※本ページ内の情報は2024年2月時点のものです。

値段を下げてそれなりの品質の商品を提供するか、あるいは価格競争に乗らず高品質な商品を提供するかは、多くの経営者が悩まされる問題だ。

牧野フライス精機株式会社は、激化する価格競争の流れには乗らず、高い技術力とそれにふさわしい販売価格を貫き、工具研削盤業界の国内トップシェアメーカーとして立ち続けている。

「お客様に10年後、20年後も買って良かったと思ってもらいたい」と語る同社の取締役社長、清水大介氏に、人々から求められる企業の強さの秘訣を聞いた。

リーマン・ショックは会社の方向性を考え直すひとつのきっかけだった

ーー社長就任後に苦労されたことなどを教えてください。

清水大介:
弊社は家業として父が経営を担っていたため、会社を継ぐ意思はもとからありました。入社初日に初めて会社に来て、その1週間後に社長に就任したのです。

社員たちは、私について先代の息子だということしか知らなかったため、最初は自分のことを分かってもらう必要がありました。さらに、弊社は技術が売りの会社ですから、製品の知識をゼロから勉強しなければいけない。就任当初は、この2つが大変でしたね。

また、ちょうどその頃リーマン・ショックが起きて、業界全体が大きな打撃を受けました。工作機械業界の受注総額が8割ほど落ちて、最悪な状況からのスタートだったと思います。

ーー大変な状況の中で社長になって、感じたことはありましたか。

清水大介:
リーマン・ショックで、弊社の受注も8割減になるなど、業績がどんどん悪化しました。その一方で、弊社の抱える問題や悪い点がよく見えるようになったとも感じました。

これまでは日々の業務が忙しくて問題点に目が行き届かなかったのですが、受注が減ったことで、弊社が改善すべき点がより明確に見えるようになったのです。会社がこれからどういった方向に進むべきなのか、このタイミングで社員たちにしっかりと示すことができたと思っています。

「値段のわりに良い商品」ではなく「業界でトップをとれる商品」へ

ーーリーマン・ショックをきっかけに、どのような方向に経営の舵を切ったのでしょうか。

清水大介:
まず、高付加価値路線で製品戦略を立てました。今まで弊社の商品は「値段のわりに良いよね」という評価をされることが多かったのですが、「そこそこのレベルの製品」ではなく「業界でトップをとれる製品」をつくることを目指しました。

実際に、弊社のフラッグシップモデルである工具研削盤「AGE30」は、当時売れ筋だった機械の2倍の値段ですが、お客様は受け入れてくれました。

もう1つは、海外市場への積極展開です。経営の安定化を図るのであれば、日本だけでなく海外も視野に入れる必要があると感じました。また、海外に進出するお客様をしっかりとサポートするためにも、大きく舵を切りました。

10年後、20年後にも「買って良かった」と思われる会社を目指して

ーー清水社長の会社や製品にかける思いをお聞かせください。

清水大介:
私は弊社の商品を買ってくれたお客様に、10年後、20年後になっても「買って良かった」と思っていただきたいのです。入社したての頃、お客様に「あなたのところの商品を買ってから、とても助かっている」と言われて、体に電気が走るようなほどに嬉しかったことを覚えています。

弊社の商品をお客様に使い続けていただき、お客様の利益につなげてもらいたい。そのためにも、製品戦略の転換や海外市場への展開が必要だと思っています。

ーー貴社の強みはどういった点にあると思いますか。

清水大介:
工具研削盤業界で、国内トップシェアを誇っていることです。とてもニッチな業界なので高精度な製品をつくれる会社自体が少ないのですが、その中でもトップメーカーであり続けています。

また、世界で唯一の技術も持っており、世界最高水準の工具研削盤をつくれるのも弊社の強みです。

今後は人手不足の問題に貢献する自動化技術に注力したい

ーー今後の方針やビジョンについてもお聞かせください。

清水大介:
価格競争は回避して、技術の開発によりいっそう力を入れていきます。

また、高い精度をいかに安定して保ち続けるかについても引き続き考えて、技術開発を行っていきます。そのほか、自動化の研究開発にも注力したいと思っています。

ーー自動化の技術開発とは、具体的にどういったものになりますか。

清水大介:
たとえば弊社では、カメラで加工物を測定した結果、設定された閾値(しきいち)から外れていることが分かれば、自動で補正されるプログラムを搭載した製品を開発しました。

お客様の中には、機械を動かす人手が足りず困っているケースが少なくありません。こういった製品を開発することで、人手不足の問題解消に貢献できると考えています。

編集後記

清水社長は同社の魅力について「この業界はニッチですが、弊社にはその中でも世界トップが視野に入る高い技術力がある。また、海外進出にも積極的なため、海外に興味がある人にはチャンスのある環境です」と語った。

技術力を高めることに一切妥協せず、海外市場へ積極的に挑戦する牧野フライス精機が、日本を代表するメーカーとして世界トップに立つ日が楽しみだ。

清水大介(しみず・だいすけ)/1977年神奈川県生まれ。2000年、慶應義塾大学商学部卒業。2002年、英国ノッティンガム大学大学院修了(マーケティング)。2003年、日本精工株式会社に入社。2008年牧野フライス精機株式会社に入社し取締役社長に就任。