※本ページ内の情報は2024年1月時点のものです。

株式会社隅田鋲螺(びょうら)製作所(1941年創業)は、ものづくりのメッカである東大阪市に本社を構え、全国各地に営業拠点を持つ創業80年超のネジ類専門商社。

全国津々浦々、500社以上の仕入れルートに2000社以上の顧客を擁し、群を抜く取引数を誇る。そこには品質・価格帯、用途に応じた最適なアイテムを提案する、工場を持たない「ファブレス」ならではの戦略があった。

2019年に会社を引き継いだ代表取締役社長の隅田貴昭氏に、独自戦略や経営理念について話を聞いた。

営業戦略を立てるため社内の見える化を推進

ーー入社するまでの経緯を教えていただけますか。

隅田貴昭:
幼少の頃から会社を継ぐように言われていましたので、社長になる自覚を持って育ちました。大学を出てからは社会勉強のために「3年間は好きにしていい」と父に言われ、大手の飲料メーカーに就職しました。

就職して1年目はほとんど研修でしたが、2年目3年目と営業活動を進めていくうちに、人を大事にする重要性を学ぶことができました。いろんな仕組みやサービス内容があるにせよ、人とつながることで自然と成績が上がるのを体験できたのは大きな収穫でしたね。

組織の仕組みなど営業以外についても勉強したかったという望みどおり、福利厚生を詳しく知ることができたのも良かったですね。

有休についての考え方や、当時はまだ浸透していなかった確定拠出年金の知識などを吸収できたのは、その後の経営に大いに役立ちました。

3年を経て弊社に入社したときは、倉庫番からスタートし、徐々に営業補助や見積もりの作成なども担当しました。それから青森県の営業所や札幌営業所で経験を積んだ後、本社に戻り、経理を担当するなど少しずつ経営に近い仕事も覚えていきました。

ーー社長就任当時に苦労されたことは何でしょうか?  

隅田貴昭:
入社したときにリーマン・ショックがあり、社長就任時にコロナショックが起こりましたから、ずいぶん運命的な巡り合わせですが、それがあったからこそ鍛えられた気もします。

社内では、30歳で専務に就任した時からすでに会社の運営をほとんど任されていました。ただ、当時は前社長と意見の対立が多く、前社長がかわいがっていた方が会社を辞めていったのは辛かったですね。

その頃手がけたのは、システム刷新による営業実績や売上の履歴などの見える化です。セクションごとに管理して経費を可視化し、「利益がこの水準なら走っていける」、「もう少し利益を上げるために新しいことを始めたら」など、社員に投げかけができるようになりました。

これをきっかけに採算意識を全員に持ってもらい、営業戦略を立てるのにも役立ちました。

ユニークな社内制度でコミュニケーションを強化

ーー他社にない独自の取り組みがあれば教えてください。

隅田貴昭:
経営理念が浸透しきれていないと感じていましたので、そうした課題を解決するために最近、遠方への「合宿」を実施しました。

尊敬する経営者が長野県にいらっしゃって、「性善説」をもとにしたその方の話をぜひ社員にも聞いてほしいと思ったのです。長野県の森の中のキャンプ場に係長以上が全員集まって、経営理念に基づく行動規範を皆で決める機会を設けました。

それ以外にも普段から取り組んでいるものに、「サンクス制度」というものがあります。社内外で感謝したい出来事や助けられた経験があった場合、それに対して「いいね」をするか、コメントで感謝の意を表す制度です。誰しも褒められるとうれしいもので、話題づくりにも寄与しています。

また「趣味手当」という、年間2万円を支給して趣味に使ってもらう制度もあります。社内グループウェアでの発信をしてもらいますが、趣味を通じてリフレッシュすることや、身近な人の意外な志向を知り、社内のコミュニケーションを高めるきっかけとしても機能しています。

多くのサプライヤーを抱えるアドバンテージを活かす

ーー他社をリードするのはどのような点でしょうか?

隅田貴昭:
まず、品質管理の方針を徹底しているところです。長年の社歴ということもありますが、資格を持った社員がいるので、研修を実施して品質向上を常に怠らないようにしています。

さらに、専門商社ですから顧客への提案は最も得意とするところで、価格や品質など出された条件をもとに最適なアイテムへと導くことが可能です。

いつでも付加価値の付いた商品をお客様に提供できる点が、独自の差別化ポイントといえます。

また500社を超える圧倒的なサプライヤーの数が特長です。仕入れは弊社にとって肝心要の部門ですから、常時開拓して絶やすことのないよう心がけています。

必要なときにすぐに調達できるよう、新規の開拓を各営業担当者に任せているのも1つの戦略です。

これによって取引口座が増え、煩雑に見えますが、データベースで管理・コントロールしているため、ネックになることはありません。

編集後記

経営理念の話題で隅田社長は「支えてくれる会社があるからこそ私たちの商売が成り立っている。周りの企業に喜んでもらえる会社にしたい。人が幸せになるために活動していることを、社員に浸透させたい」とコメントしている。

経営者としての高い倫理観をうかがうことができた今回の談話。企業としても、さらなる進化を期待させるインタビューとなった。

隅田貴昭(すみだ・たかあき)/1982年、北海道生まれ。桃山学院大学卒。大学卒業後は大手飲料メーカーで営業を学ぶ。その後2008年、株式会社隅田鋲螺製作所に入社。2019年、同社代表取締役社長に就任。