※本ページ内の情報は2023年11月時点のものです。

佐藤医科器械製作所は、京都で1907年に創業し、ステンレスをメインとした精密板金加工を手掛ける老舗メーカーである。

老舗の家業を「もともと継ぐ気はなかった」という佐藤進平社長。株式会社キーエンスの営業マンから転身、老舗企業を継ぐに至った経緯や会社の将来像について伺った。

社長になるまでの「修業時代」

ーー入社される以前は、あのキーエンスの営業マンだったそうですね。なぜ家業を継がれることになったのでしょうか。

佐藤進平:
社会人になるときには、いろいろな業界にまたがるような職種を探していたんです。当時は、ベンチャーやIT企業の勢いがよく、たとえばコンサルティング職などが頭にありましたね。よくよく思考を巡らせたところ、どの業界にも通用する職種に「営業があるじゃないか」と気づいたのです。

そこでキーエンスに営業として入社しました。知名度はそこまではない時代ですが、数字や目標を追いかける修行ができたと思っています。

しかし、ある程度自分で仕事をまわせるようになると、決定権や裁量が限られていることで刺激が薄れていく感覚に陥ることもありました。そういう心境の変化もあって、6年間キーエンスで働いた後、家業を引き受ける決心をしたのです。

入社して初めてしたことは自分のPCを買いに行く雑用でした。大企業なら、社員番号を割り振られ、PCを渡され、と入社の手続きが進みますよね。そういうのとは全く違い、自分で何でも作っていく必要がありました。たとえばネットワーク上の社内ストレージにPCをつなぐ、なんていうのも自分でやるわけです。書類の整理も行いました。

会社の課題への気づき

ーー大手から中小企業に移籍して気づいたギャップ・課題に対してどのように向き合うことになったのでしょうか。

佐藤進平:
もともとうちにも進捗や数字を管理する仕組み自体はありました。しかし、期待値との差をもっと詰めてきっちりやっていく、というアプローチが必要でした。

社内の各グループに指標を設けて、日単位で「儲けが出ているか、出ていないか」について検証をしています。さらにその数字の分析とか、あるいはギャップなどをちゃんと突き詰めていくんです。そうすると数字が変わっていきます。

また、自動化の流れに乗って設備投資をしていく必要があり、ロボットの溶接機を入れるなど刷新を図りました。

ただ、「売る」「つくる」というキーワードについてはある程度課題を明確化して対応できてきたのですが、「人」という課題が大きく立ちはだかっていました。特に採用面での課題があったと感じていましたね。

技術を支えるための採用戦略

ーー採用戦略・採用の工夫として注力されていることを教えてください。

佐藤進平:
まずは外面で魅力が伝わるように、面接を受ける方以外にも外部からの工場見学を受け付けて、仕事内容について説明をするようにしています。

見学をされる方はたとえば「製品の技術力がすごい」などといったことよりも、「工場がきれい」や、「20代が多そう」「挨拶をしてくれる」といったところを見るのではないかと思いますので、できるだけ好印象を与えられるように努めています。

ーー貴社にフィットする人材とはどんな人材なのでしょうか。

佐藤進平:
弊社の掲げる行動指針に合致するような人かどうかということかなと思います。
大きくは何事も前向きに取り組んでもらえる人かどうかということ。あと何かしら挑戦をしてもらえること。
挑戦の大きさとなると人それぞれで、すごいことができる人もいれば、そうでない人もいると思いますが、「昨日よりも今日できていることが増えている」というのが大事だと思います。あと、人の悪口を言う人は微妙だなと思ってしまいますね。

会社の「成功」と次世代への展望

ーー人材の面での成功、成果が出ていることは何ですか?

佐藤進平:
離職率が減り、最近は、従業員のお子さんの数が増えていることです。

会社にある程度安心感があるから子どもを持てるということがあると思います。お子さんが2、3人という世帯の従業員もいるので、それが一番の成功かなと思っています。

弊社で働いて生活することは難しいことではないと思いますが、世帯を持つ従業員の子どもがより良い教育を受けられるかどうかも非常に大事だと思っているので、子供を育てやすい環境を作ることができていると感じられて凄く嬉しく思っています。

子どもに十分な教育ができそうだと思える会社でなければ、家族を増やそうとは思いませんからね。

逆に、人が辞めてしまった場合とても残念ですが、考えを改め「やめた人が後悔するような、もっともっといい会社にしよう」と前向きに捉えるようにしています。

ーー今後の具体的な注力アクションについてお聞かせください。

佐藤進平:
外部から能力のある方を採用すること。そして、既存の戦力をさらに上げることを考えています。ただ、外部からといっても、すぐに能力を発揮することが難しい場合もありますので、その方に合ったポジションに着けて、しっかり経験を積んでもらって育てていくことが大事かと思っています。多少能力に不足があったとしても、「育てる」という方に重きを置いて人材育成を行っています。

内部登用にしても、中途採用にしても、期待する人物像というのはあります。アイディアやリーダーシップを持って仕組みづくりができる方、あるいは課題を見つけて改善していくことができる方です。そのような人材を獲得し、また育てていきたいと思っています。

編集後記

物事はつねに前向きにとらえると語る佐藤社長。数字として成果を着実に積む一方で、従業員が子どもを育てやすい環境を大切にする姿勢には、商売を超えた視野と新しい会社のあり方を感じさせられた。時代が急速に変化する中でも信念を貫き、従業員を深く気遣い、その未来までも見据える姿に老舗企業の底力を見たインタビューだった。

佐藤進平(さとう・しんぺい)/1983年京都府生まれ。同志社大学卒。2006年株式会社キーエンス入社。2012年株式会社佐藤医科器械製作所入社。2015年同社代表取締役社長に就任し、現在に至る。滋賀県シートメタル工業会役員も兼任する。