※本ページ内の情報は2023年11月時点のものです。

「コミュニティ」をキーワードに、ホテル・ブライダル・レストラン・ネットショップ事業と幅広く展開している株式会社ホロニック。産地や作り手といった「地域資源」との繋がりを重んじる代表取締役社長 長田一郎氏に、これまでの歩みと今後の展望を伺った。

父から受け継いだ「独立心」を探る

ーーまずは、社長にご就任されるまでの経緯をお話いただけますか。

長田一郎:
父が経営者だったので、学生の頃から独立や起業への思いがあり、準備の一つとして金融機関へ就職しました。

転職先の株式会社Plan・Do・Seeは、友人が社長を務めていたこともあり、のびのびと過ごせました。ブライダルをプロデュースする会社は当時希少で、新規事業を起こしている感覚にもなっていたと思います。

本社は東京にあり、関西での事業を僕が担っていました。その経験を生かして「自分も『社長』という立ち位置で勝負してみたい」という思いを形にして会社を立ち上げました。

ホテル事業のスタート――大きな負債が生んだ歪み

ーー経営者となったゆえのご苦労もあったのでしょうか。

長田一郎:
2004年頃にホテル事業を始める際は資金繰りに苦労しました。それまでは少ない資本で運営できる年商3億円程度の仕事が中心でしたので、大きな負債は初めてだったのです。

お金に関する僕の不安が伝わってしまったのか、従業員が辞めていくようになりました。平均就業期間を割り出すと0.3ヶ月というとんでもない数字です。

自身が「2番手で支えるタイプ」だったので、カリスマ性で会社を引っ張るよりもスタッフの個性を発揮させたいと思い、「ホロニック」という社名のルーツにもしました。しかし、その発想を当初は実現できていなかったわけです。

ーーどのような取り組みで改善に至ったのでしょうか。

長田一郎:
創業当時は新卒教育のノウハウがないと思い中途採用が中心でしたが、思い切って新卒採用も始めることにしたのです。

「人が辞めない会社を作っていこう」「会社に共感してもらえるようにしなくては」と考えるようになり、「従業員をたくさん褒める」など、以前はしていなかったこともやってみることにしました。

地域に根ざしたホテル事業の創出

ーー貴社が謳われている「コミュニティ創出企業」の作り込みは、創業当時からあったのでしょうか。

長田一郎:
「自立した個が集まり、調和したらもっと強い」という意味合いで、「コミュニティ」という言葉へのイメージは当時からありました。

「立地が良い」「温泉や遊園地が近い」などの強みがあるホテルに負けない業態を考えた時に、自分たちのポジションを「地域のコミュニティ型ホテル」と設定したのです。

地域資源にフォーカスしつつ、自分たちのホテルを目的地にさせることを意識しました。泊まるだけの空間じゃなく、そこで過ごすことで心が豊かになるようなホテル作りです。

地域の「人」にフォーカスしていく取り組みがベースにあり、地域の中で活動することに対して、こだわりや思いの強い人と協業しています。

地方創生に向けたECの強化

ーーオンラインショップを展開する目的をお伺いできればと思います。

長田一郎:
弊社は「地域資源の企画」においてホテル業に固執しているわけではなく、「商品」を通した企画も同じだと考えています。

たとえば、「セトレのカヌレ」などホテルブランドを活用した商品が広がっていくことで「セトレってホテルだったんだ。今度行ってみようか」ということも起こりえます。入口・出口の関係性ができて、地域資源という軸で繋がれたらベストですね。

ーーEC販売商品をより多くの方に届けるための構想もお持ちでしょうか。

長田一郎:
地元に住んでいる人が地域にプライドを持ち続けたり、遠くにいても関係性を維持したりできる地域創生こそ、一番の地域活性化をもたらします。

地域が元気になるお手伝いをミッションとして「生きがい・やりがい・働きがい」を持つ人が溢れたら良い社会になる、というのが僕の思いです。

たとえばふるさと納税のように、デジタルを活用した「企業のファン」作りをしていきたいと考えています。自分たちの企業姿勢に似た価値観の人たちを繋ぎ、コミュニティを築くことが理想です。

未来について――人材教育と次世代の社会づくり

ーー人材教育に関してはどのようにお考えでしょうか。

長田一郎:
年初や年度の初めに方針を伝える機会や、フェーズごとの研修はあるのですが、会社としての刷り込みは特にしていません。僕自身の考えはマンスリーレポートやブログという形で発信しています。

統制を図るための集合研修も少ないですが、地域で働く人たちによって「セトレって〇〇だよね」といった共通の理解が徐々に浸透し、自然と広まっていることを感じています。

ーー社内的に今後取り組んでいきたい部分があればお聞かせください。

長田一郎:
「売り手」「買い手」「世間」の「三方よし」は商売の原則ですけれど、それに「作り手」「地球」「未来」を加えて今年は「六方よし」を目指して運営していこうと決めています。

また、数十年後を担う世代に対して、理想とする社会や会社の存在を探っていけたらと考えています。学生を募って“未来創造最高責任者”として任命した当社のCFOからも吸収することが多いですね。

若い世代へのメッセージ

ーー若手の方々に向けてメッセージをいただけますか。

長田一郎:
今まで「優秀な人」の指標は偏差値や学歴が分かりやすい「正解」だったかもしれませんが、価値観の多様化により「1つの正解」がない時代です。

テストの点数など数字だけにとらわれず、想定できない事態にも備えられる人になるべきでしょう。これからは、自分の選択した答えを正解にする「意思の強さ」が必要になってくるはずです。

編集後記

金融業界出身でありながら、数字だけにとらわれない経営術でホテル事業を成功させた長田社長。人が離れず、集まるようになった企業の試みからは、コミュニティが希薄である現代に必要なものが見えてくる。


長田一郎 (おさだ・いちろう)/1967年生まれ、神奈川県出身。1994年、株式会社Plan・Do・Seeに入社し、翌年関西支社支社長としてハウスウェディングを数多く手掛ける。1998年に株式会社ホロニックを設立し、代表取締役に就任。2005年にホテル セトレ神戸・舞子を開業後、関西を中心にホテルを5店舗運営。