※本ページ内の情報は2023年11月時点のものです。

ラーメンチェーン「喜多方ラーメン坂内」を展開する株式会社麺食(東京都)は、1988年の創業から店舗数を順調に伸ばし、海外を含め70店舗を超えるまでに成長してきた。

現在までに大きな変動はいくつもあったが、中でも大きかったのは中原誠氏の代表取締役社長就任だろう。2012年に2代目として跡を継いだ翌々年には初の海外進出を果たし、就任時20億円前後だった売り上げを2倍以上に伸ばしている。

外食産業に大打撃をもたらしたコロナ禍にも柔軟に対応し、被害を最小限にとどめてきた実績も光る。社長就任前のエピソードや100店舗を目指すという今後の戦略について話を聞いた。

ワンマン経営を脱して組織強化を誓い社長に就任

ーー入社までのエピソードをお聞かせください。 

中原 誠:
小さい頃から“ほとんど家にいない”父とは険悪な関係だったこともあり、ラーメン事業を営む家を継ぐ気はまったくなかったです。ただ、いつかは自立して身を立てたいという気持ちは強くありました。

大学を出て第一勧業銀行(現みずほ銀行)に入行し、外食の宝庫である渋谷支店配属となったのは起業を目指す自分にはいい刺激となりました。その後は外食の現場経験を求めて退職し、ベンチャー・リンクに入社、その後グローバルダイニングに入社しました。

外食の経験を積んだ後も折り合いの悪かった父の会社に入るつもりはなかったのですが、1997年に母が亡くなってから様相が一転。「家族を助けないといけない」という気持ちが強くなり、跡を継ぐのを覚悟のうえで2005年に入社する決断をしました。


ーーそのあと社長に就任されたということは、お父さんとの関係は改善したのでしょうか?

中原 誠:
元銀行マンですから、仲は悪くても業績資料を見て商売人としてリスペクトする気持ちはありました。しかし当時の会社は「社長が気に入りそうなアイデアを出す」という典型的なワンマン経営に陥っていて、創業時の2人のメンバーも会社から出てしまうなど、繁栄期から衰退期に向かっている状況でした。

「このままでは次のステージに行けない。中原家の私物ではなく組織化していきたい」と父を説得し、最終的には社長を交代するに至りました。

コロナ禍はアメリカ出店のおかげで大損害を免れた

ーー外食企業としてコロナ禍の影響はいかがでしたか?

中原 誠:
大きな打撃でした。店も10店舗以上閉めましたし、人もかなり入れ替わりました。32億円ほどあった売り上げが一気に20数億円まで落ちたのですから大変です。

その点、アメリカに進出していたのは良かった。日本と違ってアメリカでは1億円の助成金をすぐに出してきたんです。しかも従業員を解雇しないなど条件を満たせば返済しなくていいという制度でしたから大いに助かりました。

デリバリーもテイクアウトも以前はなかったのですが、やむを得ず採用したところ、コロナ前の売り上げ1500万円に迫る1300万円まで回復しました。今では7店舗となったアメリカ出店に早くから着手していたおかげで、会社全体の収益をカバーすることができました。

ドイツ進出を足がかりに日本の食コンテンツを世界に広めたい

ーーアメリカに続く海外出店の計画があれば教えてください。

中原 誠:
ヨーロッパ進出の先頭を切って、来春ドイツに出店する計画があります。
日本の食が外国の資本で利用されているのが現状です。国内にこれだけおいしいものがあるのに、日本人自身がもっと外に出さないともったいないと思います。

運よく大手商社出身でロンドン在住の方のスカウトに成功しましたので、ヨーロッパの責任者として活躍してもらいます。また10年かかるかもしれないですが、アメリカ同様ヨーロッパでも店舗ビジネスとして大事に育てていきます。

ーーFC店の割合と今後の店舗展開をお聞かせください。 

中原 誠:
全70店舗のうち、割合は直営1にフランチャイズ2にしています。
入社した2005年当時は直営は1割未満でしたが、チェーン一丸となってブランドをもう一度整えたいと思ったときに、直営1割だとうまく動かせなかったんです。

やはりFCは違う経営母体の人で、お金を出すのも違う人ですからね。いざというとき、社会にインパクトを与えるまでに時間がかかってはいけないので、3分の1は直営で運営する方針です。

コロナ禍から回復してきた今がチャンスですから、多店舗展開を継続していきます。喜多方ラーメンだけで国内100店舗を目指し、海外でも現在の7店舗から2倍以上に増やしていく予定です。

編集後記

外食店での人材確保が難しくなる中、麺食では特定技能制度で外国人スタッフの積極採用を進め、自社だけでなく育てた人材を他社に紹介する計画もある。
それに加え、スペインから直接買い付けるラーメン用のチャーシューを同業者に販売するプランもあり、オプションは豊富だ。

次の時代を見据えた多角的な経営にも抜かりがない中原社長。これからのチャレンジを楽しみに追っていきたい。

中原誠(なかはら・まこと)/大学卒業後、第一勧業銀行に勤務。同行を退職してベンチャー・リンクに入社。その後、グローバルダイニングへ入社し、外食経験を積んだ後、2005年に父の明氏が経営する㈱麺食に入社。2012年、同社代表取締役社長に就任。2014年に海外1号店を米国カリフォルニア州にオープンした。