※本ページ内の情報は2023年11月時点のものです。

競走馬の輸送で、関西でトップクラスを誇る会社がある。鷹野運送株式会社だ。

今回は、25歳で会社を引き継ぐこととなった代表取締役である鷹野衛社長に、運送業界でも特殊な競走馬の輸送について話をうかがった。

先代である父の人望

ーー先代社長であるお父様から仕事を引き継いだ経緯は。

鷹野衛:
先代社長から「外で勉強してきなさい、いろんな経験を積んできなさい」といわれ、大学卒業後は株式会社PALに就職しました。アウトソーシングの会社で、物流大手の事業を一部請け負う仕事をしていました。

就職して丸1年経つかどうかの頃、先代社長である父が病気になり、余命が半年ということで、実家に戻って鷹野運送に入社することになります。
子どもの頃から父の背中を見て育ったので、やはりこの仕事をしたいという思いは少なからずずっとありました。
中学の時に将来の夢を語る授業があって、そのときに漠然とですが「競走馬の仕事がしたい」と思ったことを覚えています。

ーー若くして社長に就任されましたが、社内での反応はいかがでしたか?

鷹野衛:
先代が亡くなり、「もう自分の後ろ盾はなくなってしまった」「なんとかして会社を維持し、前へ進めていかなきゃいけない」という責任感や重圧はとてもありましたが、社長を引き継いだのが25歳の若輩者ということもあって、従業員の方々が本当によく助けてくれました。「支えてあげないといけない」という気持ちからだと思います。
これは先代の人望だと思います。先代がどのように従業員の方々と接してきたかを考えさせられました。

従業員の方々だけでなく、お客様方も同じでした。
社長が代わったからお客様が離れたということもなく、逆に支えてもらいました。
会社を継いで今年18年目に入りましたが、ここからは本当に恩返しをしていかなければと思っています。

ーー競走馬の運送というお仕事ですが、具体的にはどういったことをされるのでしょうか。

鷹野衛:
全国の開催競馬場に、競走馬を馬運車で送り届けます。無事に送り届けて当たり前、無事に連れて帰ってきて当たり前の世界で、その上でプラスアルファを求められるのが僕たちの仕事です。
レースに向けて、調教で完全に仕上がった状態の馬を競馬場へ送り届ける一番最後のところです。僕たちの仕事というのは、あまり表に出る仕事ではないと思っています。縁の下の力持ちですね。
競走馬はとても繊細でデリケートな生き物で、馬運車に乗った瞬間から車内の暑さや、走行中の振動や、いろいろなストレスで状態が崩れ出していきます。それを、いかに最小限に留めて送り届けてあげられるかどうかが重要です。

競走馬がレースで余力を残して、第四コーナー最後の直線の手前を回らせてあげられるかどうかがとても大事で、馬に対する気遣いが必要です。
個別に特別な輸送プランを作って輸送して、それが結果につながったとき、お客様から「ありがとう」とおっしゃっていただけた瞬間は1番嬉しく思います。

車両製造会社の設立

ーー2023年1月に新しい会社を設立されましたが、今後社長が取り組んでいきたいことは。

鷹野衛:
馬運車は、ベースは普通のトラックですが、競走馬のためにいろんな特殊加工を施してあります。

その馬運車を自分たちでつくるというのが新しい会社の業務になります。
これまでは業者と一緒にやっていたのですが、製造してもらっていた業者が撤退しました。
しかも、昨今のコロナショックやウクライナの戦争で、鉄やステンレスといった資材の仕入れ価格が高騰しました。それでは安定した車両の製造につながりません。
「どうしようか」と考えた時に、「いっそ自分のところでつくってしまおう」という発想に至りました。
自社で馬運車をつくれば、毎日トラックを扱うドライバーの意見を直に反映できます。

毎日乗っていただけるお客様から、「こんなのでできない?」という声をいただいた場合でも、すぐに反映できます。今までにない馬運車ができるようになるのです。

営業戦略とビジネスパートナーの育成

ーー競走馬の輸送は日本中央競馬会とのお取り引きだと思いますが、どのような仕組みになっていますか?

鷹野衛:契約先は日本中央競馬会です。入札を経て、輸送費の契約を本部と交わしています。ですが、馬の発注に関しては契約書はなく、そこは信頼なのです。

「鷹野さん輸送お願いします」という馬の発注は、調教師からいただきます。調教師からの信頼があってはじめて、その馬の発注をいただけます。
ですので、荷主は日本中央競馬会ですが、輸送費の支払い契約先と馬の発注契約先は別なのです。両方からの信頼を獲得できないと、この輸送は成立しません。

ーー人材の採用は考えていますか?

鷹野衛:
この先、ドライバーの採用は増やしていきたいと考えています。
今年の1月に新社屋が完成しました。この新社屋で、鷹野運送と4年前にM&Aで合併した竹内運送がグループになって共同輸送を試みている中で、今後輸送量が増加していく見込みです。やはり、ドライバーの増員は必須になってきます。

また、お得意様の数が年々増えていっているので、営業人員の増員も考えています。
営業というのは、調教師の方とのコミュニケーションをとるのが仕事です。当社のスタッフは、日常的に調教師や調教助手、牧場関係者と打ち合わせを行い、輸送の段取りをしてくれています。

ーー未経験者でもできるものでしょうか?

鷹野衛:
逆に、経験がない真っ白な方がいいと思います。競馬の馬を見て「馬が好きなんです」と憧れを抱く方が来られても、現実を見たときに、衝撃を受けることが多いです。現実は当然、馬の排泄物も掃除するし、とんでもない猛獣のような馬もいますから、なまじ経験や知識がない方がいいと思います。

ーー運送業界では2024年問題が深刻ですが、これについてどうお考えですか?

鷹野衛:
業界それぞれにいろいろと悩みはあると思いますが、良くするのも悪くするのも、自分次第だと思います。良い方向に持っていくのも悪い方向に持っていくのも、本当に全部自分次第です。自分の生き方、やり方、考え方次第、付き合い方次第だと思っています。
だから「世の中がこうだからダメだ」というような考えには、僕はなりません。
問題を一つひとつクリアしながらコツコツ進んでいれば必ず道は開けていくと思います。

編集後記

“英雄”の二つ名を持つディープインパクトなど、競馬ファンに人気の競走馬に携わるも、あくまで自分たちの仕事は裏方、縁の下の力持ちだと強調する鷹野社長。
デリケートな競走馬をベストコンディションで運ぶために、ときには採算度外視でトラックの改良に力を入れ、遂には馬運車製造の会社まで設立した。鷹野運送の飽くなき探求と挑戦はこれからも続く。

鷹野衛(たかの・まもる)/1981年神奈川県生まれ。神戸国際大学卒。2003年株式会社PAL入社。2004年鷹野運送株式会社入社。2006年同社代表取締役就任。2018年竹内運送株式会社とM&A、同社代表取締役に就任。2023年TAKANO WORKS株式会社を設立し、競走馬輸送車両の製造にも取組む。