※本ページ内の情報は2025年2月時点のものです。

「お客様のために」その思いから生まれた小さな挑戦が、今や保険業界のスタンダードとなっている。1999年、「お客様は来ない」といわれている中で始めた来店型保険ショップ「保険クリニック」。その先見性が業界の常識を覆し、新たな市場を切り拓いた。

さらに、独自開発したデジタルシステムは、保険業界のDXを牽引する存在に成長している。運営するのは株式会社アイリックコーポレーションだ。創業者で代表取締役社長CEOの勝本竜二氏に「保険クリニック」誕生の背景や、同社が手掛ける他事業についてうかがった。

「保険クリニック」が築いた新しい市場価値

ーー貴社設立までの経緯をお聞かせください。

勝本竜二:
高校卒業後、信用金庫と、外資系保険会社のアメリカン・ライフ・インシュアランス・カンパニー(現メットライフ生命保険株式会社)で経験を積みました。保険会社の仕組みを理解した上で、独立を目指し友人と3人で立ち上げたのが、株式会社ファイナンシュアランスです。富裕層や法人向けに保険を活用した節税や相続対策のコンサルティングを提供しました。バブル崩壊後という時代背景もある中で、初期の事業は好調に進みました。

しかし、次第にその熱が落ち着くと、富裕層と法人だけを対象とするビジネスモデルでは継続が難しいと感じました。保険業界の基盤を支えているのは、一般家庭を含む幅広い個人層だからです。そこで、より幅広い層に向けてコンサルティングを提供できる仕組みを模索しました。1995年に現在の会社を設立するとともに「保険クリニック」という新たなサービスを発案し、1999年に開始しました。

開始当初は「保険を比較するなんてとんでもない」「お客様は来ない」といった周囲の反対や批判も多くありましたが、半年ほどで安定してお客様が訪れるようになりました。

ーー貴社の事業内容と強みについて教えてください。

勝本竜二:
現在は「保険クリニック」の運営に加え、保険販売に関するデジタルソリューションの提供、グループ会社を通じた業務用システムの開発・販売も行っています。

「保険クリニック」は「保険の見直し」という点でトップクラスの顧客満足度をいただいています。高い満足度の背景には、自社開発の専用システムを駆使し、過去の状況を綿密に分析した上でのコンサルティングがあります。このシステムを開発したからこそ、デジタルソリューション事業の展開が実現したのです。

お客様第一主義が生んだ「三者利益の共存」

ーーシステム開発に取り組むきっかけは何だったのですか?

勝本竜二:
保険業界は、人と人とのやり取りによって契約が成立するため、デジタル化が遅れていた業界でした。カナダを訪れた際、30年以上前の当時でも、情報を入力するだけで保険商品が一覧表示されるシステムを目にし、大きな衝撃を受けました。

システムの必要性を感じていたところ、偶然、システムエンジニアの兄が、独立を決めたのです。そこで、兄弟でじっくり話し合い、現場の声を取り入れ、約3年かけてシステム開発を進めました。現場のニーズを最大限反映したシステムを構築したことで優位性を獲得し、現在も保険販売システムとしては競合が少ない状態を維持しています。

さらに、開発過程で生まれた機能を独立したシステムとして提供することで、より幅広い企業や行政機関の支援も可能になりました。

ーー運営上で大切にしていることは何ですか?

勝本竜二:
保険を販売するときに、保険会社ではなくお客様と向き合って仕事をするということが、最も大切だと考えています。弊社の企業理念は「三者利益の共存」です。お客様、保険会社、そして弊社の三者全てが利益を得られる状態を目指しています。そのためには、お客様に最大の利益を提供しながら、保険会社と弊社の経営も盤石でなければなりません。

実際、システムがなくても業務を行うことは可能でしたし、短期間で簡易的なシステムをつくることもできました。しかし、本当にお客様のためを考えれば、優れたシステムをつくり、偏りのない良いサービスを提供すべきだと判断したのです。形のない商品だからこそ、お客様が実感できる形に変えることで、正しい選択ができる環境を整えたいと考えています。

また、経営ビジョンとして、弊社を構成する従業員の物心両面での幸せの追求を掲げています。コロナ禍で多くの直営店が営業停止に追い込まれる中でも、全社員に基本給満額を支給しました。今後も従業員の昇給を目指し、売上拡大に取り組む方針です。

ソリューションの拡充と店舗増加の拡大路線

ーー社風や、どのような人に来てほしいかをお聞かせください。

勝本竜二:
弊社は社員同士の距離が近い会社です。コミュニケーションを大切にしており、新卒向けに私の自宅を開放して飲み会を開くこともあります。

必要な能力は部署ごとに異なりますが、特に店舗で働く場合は、相手の話をしっかりと聞ける力が最も重要ですね。たとえば、社長賞を受賞した優秀な従業員は、初回の面談ではほとんど自分から話さなかったと語っています。

ーー今後、どのような取り組みをしたいと考えていますか?

勝本竜二:
ソリューション事業に、特に力を入れていきたいと考えています。弊社は1999年から『保険クリニック』を運営していて、保険に関する様々なノウハウがあります。

これまでは保険加入の「入口」にあたるソリューションを提供してきましたが、今後は「出口」にも注力します。具体的には、保険金請求を簡単に行えるシステムを、他社と協働で開発中です。これが完成すれば、診療明細書を写真で撮って読み込むだけで保険金請求が可能になります。

また、保険募集人(生命保険や損害保険の勧誘や販売を行う人)向けプラットフォームの開発も進行中で、来年にはリリース予定です。このプラットフォームでは、保険募集人と保険会社が直接コミュニティ内で意見を交換し、率直なフィードバックを得られる仕組みを構築します。

さらに、AI-OCRシステム「スマートOCR」は、すでに国勢調査や確定申告でも活用されていますが、保険業界以外にも用途を広げていきたいと考えています。

ーー「保険クリニック」の今後の計画についても教えてください。

勝本竜二:
「保険クリニック」は現在、直営店、子会社、フランチャイズを合わせて約280店舗を展開していますが、今後は更なる店舗の拡充に力を入れてまいります。2025年6月期には90億円超の売り上げを見込んでいますが、短期的にはまず100億円の達成を目指します。2025年6月期は3か年計画の一区切りとなる時期でもあるため、次の3か年に向けて思い切った戦略と目標を掲げていきたいと考えています。

編集後記

時代を先取りし、「保険クリニック」を立ち上げた勝本代表は、システムやデジタル化ソリューションの分野で先駆者としての地位を築いた。

複数の事業によって安定した売り上げを積み上げる中、「三者利益の共存」と「従業員の物心両面の幸福」を掲げる同社の取り組みは、売上高100億円の達成も視野に入っている。その先には、どのような新たな革新が生まれるのだろうか。株式会社アイリックコーポレーションの今後の展開が楽しみだ。

勝本竜二/石川県生まれ。高校卒業後、地元信用金庫に入庫。アメリカン・ライフ・インシュアランス・カンパニー(現メットライフ生命保険株式会社)を経て、1990年、法人向け保険代理店、株式会社ファイナンシュアランスを創業。1995年株式会社アイリックコーポレーションを設立し、代表取締役社長CEOに就任。