※本ページ内の情報は2023年12月時点のものです。

2019年に26兆円あった外食産業の国内市場規模は、新型コロナの影響で約17兆円まで大幅減少した。しかし回復期の現在、インバウンド需要の活況を1つの突破口に、巻き返しの動きが活発化している。

厨房機器を製造販売するタニコー株式会社(1946年創業、東京都品川区)は、オーダーメイドを強みに大手飲食チェーンへの供給を拡大してきた有力メーカー。環境の変化に応じた新技術の開発や巧みな営業手法を駆使してブランド力を強化してきた。

業界をリードする同社の経営スタンスや新規開拓、若手育成について代表取締役社長の谷口秀一氏に詳しく話を聞いた。

大手飲食チェーンを納得させるオーダーメイド製品

ーー他社と比べて独自の強みはどんなところでしょうか?

谷口秀一:
同じぐらいの規模の厨房機器メーカーはいくつかありますが、私たちが一番力を入れているのはお客様仕様の製品をつくることです。

量産品を大量につくって売り切るやり方ではなく、お客様から「どんなレシピを提供するのか、作業効率をどのように上げるか」を聞き出してオリジナル製品をつくっていきます。そのため売上の半分が自社工場製のオーダーメイド品であり、他社と差別化してきた原動力です。

ーーコロナ禍の影響をどのように捉えていますか?

谷口秀一:
新型コロナによって外食業界に新しい変化が生まれました。働く人が減ったため、お店は席数を減らさないといけない。すると売上が落ちるので単価を上げる必要があります。

トッピングのメニュー開発に力を入れて、お客様が「今日はこれを食べてみたい」と思わず手を伸ばして持っていく。これを手助けするのが私たちの仕事です。

私たちの取引はBtoB中心で相手は経営者です。今のような時代や状況を乗り越えようと必死に考えた結果、成功される方も出てきます。「問題を解決したお店を知ってますよ、こういう解決策がありますよ」と経営者に向けて提案していけることが、困難にも対処できる強みだと考えます。

飲食チェーン以外にも事業領域を拡大

ーーこれからの注力テーマについて教えてください。

谷口秀一:
私が社長になって特に力を入れているのはデザインです。商品のスペック自体は各社共に成熟してきておりますので、違いが出るのは設計やデザインの部分です。

1セット3000万円もする家庭用高級キッチンに参入しましたが、一般のお客様からは見えない業務用機器と違って、意匠性も重要になります。金額に見合うデザインに仕上げるために、感覚やスキルが鍛えられていくというメリットがあります。

最近は業務用向けで、主にホテルのデザインキッチンに進出しています。シェフが調理する姿がお客様から見える構造で、ライブ感を出した舞台装置のようなキッチン。デザイン力を鍛えるにはこれ以上の環境はありませんから、今後の会社の活力源にもなるでしょう。


ーー新規開拓はどのように進めていきますか?

谷口秀一:
お客様の経営課題の相談に乗ったり対話をしたりしながら、事業領域をどれだけ増やせるかを重視しています。

たとえばどんなに大きな飲食チェーン店であっても必ず1号店から始まりますから、これから多店舗展開を目指す個人店でも、営業をしっかりつけてフォローしています。

また直近はベーカリー事業にも力を入れています。ベーカリーオーブンの製品力には自信はありますが、それだけでは足りません。“タニコー”のパン屋さんへの知名度向上のために、こちらから業界に出向いていこうと、ベーカリーショールーム兼店舗をつくりました。

その結果、パン屋さんを開業する人が「ここで半年間修行させてもらえませんか?」と頼みに来るまでになりました。おいしいパンがつくれる製品と、相手に踏み込んでいく試みのおかげでベーカリー事業の方は順調に伸びています。

すべては手を挙げてチャレンジすることから始まる

ーー新人社員や若手社員の教育について教えてください。

谷口秀一:
社内研修には力を入れていて、新卒社員は入社してからお盆まで新人研修を行います。営業の目的や数字を把握する意味を理論化した、独自に開発した営業理論を教えていきます。

そして、若手社員には新規営業にトライしてもらいます。ある時、若手営業マンが大手外食チェーンの社長に飛び込み営業をして、製品のご要望をもらってきました。仮に製造できてもオーダーをもらえるか分からない状況でしたが、上司や開発部門を説得して新しい製品を開発して提案しました。

それに顧客が感動して、全店舗入れ替えてくれたことがありました。私たちはいつも、効率的に儲けようとは思っておらず、仮に取引につながるか分からなくても、オーダーメイド品でたった一度の取引であろうとも、新しい製品開発に挑戦しています。

この件では若手社員の情熱も成功のカギとなりました。弊社には積極的に手を挙げてチャレンジするカルチャーがあります。自分からアイデアを出して責任者に名乗りを上げる風土があるからこそ、製品開発と顧客開拓に結びついていると考えます。

編集後記

タニコーの製品は『庫内300℃でも前面の温度は65℃のオーブン』や『揚げ時間が3分の1になる時短フライヤー』など、新技術の開発に余念がない。

かといって製品力だけに頼らず市場ニーズを研究し、顧客の課題解決のためにチャレンジを惜しまない姿勢には奥行きの深さを感じた。

戦国時代ともいえる外食産業の中でどのように切り盛りしていくのか、これからの動向に注目していきたい。

谷口秀一(たにぐち・しゅういち)/1961年生まれ、東京都出身。1983年武蔵野音楽大学(専攻ピアノ)卒業後、株式会社データ通信システム(現 株式会社DTS)入社。1986年北陸タニコー(現 株式会社タニコーテック)入社。1990年、同社取締役本部長就任。2006年6月、タニコー株式会社取締役就任。2008年、代表取締役専務就任。2010年、代表取締役社長に就任。