を差し伸べられることが多いです。これは、目標に向かって真摯に努力する姿勢が、周囲の人々の心を動かし、「なんとかして成功させたい」と思ってもらうことにつながるからです。

ビジネスは、1人の力だけでは限界があり、周囲の協力を得て、目標に向かって力を合わせることが重要です。そのためには、自分が決めたことを最後までやり遂げる責任感と覚悟が欠かせません。そうしないと、失敗したときに周囲からは自業自得と思われてしまうでしょう。このようなことが、最終的にはチームの力になるのだと思います。

編集後記

責任感と男気に溢れる竹谷社長の語る口調は柔らかいものだった。あまたの場数を踏んできた経験に裏打ちされた信念には揺るぎがなく、中継ぎ経営を任されたことも納得がいく。

今回話には出なかったが、福助機工グループはサービス業界などの人手不足の業界に、配膳などのロボットを展開している。日々変わる時代の流れや市場環境への速やかな対応力に多大なる可能性を感じた。

竹谷社長の挑戦に、これからも注目していきたい。

竹谷真也(たけたに・しんや)/1963年2月生まれ。日本大学卒業。東京にあるエンジニアリング会社勤務を経て2006年1月福助機工株式会社に入社。2022年4月代表取締役社長に就任。国内4社、海外5社あるグループ会社の力を結集させ、さまざまな業界で役に立つ企業を創っていきたいと考えている。